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悪役領主はひれ伏さない
第82話 判明する真の狙い
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地面に倒れたハイターの亡骸を見て、ハンナは口を尖らせた。
「強力すぎる武器というのも、使い勝手が悪いものですね」
ハンナは今回の戦闘で、エルヴィンから下賜されたナイフの性能の試験を行っていた。
音もなく肉や骨を断てるほどの鋭さは、暗殺にはよく向いている。
しかし、あまりに鋭すぎて――地面に倒れ込んだハイターのように――自分が想定していた以上に相手を壊してしまう。
これではあまりに美しくない。
「まさか、ここまで切れるとは思いませんでした」
そもそも、額の骨はかなり硬い。
にも拘わらず、刃を止めるどころか手応えさえ感じないとは予想もしていなかった。
「そっちは終わったか?」
「ええ、終わりました」
「さすがに古い貴族の処理は俺には無理だからな――って、ひでぇな」
合流したユルゲンが、足下に広がる惨状に顔をしかめた。
「お前にしては汚ねぇ殺しだな。よほどむかつくことでも言われたのか?」
「いえ。まあ、存在自体は汚物だとは思いましたが――」
「自然体でヒデェな」
「ここまで壊すほどではありませんでした。少し、ナイフの性能を見誤っていました」
「大将から貰った武器か」
「ええ。これまで使っていたものと比べると、あまりに切れ味が良すぎます。さすがはエルヴィン様が選んだだけはありますね」
「それなンだが、どうも武器だけのせいじゃねぇンじゃねえか?」
「……と言いますと?」
ユルゲンは腰にさした杖を抜き取った。
それもまた、エルヴィンから下賜された武器の一つだ。
ハンナの墜星の投剣『シューティングスター』。
ユルゲンの空杖の落隕『メテオスウォーム』。
カラスの星辰の崩砡《ほうぎょく》『エンド・オブ・センス』。
いずれも、今から数千年前の神遺物《レリック》である。
ハンナの短剣は、鉄を紙のように切裂けるほどの鋭さを持ちつつ、投擲後に自分の手に転移させられる高度な魔法が付与されている。
ユルゲンの杖は、行使する魔法のコントロール性能を底上げする。まるで指先を動かすように魔法を操れる上、火や焦熱属性を使用する場合は威力が倍化する機能まで付いている。
カラスの砡は、対象とする相手の理性を乱す弱体化魔法《デバフ》を、魔力を使わず使用出来る。使用するデバフも使用者が選べる上、全種類同時に使用することも可能だ。
これほど恐るべき性能をもつアイテムは、現代にはまず存在しない。
一つで国が買えるといっても決して過言ではない程だ。
そのような強力な武器を使った結果、暗殺対象をぐちゃぐちゃに壊してしまったとハンナは思っていたのだが……。
「肉体性能が上がってねぇか?」
「そうですか? よくわかりません」
「なンでだよ」
「未だに若返っている途中なので」
「あー……」
ハンナはつやつやした肌を誇示するかのように、ぐいっと顎を突き上げた。
今から六年ほど前に、エルヴィンに寿命を半減する強力な呪いを解いて貰って以来、ずっと若返り続けている。
といっても、一年に十歳(人間でいうところの1歳程度だ)若返るくらいなので、失った寿命を取り戻すにはまだかなりの年月がかかるだろう。
若返っているのは美貌だけではない。
肉体もまた若い時代――全盛期へと戻っている最中だ。
そのため能力が上がったのではないかと尋ねられても、〝上がった〟のか〝戻ったの〟かが、よくわからない。
「俺が全力で戦ったのは半年以上前だが、今日ほど肉体性能が高かったとは思わねぇんだよ」
「半年以上前となると、森の掃討戦を行っていた時ですね」
「ああ。その頃と今は、雲泥の差がある。ハンナが〝ゴミ〟をここまで壊したのは、肉体性能が大幅に上がったからじゃねぇか?」
「となると、武器そのものに、身体能力向上の魔法が?」
