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1章 悪役貴族は屈しない
第38話 王の思い
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邪悪な怨嗟を叫ぶ勇者を見送りながら、王は玉座に深々と背中を預けた。
ここ数年、ずいぶんと鬱屈していた。
王という立場でありながら、ガチガチに縛られてなにも出来ない。
なにか独自の方針を打ち出そうとすると、宰相か将軍が邪魔をする。
それもこれも、ここ十年のあいだに貴族に権力が集中しすぎたことが原因だ。
一番の痛手は、王の懐刀であるファンケルベルク当主を喪ったことだ。
代替りをしたとはいえ、エルヴィンではまだ、貴族の掃除は難しい。
彼が育つまでの我慢……と思っていたが、それより早くこちらが傀儡にされてしまった。
もはや、己を出すことは叶わず。
もし出したならば、即刻隠居させられるだろう。
次期国王はまだ十歳だが、奴らには関係ない。
いや、完全なる傀儡に出来るので、早く息子にすげ替えたいとさえ思っているに違いない。
そんなおりに、この事件が起った。
王の目から見て、明らかに勇者アベルがおかしい。
だが、宰相も将軍も、他の貴族や近衛でさえ、エルヴィンを敵視していた。
(これは、操られとるな)
王族が魅了にかかれば、国が容易く乗っ取られる。
そのため対策は決して怠らない。現に、王の胸にあるペンダントは、魅了阻害効果がある。
これと同じ効果を持つものは他に二つしかなく、一つはヴァルトナー家が、もう一つはファンケルベルク家が代々受け継いでいる。
故に王は、周りが皆魅了状態であっても、唯一正気を保てていた。
だが、
(愚か者よの……)
勇者の用意した筋書きが酷い。
よほど頭の出来がよろしくないのだろう。糾弾する際の言葉など、頭痛を感じるほどだった。
うっかり口を出してしまいそうになるのをぐっと堪えて眺めていると、思いがけない嬉しい発見があった。
ファンケルベルクの新たな当主エルヴィンだが、予想を遙かに超える才覚に恵まれていることがわかったのだ。
多くの人を見、実際に使ってきたアドレアだからわかる。
これは歴代ファンケルベルクの中で随一だ。
あまりに突出しすぎていて、比べることさえ馬鹿馬鹿しくなるほど輝いている。
ファンケルベルクの倅が、これほどの男だったことが嬉しくなり、アドレアはついつい助け船を出してしまう。
どのみち、知能指数の低い茶番にはうんざりしていたところだ。
そろそろちょっぴり刺激が欲しいだろう?
「この無礼者! 勇者が証言しておるのに、聖女を殺害したと一向に認めようとせぬ恥知らずめ!」
アドレアがファンケルベルクの倅を見た。
実に文句を言いたそうな顔つきである。
あの目、絶対心の中でジジィとか言ってるな。
王の自分に対してジジィか。
あの父と似た反応を示したことに、嬉しくなる。
「貴様のような悪の貴族は、余が自ら成敗してくれるー!」
誰も死なない程度の風魔法を放つ。
しかし、あまりに久しぶりだったため、肩に力が入り――加減を誤った。
軽く魔力を励起しただけで、大気のマナが振動する。
(あっ……)
まずいと思ったがもう遅い。
危険な風魔法が自らの手より放れていく。
風魔法は次々と近衛兵をなぎ倒し、横に控えた低級貴族を巻き添えにしてやっと止まった。
こりゃあ、酷い……。
「テ……抵抗するデナイ」
なんとかその場を取り繕うも、
(俺のせいにすんなジジィ!)
エルヴィンの冷たい視線が突き刺さる。
ぐぬぬ。
(な、なんとかせい!)
(しゃーないなあ)
「……くっくっく。バレてしまってはしょうがない。陛下がおっしゃる通り、ファンケルベルクは悪の貴族だ。しかし今ここで捕まるわけにはいかぬ。サラバダ!」
(なんだそのアドリブ、下手くそだなおい!)
戦闘の才覚には恵まれたが、即興の演技はてんでダメらしい。
「待つノジャー」
窓ガラスに走った倅に、後ろから祝砲――もといエアバズーカを見舞った。
ガラスが粉砕されるが、倅の背中に当たった魔法は不自然にかき消えた。
(ほう? 魔法が効きづらいという噂は聞いていたが、本当に効かないのだな)
その直後、謁見の間に煙が充満した。
臭いを嗅ぐとすぐに、主成分が『目覚めの草』だとわかる。
王家では必ず常備している薬の一つだ。
この煙が焚かれたということは、喜劇もそろそろ終演だ。
『目覚めの草』には魅了を解除する成分が含まれている。
その成分を煙として吸い込んだ者達は、魅了が解けて理性が戻る。
理性が戻ると、魅了状態だった時のことを忘れるか? ――否。
すべて、覚えている。
そして、その時に理性が感じていた違和感も、すべて覚えている。
故に、自身の身に何が起ったのかをすぐに理解する。
即座に勇者の糾弾が始まった。
追い詰められた勇者が逃走。即座に追ってを差し向ける。
ただ、腐っていても勇者だ。
聖皇国の間者の手を借りれば、逃亡は容易いだろう。
「さて、と」
この一件で、ファンケルベルクには大きな借りが出来た。
全員の魅了を王の前で解除し、言い逃れ出来ない状態にした。
宰相や将軍に、『他国の特使に魅了され、好き放題にされた』という大きな弱みが、堂々得られたのだ。
これでアドレアは傀儡を脱し、自由に動けるようになる。
一瞬でアドレアの立場を把握し、流れるように最善の一手を放つ。
それも、正義の側からではなく、悪の側からだ。
まさに、ファンケルベルクらしい手管である。
