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悪役領主はひれ伏さない
第85話 傷跡
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俺は確かに、聖女の肩口にナイフが突き刺さるのを見た。
だが今確認すると、ニーナの白い服に赤いシミは一つもない。
……あれぇ?
もしかして、早とちっちゃった?
いやいや。
たしかに刺されたってば!
刺された箇所を実際に確認すべく、衿を引く。
「ちょっ待てオイ」
「いでで……」
聖女に思いっきり鼻を掴まれた。
「どさくさに紛れて何すんのよ。えっち」
「ち、違う。傷を確認しようとしたんだ」
「傷なんてないって――あれ?」
首筋に手を当てたニーナが、眉根を寄せた。
どうやらなにか手に触れたらしい。
軽く衿を持ち上げ、俺から隠すように体勢を変えながら覗き込んだ。
「あっ、あるね」
ほんの一瞬だったが、俺にも見えた。
形は違うが、プロデニでも見た傷――聖痕があった。
そんな馬鹿な……。
あれは、魔王の魔法でコントロールされた勇者を、正気に戻すために背負った傷だったはず。
それが何故、今出現するんだ!?
……うん?
なんか思いのほか動揺してんな俺。
ニーナは死ななかったし、痛い思いをしなかっただろうから、いいじゃないか……。
――あっ、そっか。
プロデニやってた頃から思ってて、すっかり忘れてたけど、俺、こいつに傷ついてほしくなかったんだわ……。
だって、最後まで残る傷出来たのに、悲しい顔一切せずに笑うんだぜ?
これが勲章だって。
でも、俺はそれがすごく嫌だったんだよ。
ニーナの性格上、こういう時の笑顔が強がりだろうからな。
最後まで残る傷がつくイベントを避けるために、俺は『真実の瞳』を必死に入手しようとした。
もちろん俺が操られないためだけど、たぶん、そういう気持ちもあったんだと思う。
動揺している俺とは正反対に落ち着いている聖女が、地面に落ちた短剣を拾い上げた。
「あー、この短剣のせいで聖痕が出来たみたい」
「その短剣が、聖痕を?」
「そう。これは聖別の短剣って言って、イングラムの教会で昔から受け継がれてる神器なの。これ、清らかなものに祝福を与えるのよ。普通は儀式で果物を切るくらいにしか使わないはずなんだけど。〝やっぱり〟こうなるのねぇ」
「やっぱり?」
「ええ。何千年も前からあるし、一年に一回は儀式で大司教が使うから、中にはうっかり手を切っちゃうバカもいるでしょ?」
こいつ、ナチュラルに大司教をバカって言ったな。
まあ(カーラという例しか知らないから)否定は出来んが。
「それで、清らなかな人が切られたら聖痕が出来るって噂が、ごく一部でまことしやかに囁かれてるのよ」
「ほう、そうだったんだな。では、清らかでないものは、切ったらどうなるんだ?」
「消えるんじゃないかしら」
聖女が意味深な視線を俺に向ける。
いやいや。
俺ほど清らかな人間いないって。
「試そっか♪」
「遠慮しておこう」
大丈夫だとわかってても怖いからやらねぇよ。
おい聖女、俺に切っ先を向けるな!
マジで怖いから!
「それで、聖痕が出来たわけだが、残るんだろ、それ?」
「残るけど、アンタが気にしなくていいわよ」
「しかしなあ……」
「あっ、もしかして傷物になったって心配してくれてるの?」
「……別に」
「ふぅん、へえ、そうなんだ。うふふ」
聖女がニタニタ笑う。
なんかいらつく顔してんな……。
レベル99の敏捷にモノ言わせて、背後に回って膝かっくんしてやろうか。
「なんだよ」
「べっつにぃ。……まあ、そこまで心配しなくてもいいよ。聖痕って神様からの贈り物だから。これがあると神様との繋がりが深くなって、光魔法がより強くなるのよ」
「そ、そうなのか」
驚いた。
そんな設定があったんだな。
あー、でも確かに、あのイベントを乗り越えた後から急に、ニーナの聖魔法がパワーアップしたな。
てっきり勇者との絆が深まった効果だと思ってたが、聖痕のせいだったのか。
だが、それだったら勇者にその情報を開示してくれてても良さそうなんだが……。
なんであのルートじゃ、ニーナは設定を黙っていたんだ?
