70 / 92
悪役領主はひれ伏さない
第70話 ここはどこ?
しおりを挟む
「今は諦めたほうがいいわよ」
「でも――」
「焦らないで。ほとぼりが冷めるまでの我慢よ。それまでニーナをここでかくまってあげるから」
「いやいや、さすがにそれは悪いよ。だって、迷惑かかるし」
「いいのよ。だってわたしたち、親友じゃない」
「親友……」
カーラの言葉に、ニーナは胸がじんとする。
現状、組織の誰が味方かわからない。そんな状況で、幼なじみの――それも大司教が自分の味方に付いてくれることほど、心強いものはない。
目頭が熱くなるけど、持ち前の負けん気でぐっと堪える。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。宜しくお願いします」
「お願いされます。さて、一度お茶にしましょうか」
懺悔室を出て、カーラの部屋に入る。
中は大司教とは思えないほど質素だ。
年季の入った椅子に座りしばらくすると、カーラがティーセットを運んできた。
紅茶にスコーンにバター、それにジャムが少々。
「ジャムが付くなんてリッチね」
「久しぶりの再会なんだもの、贅沢したっていいじゃない」
「それもそうね」
ジャムなんて高級品、口にするのはいつぶりか。
苺の香りがするジャムをちょっぴり塗って、バターをのせる。
「ところで、ニーナは勇者が本国に戻ってから、どこに隠れてたの?」
「……いろいろよ」
思い出したくない、という素振りでぶっきらぼうに答える。
実際は、ファンケルベルクの街にいた。大司教として活動している、などと答えられるはずがない。
そんなことを口にすれば、頑張って大司教になったカーラの顔に泥を塗ってしまう。
(アタシが大司教なのは偶然。競争相手もいなかったし、ほとんどエルヴィンのせいだし……)
『俺は、ニーナだから頼んでいるのだ』
エルヴィンの強い視線をうっかり思い出して、ニーナは即座にかき消した。
喉に詰まりそうになるスコーンを、紅茶で流し込む。
香りが強く、苦い紅茶が、口の中でジャムとバターを溶かして流れていく。
すべて消えた後、舌の奥に強い甘みが残った。
「……ふぅ。美味しいわね」
「そうでしょう? これ、本国から取り寄せた紅茶なの。最近流行ってるらしいわよ」
「へえ。でも、お高いんでしょ?」
「そうでもないのよ。茶葉は普通のものなんだけど、製法が違うとか」
「アタシも少し欲しいなあ」
「今度取り寄せてあげるわね」
「ありがと。……ふわぁ」
カーラに出会えて緊張の糸が解けたからか。
ニーナは強い睡魔に襲われた。
目をこするが、瞼が重い。
「ここまで長い旅をしてきたんでしょう? 少し眠るといいわよ」
「うん……そうする」
瞼を瞑ると、ニーナの意識は不自然なほどプツンと切断された。
頭がぐらぐらする。
まるで船の上にいるみたいだ。
体を動かそうとすると、ガシャンという音とともに手首がなにかに引っかかった。
「ん?」
違和感に気づき、瞼を開く。
「ええと、ここは……」
目の前には、柵があった。
窓もない部屋はジメジメしていて肌寒い。
手首は鎖によって、壁と繋がれている。
「まさか、牢屋?」
なんとか否定したいが、見た目から牢屋以外あり得ない。
「どうして……」
先ほどまで、自分はカーラとお茶をしていたはずだ。
なのに目が覚めたら牢屋に繋がれていた。
まさか、寝ているあいだに異端審問官か誰かが来て、自分を捕らえたのでは?
(カーラは大丈夫かしら? アタシをかくまっていたことがバレたら、あの子だってただじゃ済まないはずよね)
自分が捕らわれたことよりも、親友の身を案じて、胸が苦しくなった。
その時だった。
牢屋の向こうから、何者かの足音が聞こえた。
その者が目の前に現れた時、ニーナの呼吸が止まった。
「おはようニーナ。そんな姿勢でよくぐっすり眠れたわね」
「……」
目の前に現れたのは、幼なじみで親友の、カーラだった。
何故、どうして……。
頭が真っ白になって、何も考えられない。
「やっぱり粗野な生まれだと、牢屋でも安眠出来るのかしら?」
「カーラ、これは、どういうことなの?」
「どうもこうも、匿ってるのよ。あなたを直接教皇様の元に届けるためにね」
「アタシを、売るつもり……だったの?」
「売るなんてとんでもない。献上するのよ」
「――ッ! なんで、こんなことをするのよ! アタシたち、親友でしょ!?」
「親友ぅ?」
カーラの目がつり上がり、口の端が不機嫌に垂れ下がった。
「吐き気がするわ。誰が親友ですって? あなたのことなんて、一度たりとも親友なんて思ったことはないわよ」
「そ、そんな……」
「あなたは入信当初から雲の上にいたからわからないでしょうね。わたしのような、なんの才能もないシスターが、どれほどの辛酸をなめさせられたか!」
「でも、カーラはイングラムの大司教になれたじゃない! 才能がないなんて――」
「まさか、実力で上がったとでも思ってるの? ああ、甘いわね。その甘さに反吐が出るわ! 努力しても結果が出ない人種が、世の中にはたくさんいるのよ! わたしだって努力した。努力した結果、なんの成果も上がらなかったの!