(この借りは、高くつくだろうな)
どれほどのものを返さねばならないか考えると、いまから頭が痛いアドレアであった。
ここ数年、ずいぶんと鬱屈していた。
王という立場でありながら、ガチガチに縛られてなにも出来ない。
なにか独自の方針を打ち出そうとすると、宰相か将軍が邪魔をする。
それもこれも、ここ十年のあいだに貴族に権力が集中しすぎたことが原因だ。
一番の痛手は、王の懐刀であるファンケルベルク当主を喪ったことだ。
代替りをしたとはいえ、エルヴィンではまだ、貴族の掃除は難しい。
彼が育つまでの我慢……と思っていたが、それより早くこちらが傀儡にされてしまった。
もはや、己を出すことは叶わず。
もし出したならば、即刻隠居させられるだろう。
次期国王はまだ十歳だが、奴らには関係ない。
いや、完全なる傀儡に出来るので、早く息子にすげ替えたいとさえ思っているに違いない。
そんなおりに、この事件が起った。
王の目から見て、明らかに勇者アベルがおかしい。
だが、宰相も将軍も、他の貴族や近衛でさえ、エルヴィンを敵視していた。
(これは、操られとるな)
王族が魅了にかかれば、国が容易く乗っ取られる。
そのため対策は決して怠らない。現に、王の胸にあるペンダントは、魅了阻害効果がある。
これと同じ効果を持つものは他に二つしかなく、一つはヴァルトナー家が、もう一つはファンケルベルク家が代々受け継いでいる。
故に王は、周りが皆魅了状態であっても、唯一正気を保てていた。
だが、
(愚か者よの……)
勇者の用意した筋書きが酷い。
よほど頭の出来がよろしくないのだろう。糾弾する際の言葉など、頭痛を感じるほどだった。
うっかり口を出してしまいそうになるのをぐっと堪えて眺めていると、思いがけない嬉しい発見があった。
ファンケルベルクの新たな当主エルヴィンだが、予想を遙かに超える才覚に恵まれていることがわかったのだ。
多くの人を見、実際に使ってきたアドレアだからわかる。
これは歴代ファンケルベルクの中で随一だ。
あまりに突出しすぎていて、比べることさえ馬鹿馬鹿しくなるほど輝いている。
ファンケルベルクの倅が、これほどの男だったことが嬉しくなり、アドレアはついつい助け船を出してしまう。
どのみち、知能指数の低い茶番にはうんざりしていたところだ。
そろそろちょっぴり刺激が欲しいだろう?
「この無礼者! 勇者が証言しておるのに、聖女を殺害したと一向に認めようとせぬ恥知らずめ!」
アドレアがファンケルベルクの倅を見た。
実に文句を言いたそうな顔つきである。
あの目、絶対心の中でジジィとか言ってるな。
王の自分に対してジジィか。
あの父と似た反応を示したことに、嬉しくなる。
「貴様のような悪の貴族は、余が自ら成敗してくれるー!」
誰も死なない程度の風魔法を放つ。
しかし、あまりに久しぶりだったため、肩に力が入り――加減を誤った。
軽く魔力を励起しただけで、大気のマナが振動する。
(あっ……)
まずいと思ったがもう遅い。
危険な風魔法が自らの手より放れていく。
風魔法は次々と近衛兵をなぎ倒し、横に控えた低級貴族を巻き添えにしてやっと止まった。
こりゃあ、酷い……。
「テ……抵抗するデナイ」
なんとかその場を取り繕うも、
(俺のせいにすんなジジィ!)
エルヴィンの冷たい視線が突き刺さる。
ぐぬぬ。
(な、なんとかせい!)
(しゃーないなあ)
「……くっくっく。バレてしまってはしょうがない。陛下がおっしゃる通り、ファンケルベルクは悪の貴族だ。しかし今ここで捕まるわけにはいかぬ。サラバダ!」
(なんだそのアドリブ、下手くそだなおい!)
戦闘の才覚には恵まれたが、即興の演技はてんでダメらしい。
「待つノジャー」
窓ガラスに走った倅に、後ろから祝砲――もといエアバズーカを見舞った。
ガラスが粉砕されるが、倅の背中に当たった魔法は不自然にかき消えた。
(ほう? 魔法が効きづらいという噂は聞いていたが、本当に効かないのだな)
その直後、謁見の間に煙が充満した。
臭いを嗅ぐとすぐに、主成分が『目覚めの草』だとわかる。
王家では必ず常備している薬の一つだ。
この煙が焚かれたということは、喜劇もそろそろ終演だ。
『目覚めの草』には魅了を解除する成分が含まれている。
その成分を煙として吸い込んだ者達は、魅了が解けて理性が戻る。
理性が戻ると、魅了状態だった時のことを忘れるか? ――否。
すべて、覚えている。
そして、その時に理性が感じていた違和感も、すべて覚えている。
故に、自身の身に何が起ったのかをすぐに理解する。
即座に勇者の糾弾が始まった。
追い詰められた勇者が逃走。即座に追ってを差し向ける。
ただ、腐っていても勇者だ。
聖皇国の間者の手を借りれば、逃亡は容易いだろう。
「さて、と」
この一件で、ファンケルベルクには大きな借りが出来た。
全員の魅了を王の前で解除し、言い逃れ出来ない状態にした。
宰相や将軍に、『他国の特使に魅了され、好き放題にされた』という大きな弱みが、堂々得られたのだ。
これでアドレアは傀儡を脱し、自由に動けるようになる。
一瞬でアドレアの立場を把握し、流れるように最善の一手を放つ。
それも、正義の側からではなく、悪の側からだ。
まさに、ファンケルベルクらしい手管である。
(この借りは、高くつくだろうな)
どれほどのものを返さねばならないか考えると、いまから頭が痛いアドレアであった。
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