「これ、一応極秘事項だから。他の人に喋っちゃ駄目よ? もし喋ったら処刑されるかもだからね」
「そんな危険な情報を何気なく話すなよ」
「いいじゃない。だってアタシ破門されたし」
「お、おう」
「それにアンタ、すっごく悲しそうな顔してるんだもん」
「してないぞ」
俺には『大貴族の呪縛』っていう強力な表情筋があるんだ。
悲しい顔なんてするわけないだろ。
「まっ、そういうことにしといてあげるわ」
「なんで上からなんだよ。してないだろ?」
してないよな?
自信なくなってくるわ。
「真面目な話なんだけど、もし聖痕が光魔法の強化に繋がるってわかったらどうなると思う?」
「……ああ、なるほど」
聖魔法を強化したい輩が、こっそりこのナイフで自分を切りつけるようになる。
そして、中には邪な人間が混ざっているだろう。
聖痕を作ろうとして消えちゃった!(テヘッ♪
って光景が目に浮かぶわ。
別に教会で働いてるからって、みんながみんな清らかってわけじゃないからな。
「だから、一応大司教以下にはこの情報が伏せてあるのよ」
「聖女以上はいいのか」
「そもそも聖女って、聖痕に頼らなくても強い光魔法が使える人を言うのよ」
どや顔が腹立つが、お前の聖魔法ほんと強いからな……。
プロデニだと、『縛りプレイで聖女無双』ってスレが立つくらいだった。
ノーマルモードならラスボスワンパン出来るもんな、こいつ。
「枢機卿はいいのか?」
だが今確認すると、ニーナの白い服に赤いシミは一つもない。
……あれぇ?
もしかして、早とちっちゃった?
いやいや。
たしかに刺されたってば!
刺された箇所を実際に確認すべく、衿を引く。
「ちょっ待てオイ」
「いでで……」
聖女に思いっきり鼻を掴まれた。
「どさくさに紛れて何すんのよ。えっち」
「ち、違う。傷を確認しようとしたんだ」
「傷なんてないって――あれ?」
首筋に手を当てたニーナが、眉根を寄せた。
どうやらなにか手に触れたらしい。
軽く衿を持ち上げ、俺から隠すように体勢を変えながら覗き込んだ。
「あっ、あるね」
ほんの一瞬だったが、俺にも見えた。
形は違うが、プロデニでも見た傷――聖痕があった。
そんな馬鹿な……。
あれは、魔王の魔法でコントロールされた勇者を、正気に戻すために背負った傷だったはず。
それが何故、今出現するんだ!?
……うん?
なんか思いのほか動揺してんな俺。
ニーナは死ななかったし、痛い思いをしなかっただろうから、いいじゃないか……。
――あっ、そっか。
プロデニやってた頃から思ってて、すっかり忘れてたけど、俺、こいつに傷ついてほしくなかったんだわ……。
だって、最後まで残る傷出来たのに、悲しい顔一切せずに笑うんだぜ?