「カラスが調べた限りじゃ、そんな能力上昇魔法はかかってなかったはずだが」
「……原因がわかりませんね」
頭を悩ませてる二人には、わからない。
急速な能力上昇の原因が、エルヴィンのレベルアップにあることを……。
エルヴィンがレベルを上げると同時に、正式加入していない仲間たちのレベルも上昇する。
そんな神のシステム――〝呪縛〟を知らないハンナたちは、結局能力上昇の考察を諦める。
「そういえば、カラスはどうしましたか?」
「ああ、少し気になることがあるって、その辺で情報収集してるはずだぜ」
「気になること、ですか?」
「ああ。大将が俺たちに強力なアイテムを与えただろ? それに対して、俺たちが考えた大将からの課題が簡単すぎるってな」
「確かに簡単ではありましたが、そこまで違和感がありますか?」
「あー、これもカラスの話だが、大将が〝ここまで急いだ意味〟とやらがわからないンだってよ」
「素早く敵国を落として、他国からの襲撃に備えるとか、そのようなところでは?」
「俺もそうだとは思うンだけどな」
今回の作戦は、使用人たちにとって青天の霹靂。
あまりの進行の早さに、後に続くだけでも課題だと思えるほどだった。
だが、カラスの懸念も理解出来る。
ハンナもユルゲンも、戦闘に関してはいささか簡単すぎると感じていた。
電光石火の作戦を遂行するにあたり下賜された遺物は、あまりに戦力増強が過剰すぎた。
ハンナたちが考え込んでいると、ふわり屋根の上からカラスが舞い降りた。
「わかりました。やっと、エルヴィン様の真の狙いがわかりましたッ!!」
その言葉と同時に、ハンナとユルゲンが素早く身構えた。
いつもとは違う切迫したカラスの様子から、尋常でない事件の発生を予感した。
さらに二人の卓越した感覚が、この国の外側から並々ならぬ死の気配を感じとった。
「その狙いとは?」
「これからなにと殺ろうってんだ?」
「エルヴィン様はこの国の、滅亡を阻止しようとされていますッ!!」
カラスが狙いを説明した直後、分厚い外壁が爆ぜる音がイングラム王国首都に響き渡ったのだった。
「強力すぎる武器というのも、使い勝手が悪いものですね」
ハンナは今回の戦闘で、エルヴィンから下賜されたナイフの性能の試験を行っていた。
音もなく肉や骨を断てるほどの鋭さは、暗殺にはよく向いている。
しかし、あまりに鋭すぎて――地面に倒れ込んだハイターのように――自分が想定していた以上に相手を壊してしまう。
これではあまりに美しくない。
「まさか、ここまで切れるとは思いませんでした」
そもそも、額の骨はかなり硬い。
にも拘わらず、刃を止めるどころか手応えさえ感じないとは予想もしていなかった。
「そっちは終わったか?」
「ええ、終わりました」
「さすがに古い貴族の処理は俺には無理だからな――って、ひでぇな」
合流したユルゲンが、足下に広がる惨状に顔をしかめた。
「お前にしては汚ねぇ殺しだな。よほどむかつくことでも言われたのか?」
「いえ。まあ、存在自体は汚物だとは思いましたが――」
「自然体でヒデェな」
「ここまで壊すほどではありませんでした。少し、ナイフの性能を見誤っていました」
「大将から貰った武器か」
「ええ。これまで使っていたものと比べると、あまりに切れ味が良すぎます。さすがはエルヴィン様が選んだだけはありますね」
「それなンだが、どうも武器だけのせいじゃねぇンじゃねえか?」
「……と言いますと?」
ユルゲンは腰にさした杖を抜き取った。
それもまた、エルヴィンから下賜された武器の一つだ。
ハンナの墜星の投剣『シューティングスター』。
ユルゲンの空杖の落隕『メテオスウォーム』。
カラスの星辰の崩砡《ほうぎょく》『エンド・オブ・センス』。
いずれも、今から数千年前の神遺物《レリック》である。
ハンナの短剣は、鉄を紙のように切裂けるほどの鋭さを持ちつつ、投擲後に自分の手に転移させられる高度な魔法が付与されている。
