√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道~悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ~

萩鵜アキ

文字の大きさ
87 / 92
悪役領主はひれ伏さない

第87話 神聖魔砲

しおりを挟む
 エルヴィンの背中を見送りながら、ニーナは自分の胸に手を当て続ける。
 彼に加護を渡してからずっと、心臓が落ち着かない。

 当然だ。
 自分の唇を異性の額に押し当てたことはもちろんだが、この加護は、生涯でたった一人の英雄にしか渡せないものだからだ。

 聖女には、他の枢機卿や教皇には使えない唯一の力がある。
 それが、『聖女の加護』である。

 これは聖女になる時に、神から貸し与えられる神の力の一部だ。
 だから、生涯でたった一人にしか使えない。

 多くの場合、誰にも使わずに一生を終える。
 教会の決定がなければ、決して他人に譲渡してはいけない決まりがあるからだ。

 しかし神から直接授与すべき者が暗示された場合は違う。
 将来英雄となる者を、神から教えられたならば、必ずその者に力を与えなければならない。

 ニーナのパターンは、まさにそれだった。
 聖女になった日、神が将来の英雄――勇者を見せてくれた。

 しかし、当時そこまで信仰心が篤くなかったせいか、あるいは時間が経ちすぎたせいか、勇者の顔を忘れてしまった。

 きっと、勇者と目される人物が現われれば思い出すだろう。
 そう思っていたが、実際に現われた預言の勇者アベルを見ても、ピンと来なかった。
 昔見せてもらった顔とは、なんとなく違う気がしたのだ。

 さらに残念なことに、アベルはあらゆる面においてゴミクズだった。
 こいつには絶対に加護を与えたくない。
 というか、渡せって言われても生理的に無理だった。

 実際、勇者に監禁された時も、ニーナは加護を渡さなかった。
 彼から何度も『加護をよこせ』と脅迫されたが、それだけは絶対に譲らなかった。

 何故彼が加護について知っているのか定かではないが、あのような危険な輩に渡すくらいなら舌をかみ切って死んだ方がマシだと思えた。

 幸い、勇者がおぞましい乱暴を働く前にラウラに助け出され、ニーナは難を逃れた。
 それ以降、加護のことなどすっかり忘れていた。

 しかしここへ来て教会から破門され、指名手配を受け、さらにはカーラに裏切られ、監禁された。
 そんなニーナを、エルヴィンが救い出してくれた。

 破門された今となっては教会に尽くす義理はないし、唯一教会との繋がりだったカーラとも縁が切れた。
 だったらあとは、好き勝手にやらせてもらう。

 そう思ってから、決断は早かった。
 エルヴィンは幼少期に、ニーナを救ってくれた。
 高等部に上がって再び出会った後も、彼は必ずニーナを助けてくれた。
 アベルに監禁された時も、カーラに監禁された時も――本当に危険な時に、自分を助けてくれたのは、エルヴィンだけだった。

 神様が指し示してくれた勇者の顔は忘れてしまったが、自分だけの勇者は知っている。
 おそらく彼がファイアボールを背中で受け止めたあの瞬間に、ニーナの心は決まったのだ。

 そんなエルヴィンが、神の敵あくまを倒そうというのだ。
 力を与えるなら、今しかない。

 力を渡した後、エルヴィンはすぐに悪魔に向かっていった。
 相手は悪魔。その力は、神の敵と呼ばれるレベル。
 人間にとっては厄災級。
 英雄が束になって勝てるかどうかという相手である。

 もしかしたら、死ぬかもしれない。
 なのにエルヴィンは怖れも見せず、素早く行動を開始した。
 それでこそ私の勇者だ。

 でも、

「……少しは意識してくれたっていいじゃない」

 額に唇を押し当てたっていうのに……。
 意識してるのはこちらだけか。
 女性として自信喪失しそうだ。

「べ、別にエルヴィンと〝そういう〟仲になりたいとか思ってるわけじゃないけど!」

 誰かに聞かせるわけでもないのに言い訳を口にしてるのも、無性に腹立たしい。
 この思いは奇跡に込めて――エルヴィンめがけてぶん投げる。

「アタシがなんで〝奇跡を振りまく郷里の聖女〟って呼ばれてたか、アイツに思い知らせてあげようじゃない」

 にやり。
 いつもの勝ち気な表情に戻ったニーナが、全身全霊を込めて神聖魔法を発動するのだった。



          ○



 なんか、後方からバカスカ支援が飛んで来るんだが……。

 しかもただの光魔法じゃなくて、全部神聖魔法。
 勢いがやべぇ。

 バフがガンガン積まれて身体能力がとんでもないことになってる。
 一歩で五十メートル飛ぶって、人間やめてないか?

 バフの性能が桁違いだ。
 さすがは聖女。
 ノーマルモードでラスボスワンパン出来るだけはある。

 ただこれ、バフ切れた後の虚脱感やばそうだな……。

 自分の体の具合を確かめながら、ベリアルに向かって走る。
 途中、すれ違う悪魔で試し切りをするが……うん、全然手応えねぇな。
 相手もまるで反応してなかったし。

 問題は、この状態でベリアルとどの程度戦えるか、だな。

 相手がノーマルモードなら瞬殺出来る。
 ハードモードなら、少し時間はかかるが倒せる。

 問題は、相手がエクストラモード以上だった場合だな。
 たしか真の勇者ルートの時は3時間くらい戦ってたっけ?
 まあ、あれは精神力しか鍛えられないルートだから参考にはならんが……。

 討伐に時間かけたら、さすがに首都が持たない。
 せっかくイングラムが綺麗……とは言いがたくなったが、まあ無事に残っているんだ。
 消滅させるのはもったいない。

 それに――何かあったら助けるって、レナードに約束したからな。

 結んだ約束は絶対守る。
 それがファンケルベルクの流儀だ。

 この戦い、速攻で決める!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

処理中です...