これが勲章だって。
でも、俺はそれがすごく嫌だったんだよ。
ニーナの性格上、こういう時の笑顔が強がりだろうからな。
最後まで残る傷がつくイベントを避けるために、俺は『真実の瞳』を必死に入手しようとした。
もちろん俺が操られないためだけど、たぶん、そういう気持ちもあったんだと思う。
動揺している俺とは正反対に落ち着いている聖女が、地面に落ちた短剣を拾い上げた。
「あー、この短剣のせいで聖痕が出来たみたい」
「その短剣が、聖痕を?」
「そう。これは聖別の短剣って言って、イングラムの教会で昔から受け継がれてる神器なの。これ、清らかなものに祝福を与えるのよ。普通は儀式で果物を切るくらいにしか使わないはずなんだけど。〝やっぱり〟こうなるのねぇ」
「やっぱり?」
「ええ。何千年も前からあるし、一年に一回は儀式で大司教が使うから、中にはうっかり手を切っちゃうバカもいるでしょ?」
こいつ、ナチュラルに大司教をバカって言ったな。
まあ(カーラという例しか知らないから)否定は出来んが。
「それで、清らなかな人が切られたら聖痕が出来るって噂が、ごく一部でまことしやかに囁かれてるのよ」
「ほう、そうだったんだな。では、清らかでないものは、切ったらどうなるんだ?」
「消えるんじゃないかしら」
聖女が意味深な視線を俺に向ける。
いやいや。
俺ほど清らかな人間いないって。
「試そっか♪」
「遠慮しておこう」
大丈夫だとわかってても怖いからやらねぇよ。
おい聖女、俺に切っ先を向けるな!
マジで怖いから!
「それで、聖痕が出来たわけだが、残るんだろ、それ?」
「残るけど、アンタが気にしなくていいわよ」
「しかしなあ……」
「あっ、もしかして傷物になったって心配してくれてるの?」
「……別に」
「ふぅん、へえ、そうなんだ。うふふ」
聖女がニタニタ笑う。
なんかいらつく顔してんな……。
レベル99の敏捷にモノ言わせて、背後に回って膝かっくんしてやろうか。
「なんだよ」
「べっつにぃ。……まあ、そこまで心配しなくてもいいよ。聖痕って神様からの贈り物だから。これがあると神様との繋がりが深くなって、光魔法がより強くなるのよ」
「そ、そうなのか」
驚いた。
そんな設定があったんだな。
あー、でも確かに、あのイベントを乗り越えた後から急に、ニーナの聖魔法がパワーアップしたな。
てっきり勇者との絆が深まった効果だと思ってたが、聖痕のせいだったのか。
だが、それだったら勇者にその情報を開示してくれてても良さそうなんだが……。
なんであのルートじゃ、ニーナは設定を黙っていたんだ?
「これ、一応極秘事項だから。他の人に喋っちゃ駄目よ? もし喋ったら処刑されるかもだからね」
「そんな危険な情報を何気なく話すなよ」
「いいじゃない。だってアタシ破門されたし」
「お、おう」
「それにアンタ、すっごく悲しそうな顔してるんだもん」
「してないぞ」
俺には『大貴族の呪縛』っていう強力な表情筋があるんだ。
悲しい顔なんてするわけないだろ。
「まっ、そういうことにしといてあげるわ」
「なんで上からなんだよ。してないだろ?」
してないよな?
自信なくなってくるわ。
「真面目な話なんだけど、もし聖痕が光魔法の強化に繋がるってわかったらどうなると思う?」
「……ああ、なるほど」
聖魔法を強化したい輩が、こっそりこのナイフで自分を切りつけるようになる。
そして、中には邪な人間が混ざっているだろう。
聖痕を作ろうとして消えちゃった!(テヘッ♪
って光景が目に浮かぶわ。
別に教会で働いてるからって、みんながみんな清らかってわけじゃないからな。
「だから、一応大司教以下にはこの情報が伏せてあるのよ」
「聖女以上はいいのか」
「そもそも聖女って、聖痕に頼らなくても強い光魔法が使える人を言うのよ」
どや顔が腹立つが、お前の聖魔法ほんと強いからな……。
プロデニだと、『縛りプレイで聖女無双』ってスレが立つくらいだった。
ノーマルモードならラスボスワンパン出来るもんな、こいつ。
「枢機卿はいいのか?」
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