わたしは努力で大司教になったんじゃない。体を売って、偉い人に取り入って、のし上がったのよッ!」
充血したカーラの目を見れば、それがいかに地獄の行程だったかが窺える。
「昔から、そういう甘いところが嫌いだったのよ――」
「でも――」
「焦らないで。ほとぼりが冷めるまでの我慢よ。それまでニーナをここでかくまってあげるから」
「いやいや、さすがにそれは悪いよ。だって、迷惑かかるし」
「いいのよ。だってわたしたち、親友じゃない」
「親友……」
カーラの言葉に、ニーナは胸がじんとする。
現状、組織の誰が味方かわからない。そんな状況で、幼なじみの――それも大司教が自分の味方に付いてくれることほど、心強いものはない。
目頭が熱くなるけど、持ち前の負けん気でぐっと堪える。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。宜しくお願いします」
「お願いされます。さて、一度お茶にしましょうか」
懺悔室を出て、カーラの部屋に入る。
中は大司教とは思えないほど質素だ。
年季の入った椅子に座りしばらくすると、カーラがティーセットを運んできた。
紅茶にスコーンにバター、それにジャムが少々。
「ジャムが付くなんてリッチね」
「久しぶりの再会なんだもの、贅沢したっていいじゃない」
「それもそうね」
ジャムなんて高級品、口にするのはいつぶりか。
苺の香りがするジャムをちょっぴり塗って、バターをのせる。
「ところで、ニーナは勇者が本国に戻ってから、どこに隠れてたの?」
「……いろいろよ」
思い出したくない、という素振りでぶっきらぼうに答える。
実際は、ファンケルベルクの街にいた。大司教として活動している、などと答えられるはずがない。
そんなことを口にすれば、頑張って大司教になったカーラの顔に泥を塗ってしまう。
(アタシが大司教なのは偶然。競争相手もいなかったし、ほとんどエルヴィンのせいだし……)
『俺は、ニーナだから頼んでいるのだ』
エルヴィンの強い視線をうっかり思い出して、ニーナは即座にかき消した。
喉に詰まりそうになるスコーンを、紅茶で流し込む。
香りが強く、苦い紅茶が、口の中でジャムとバターを溶かして流れていく。
すべて消えた後、舌の奥に強い甘みが残った。
「……ふぅ。美味しいわね」
「そうでしょう? これ、本国から取り寄せた紅茶なの。最近流行ってるらしいわよ」
「へえ。でも、お高いんでしょ?」
「そうでもないのよ。茶葉は普通のものなんだけど、製法が違うとか」
「アタシも少し欲しいなあ」
「今度取り寄せてあげるわね」
「ありがと。……ふわぁ」
カーラに出会えて緊張の糸が解けたからか。
ニーナは強い睡魔に襲われた。
目をこするが、瞼が重い。
「ここまで長い旅をしてきたんでしょう? 少し眠るといいわよ」
「うん……そうする」
瞼を瞑ると、ニーナの意識は不自然なほどプツンと切断された。
頭がぐらぐらする。
まるで船の上にいるみたいだ。
体を動かそうとすると、ガシャンという音とともに手首がなにかに引っかかった。
「ん?」
違和感に気づき、瞼を開く。
「ええと、ここは……」
目の前には、柵があった。
窓もない部屋はジメジメしていて肌寒い。
手首は鎖によって、壁と繋がれている。
「まさか、牢屋?」
なんとか否定したいが、見た目から牢屋以外あり得ない。
「どうして……」
先ほどまで、自分はカーラとお茶をしていたはずだ。
なのに目が覚めたら牢屋に繋がれていた。
まさか、寝ているあいだに異端審問官か誰かが来て、自分を捕らえたのでは?
(カーラは大丈夫かしら? アタシをかくまっていたことがバレたら、あの子だってただじゃ済まないはずよね)
自分が捕らわれたことよりも、親友の身を案じて、胸が苦しくなった。
その時だった。
牢屋の向こうから、何者かの足音が聞こえた。
その者が目の前に現れた時、ニーナの呼吸が止まった。
「おはようニーナ。そんな姿勢でよくぐっすり眠れたわね」
「……」
目の前に現れたのは、幼なじみで親友の、カーラだった。
何故、どうして……。
頭が真っ白になって、何も考えられない。
「やっぱり粗野な生まれだと、牢屋でも安眠出来るのかしら?」
「カーラ、これは、どういうことなの?」
「どうもこうも、匿ってるのよ。あなたを直接教皇様の元に届けるためにね」
「アタシを、売るつもり……だったの?」
「売るなんてとんでもない。献上するのよ」
「――ッ! なんで、こんなことをするのよ! アタシたち、親友でしょ!?」
「親友ぅ?」
カーラの目がつり上がり、口の端が不機嫌に垂れ下がった。
「吐き気がするわ。誰が親友ですって? あなたのことなんて、一度たりとも親友なんて思ったことはないわよ」
「そ、そんな……」
「あなたは入信当初から雲の上にいたからわからないでしょうね。わたしのような、なんの才能もないシスターが、どれほどの辛酸をなめさせられたか!」
「でも、カーラはイングラムの大司教になれたじゃない! 才能がないなんて――」
「まさか、実力で上がったとでも思ってるの? ああ、甘いわね。その甘さに反吐が出るわ! 努力しても結果が出ない人種が、世の中にはたくさんいるのよ! わたしだって努力した。努力した結果、なんの成果も上がらなかったの!
わたしは努力で大司教になったんじゃない。体を売って、偉い人に取り入って、のし上がったのよッ!」
充血したカーラの目を見れば、それがいかに地獄の行程だったかが窺える。
「昔から、そういう甘いところが嫌いだったのよ――」
33
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜
ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」
「街の井戸も空っぽです!」
無能な王太子による身勝手な婚約破棄。
そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを!
ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。
追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!?
優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。
一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。
「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——!
今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける!
※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる