TonTonテイル

渡 忠幻

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12.お勉強の時間②

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 ある日の私は使用人たちの住むお部屋の近くで、まーるい形の紙を凝視していた。
 壁に貼られたそれはケーキを切り分けたように線が引かれ、人の名前が書いてある。そのまあーるい紙の上方には『トンちゃんのお世話当番』と太字で書き示されているのが読めた。


 これもメープル先生の授業が分かりやすいお陰である、簡単な文字と単語ぐらいならすぐに読めるようになった。ありがとうメープル先生、私のトン生、文字が読めずに詰む所でした。

 この屋敷の使用人たちに急に発生した仕事。それが私のお世話係りである。お世話をされるのは良いが……この紙の形状には見覚えがある。
 掲示板にくるっと回す丸い紙を二つ重ねて真ん中を画鋲で留めたそれは、前世での小学校の給食当番表を彷彿とさせる物体。

「ぷきゅぅぅ、ぷききぃ?(この世界に学校って概念、あるのかしら?)」
「トンちゃーん!トンちゃーん!どこにいるのぉー?先生もう来ちゃったよおー」

 おや、リリーの呼ぶ声が聞こえてきた。そうかそろそろ先生が来る時間なのね、うっかしてたわ。というかあんなに大声で叫んだりして、貴族令嬢としてはしたないとかお母様に怒られないのかしら、こういうなんちゃって西洋風でよくある感じに。

「ぷきゅき、きゅぅききっ(NPCにあんま、設定無いはずなんだけどなぁ)」

 今日のお世話係りがシェイナと書かれているのを確認して私はキュートなお尻をフリフリさせながらトンちゃぁんと煩いリリーの所へと駆け出した。



 あの人、リリーに厳しいから今日のご飯でニンジンの増量は期待出来ないわね。私はいつも私の皿に向かって風を切って飛んでくるリリーのニンジンと、それをさせない様にガードするシェイナの姿を思い浮かべる。
 素晴らしいガード力でオレンジ色の物体をリリーの皿にリターンさせるシェイナ、あれは世界を狙える動きだ。何の世界かはわからないけど。

 あれ?それって私の給餌係りというより、リリーのお世話係りなのでは?若干の疑問を抱きつつ、今日も張り切って勉強に向かう私なのだった。


◆~◆~◆~◆~◆

 今日は近隣領地や近くの国についてのお勉強をした。とはいっても、まだリリーも小さい……いや、この世界ではもう大きい方なのか?とにかく社会科みたいなお勉強を受けた。
 ゲームの始まりの町であるこの領地から見てどの方向にどんな物があるのか、地図をみながらメープル先生に教えてもらう。

 ───の、だが。
 今日、リリーと一緒に勉強して知った事がある。

 ゲームにはでて来なかったこの世界での長さの単位。1センチをキロメートルに換算する地図の読み方があるが、その世界共通の長さの単位である㌢㍉㌔㍍、㍎とかフィードとかどう測るねんみたいなのもあるが、大体一緒だ。

 それを踏まえて、この世界の長さの単位を見てもらおう。左が前世右がそれに相当するこの世界の単位である。

1センチ=1セルチャ
1メートル=1ミーテル

 ここまでは良い、いや、何故わざわざ変えたという話もあるが世界観を出すため(笑)と思えばなんてことない。問題はこの次だ。

18ミーテル=1キタイ

 馬鹿なのだろうか?もう一度言わせて貰おう、馬鹿なのだろうか??もう一度だけ……馬鹿なのだろうな????

 町と町、国と国などの距離を表す時に使われて、自領地周辺の勉強をする時に見せられた地図には『20キタイ』と表記されている。
 あの白色の悪魔が指先まで真っ直ぐにピンと腕を伸ばし、気おつけ!の姿勢で地面に横たわる光景が目に浮かぶ。ズラリと縦に行儀良く並べられている姿。

 ホント、このゲームを作った『ガデス・ガーデン』という会社、巫山戯ている。略称GG。やめろしょうもない設定を作るな、誰が言い出したんだやめろ。
 その巫山戯たゲーム会社が作った巫山戯たゲームを私に薦めた私の友人もかなり巫山戯たヤツだったけども。その友人が薦めてきたゲームの、しかもチュートリアル+αしかしてないゲームの中に入ってしまった私自身も相当巫山戯ている存在だと思う。


 兎も角。
 ゲームでの“はじめの町”であるこの領地を治めているのがあのヒゲオヤジ。名前はチャーリー。リリーのお父様である。リリーのお母様のお名前はまだ知らない。だって皆んな『お母様』とか『奥様』としか呼ばないのだもの。

 そしてリリーにはお兄様が一人いる。賢くて、イケメンな男の子のシャスタお兄様、部屋を覗きに行ったところ、明らかに田舎にしては多い紙と本の量、そして濃いインクの匂いに扉をそっ閉じした記憶がある。
 しかもそっ閉じした後お兄様に捕まり、どこの乙女ゲームやねんみたいなスチルばりの微笑みと共に研究者になりたいんだと夢を吐露された。こんな子豚、しかも魔獣に言われてもどうする事も出来んがな。