ユルゲンの杖は、行使する魔法のコントロール性能を底上げする。まるで指先を動かすように魔法を操れる上、火や焦熱属性を使用する場合は威力が倍化する機能まで付いている。
カラスの砡は、対象とする相手の理性を乱す弱体化魔法《デバフ》を、魔力を使わず使用出来る。使用するデバフも使用者が選べる上、全種類同時に使用することも可能だ。
これほど恐るべき性能をもつアイテムは、現代にはまず存在しない。
一つで国が買えるといっても決して過言ではない程だ。
そのような強力な武器を使った結果、暗殺対象をぐちゃぐちゃに壊してしまったとハンナは思っていたのだが……。
「肉体性能が上がってねぇか?」
「そうですか? よくわかりません」
「なンでだよ」
「未だに若返っている途中なので」
「あー……」
ハンナはつやつやした肌を誇示するかのように、ぐいっと顎を突き上げた。
今から六年ほど前に、エルヴィンに寿命を半減する強力な呪いを解いて貰って以来、ずっと若返り続けている。
といっても、一年に十歳(人間でいうところの1歳程度だ)若返るくらいなので、失った寿命を取り戻すにはまだかなりの年月がかかるだろう。
若返っているのは美貌だけではない。
肉体もまた若い時代――全盛期へと戻っている最中だ。
そのため能力が上がったのではないかと尋ねられても、〝上がった〟のか〝戻ったの〟かが、よくわからない。
「俺が全力で戦ったのは半年以上前だが、今日ほど肉体性能が高かったとは思わねぇんだよ」
「半年以上前となると、森の掃討戦を行っていた時ですね」
「ああ。その頃と今は、雲泥の差がある。ハンナが〝ゴミ〟をここまで壊したのは、肉体性能が大幅に上がったからじゃねぇか?」
「となると、武器そのものに、身体能力向上の魔法が?」
「カラスが調べた限りじゃ、そんな能力上昇魔法はかかってなかったはずだが」
「……原因がわかりませんね」
頭を悩ませてる二人には、わからない。
急速な能力上昇の原因が、エルヴィンのレベルアップにあることを……。
エルヴィンがレベルを上げると同時に、正式加入していない仲間たちのレベルも上昇する。
そんな神のシステム――〝呪縛〟を知らないハンナたちは、結局能力上昇の考察を諦める。
「そういえば、カラスはどうしましたか?」
「ああ、少し気になることがあるって、その辺で情報収集してるはずだぜ」
「気になること、ですか?」
「ああ。大将が俺たちに強力なアイテムを与えただろ? それに対して、俺たちが考えた大将からの課題が簡単すぎるってな」
「確かに簡単ではありましたが、そこまで違和感がありますか?」
「あー、これもカラスの話だが、大将が〝ここまで急いだ意味〟とやらがわからないンだってよ」
「素早く敵国を落として、他国からの襲撃に備えるとか、そのようなところでは?」
「俺もそうだとは思うンだけどな」
今回の作戦は、使用人たちにとって青天の霹靂。
あまりの進行の早さに、後に続くだけでも課題だと思えるほどだった。
だが、カラスの懸念も理解出来る。
ハンナもユルゲンも、戦闘に関してはいささか簡単すぎると感じていた。
電光石火の作戦を遂行するにあたり下賜された遺物は、あまりに戦力増強が過剰すぎた。
ハンナたちが考え込んでいると、ふわり屋根の上からカラスが舞い降りた。
「わかりました。やっと、エルヴィン様の真の狙いがわかりましたッ!!」
その言葉と同時に、ハンナとユルゲンが素早く身構えた。
いつもとは違う切迫したカラスの様子から、尋常でない事件の発生を予感した。
さらに二人の卓越した感覚が、この国の外側から並々ならぬ死の気配を感じとった。
「その狙いとは?」
「これからなにと殺ろうってんだ?」
「エルヴィン様はこの国の、滅亡を阻止しようとされていますッ!!」
カラスが狙いを説明した直後、分厚い外壁が爆ぜる音がイングラム王国首都に響き渡ったのだった。
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