「ぷきっききぷぅぴぃ(数字は一緒で助かったわ)」
「トンちゃんあのね、リリー帝都にいったことあるのよ?トンちゃんも次いくときつれてくね」
「ぷぷきゅぷきゅきゅ(連れてってくれるのはヒゲオヤジでしょ)」
「はい、次はこの地域の名産品や、王都への輸出品をお勉強しましょうね」
「はぁい」
「ぷきっ(はい)」

 色々教えて貰った結果、この最初の町の隣に海に面してるちょっと大きな街、所謂ゲームでいうところの二つ目の街があり、反対隣は山を挟んで最近まで隠れ里的な扱いだった村があるらしい。

 はーへーほーとリリーと鳴きながら授業を受ける。因みにドがつく程田舎なこの町になんて一回出たらお使い(強制イベント)でもない限り戻ってこないゲームの主人公。
 それをGG社員が悲しく思ったのかどうかは知らんが、ここの町の物販に強化ナッツというアイテムがある。

 そう、あの強化ナッツ、種、パラメータ強化アイテム。RPGとかでどうして植えて増やさないのか気になるヤツだ。……何を隠そう

「ぷきゅ!ぴきゅきゅきぃ!(そう!ここがそのナッツの生産地なのである!)」
「トンちゃん?せーさんちのりんご食べたいの??」

 驚き桃の木山椒の木、ゲーム内最大の街である帝都ですら売ってないラジモンの強化アイテムが、最初の町で手に入るのだ。
 しかし問題がある、その値段設定は到底パンピーラジモン使いが払えるような値段ではなく、ゲーム中では一粒買うのに百万コインとかいう某ポケットの自転車屋も真っ青な値段設定だ。

 一応ゲームのお財布上限は99億9999万9999コインの為、貯めて一気買いも出来るわけだが、このゲームなんといっても金を貯めるのが難しいらしい。
 ラジモン 金 稼ぎ方 で検索すると動画が大量に出てくる。まぁNPCラジモン使いからのカツアゲが殆どだけど。それも今、子豚の私にはする理由が無い。
 
「ぴきぷきぴぴぴ(主人公じゃないし関係ないか)」
「トンちゃんこんどはピーマン食べたいの?リリーはピーマンきらいだなぁ、にがくておいしくないもん」
「ぷききゃきゅきー(ここ金持ちの家だしね)」
「にんじんもやーよね、へんなあじするから、なんで食べなきゃないんだろーねー」

 噛み合っていない会話をしながらメープル先生の授業を受ける私とリリー。

 言いたい事を要約するとこうだ。転生先が魔獣だった私は、今、食住には困ってないし魔獣寄りの思考だから服は邪魔だからどうでも良い。寒さに震える事も無ければ食う物に困る事も無いし、凶暴な他の魔獣に怯える事もない。
 そして、そしてだ、最近人間用のお菓子をバクバク食べている私を心配しての事なのか、お母様が魔獣強化用ナッツのワケあり品を貰ってきた。

 袋で。

 一粒百万コインのを袋で、㌔袋で、成長途中で右に左にひん曲がり、殻が割れていたり小さかったり、色が悪かったりとかいう理由で商品にして売れないナッツを安く譲ってくださったそうだ。
 一袋2380硬貨、この世界の1銀貨=100円ぐらい。妙に半端な値段設定がリアルで笑った。

 因みに正規品の種は攻撃、防御、体力、素早さ、賢さ、の中からランダムで+5される。こんな所に運要素を入れるなって話よね。私の食べてるナッツは粗悪?品で、一粒でどれだけ上がってるかは分からないけど、まぁ質が悪くても量食えば良いのよ量。

「ぴきゅぴぴきぴぷー(シリアル感覚で食べられる強化ナッツ)」
「トンちゃんたらゴハンもおやさいばっかり食べるんだもの、もっとおいしいの食べたらいいのに」
「ぷきっ、ぷぷきー(正直、有り難みが薄いわね)」
「ケーキとかー、クッキーとかー、くだものいっぱいの朝ごはん食べたいなー」
「ぷぴぷっ(それ太るわよ)」

 なんちゃって西洋文化の世界であるここでは洋菓子が幅を利かせている。だけどたまに餡子が入ったお饅頭みたいな物がオヤツに出される為、どこかに日本文化をぶち込んだ街もあるのでは無いかと思ってはいる。制作会社は一応日本の会社だしね、あるよたぶん、きっと、おそらく。

 そんな訳で魔獣生イージーモード、レベルより先に基礎値ガン上げ子豚は衣住食揃った好条件でこれからも悠々自適に転生ライフを楽しんで……あ。

「プきゅピギキィ!?(これが金持ちの家の猫になった状態!?)」
「トンちゃん??」
「よく頑張りましたね、今日のおやつはオレンジマフィンですよ」
「あ、めーぷるせんせーも一緒にたべるの?」
「えぇ、トンちゃんのは魔獣用ナッツ付きですって、休憩してお茶にしましょうか」

 こんなに高待遇でいられるならもう少しだけ子豚のままでいよう。そう思いながらお茶の時間と称してメープル先生にマナーを教え込まれるリリーを視界の端で眺めながら、マフィンの横に添えられている噂の強化ナッツを一粒口に入れた。
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