TonTonテイル

渡 忠幻

文字の大きさ
76 / 113

76.侵略者

しおりを挟む

 全く、昨日は酷い目にあったもんだ、あの後雪の中を延々と彷徨っていたが、執事さんに救出してもらった。そして早朝、日が登りかけている状態の空を見上げて、私はお外へ出ていった。
 さっこさっこと蹄を踏み鳴らし、除雪をしたというのにまた雪が降り、未だ白い庭を進んでゆく。

「はぁー、息白いわ、私が腹を削った雪だるま別荘の生存確認ぐらいはしてやりましょうかね」

 さこさこそこそこ、積もりたての雪を踏み締め、お庭のど真ん中を進んでいく。雪が積もっても原型を保っていたヒゲオヤジ作の雪だるま。
 無事でよかったわ私の冬限定別荘、壊れていたらリリーがギャン泣きするところだった。中を覗き込むと白い雪の壁と、黒い星形の模様がついたトントンの尻が見えた。

「は?トントンの尻??」
「ぷき?ここはあちしのお家だよ、あーたは誰?」
「いや家って、雪だるまの腹の中なんだけど」
「あちしの前のお家が雪でこわれちゃったんだ、だからここをお家にしたの」

 こちらを向いて、ぴふぴふと鼻を鳴らす見知らぬトントンはそう話した。
 なーるほど、確かに記録的な大雪ってシャスタお兄様も言ってたから、野生魔獣の巣の一つや二つ、壊れたって不思議じゃないか。
 賢く優しいトンちゃんはそう考え、雪だるまをお家が壊れた不憫なトントンに譲ることにした。

「ご飯はあるの?」
「木のところにあるの」
「じゃあいいわ、人間に虐められないよう注意して暮らすのよ」
「ぷきき」

 そう伝えて踵を返す、野生で暮らしていたらお家がなくなる心配もしなきゃならなかったのか、その点ではリリーと出会えたのはだいぶ幸運だった。
 そして飼われトントンの私は、優雅なブレックファーストを頂くために、お屋敷へと戻っていくのであった。


〇◎○◎○◎○◎○

 はー、食べたたべた。たくさん食べた。なんでパンはあるのに、うどんは無いのかしら。元は同じ小麦粉なのに。
 食パン1斤にたっぷりの林檎ジャムを塗って食べ、リリーが残した丸パンも失敬し、根菜たっぷりのスープをリリーの人参を入れられながら食べ、リリーが食べているベーコンに涎を垂らしながらボウル一杯のスクランブルエッグを食べた。

 美味しいご飯をお腹いっぱい食べられるって幸せね。今日はメープル先生がお休みの日なので、リリーがソリを抱えてルンルンしながらお庭に走っていく。

「ソリ遊びしーよう!」
「ぷぴきゅぴきゃぴっきゃぷぅ(子供は風の子って本当なのね)」
「今度は絶対雪に埋まらないようにしなきゃ!」

 私?私はお母様にちゃんとリリーを見ててねって頼まれてしまったんで、腹ごなしに雪遊びに付き合ってやろうと後ろをついて行ってるところよ。
 また身動きが取れなくなったら大変だしね、一晩経って固くしまった雪にこの羽根のように軽い子豚ボディが埋まるわけがないじゃない、私ったら天才ね。

「あーー!!!!」
「ぷぴぃぴぴー、ぴきゃぴきゃきょきゃーぷぷぱぴぷぅ?(何よリリー、除雪で作られた人工雪山が崩れてたりしたの?)」
「トンちゃんが……トンちゃんがいっぱい居る……!!」
「ぷぴぅぷぴぃきゅーきーぴいきぷーきーぱぅぴ?(私は私でオンリーワンのナンバーワンよ?)」

 こんなキューティプリティー世界一なトントンが他に居てたまるかっての。フンと鼻を鳴らしてリリーの視線の先へと目を向けると雪だるまの中にいろんな色のトントンがめちゃくちゃみっちり詰まってる。

 ぷきー、ぷきーと気の抜けた鳴き声の中、朝に見た星の模様がついた尻の持ち主の尻尾を噛んで引き抜いてやる。
 すっぽんころころなんて漫画みたいな擬音と共に飛び出てきたトントンは、私とリリーを見ると泣き出してしまった。

「ぷきぃー!ぷきゅぴぃー!!(あちしの!あちしのお家ぃー!!)」
「ぷぎゃきゃきぴぃ!?ぴぎゃぎゃきょきゃぁ!!?(なんでこんな事になってんの!?こいつらどっから来たわけ!!?)」
「ぷぴきゃーきゅきゅぅ(雪がたくさんでお家がないんだ)」
「ギッギピぴぎゃびーぎゃきっきゅびぃー!?(だからってみんな雪だるまに入ることないでしょ!?)」
「ぷぷぴき、ぴき、ぴきゃぴみ(みんなじゃないよ、あちし、みんな入れてないよ) 」

 みんなじゃない……?まさか……!!バッと背後を振り向き、トントンの足ではちょっと遠くにあるアリュートルチの屋敷を見る。
 このままでは大変なことになる……!不本意転生者である私の感がそう叫んでる……!!とにかくリリーを先に屋敷へ戻さないと。何をしているのか分からないがやけに大人しいリリーの方へ視線を投げると、両手に迷惑そうにもがいている野良トントン達を抱き締め、目を瞑ってジッとしていた。

「この子達はリリーが守ってあげないと……」
「ぴききぃー(やだぁー)」
「ぷぴきぃー(離してー)」
「ぷぷきゃぁきぴきゅぴ(物凄い迷惑そうよ)」

 絶滅危惧種でもないその辺に沢山いるただの野生トンなんだから、リリーが変に助けるより放置してる方が助かると思うけど。
 トンちゃん離して!あの子達はリリーが守らなきゃ誰が守るっていうの!!なんて世迷言を喚き散らすリリーをソリに乗せて引っ張っていく。早く行かなきゃ、早く、そんな時お屋敷から絹を引き裂く……段ボールを引き千切るような悲鳴が聞こえてきた。


ギヤャァァァァァァァァァアアア……!!!!!!


 あの声はヒゲオヤジ!もうちょっと遅く行っても大丈夫そうね!!ソリを引かれるのが楽しくなってきたリリーを引っ張り、トンちゃんは屋敷へとゆっくり急ぐのであった。


◆~◆~○~◆~◆

 リリーと共に見たアリュートルチの屋敷は酷いありさまになっていた、厩舎を埋め尽くす家を無くしたトントン達が、馬房の中にいるシャイアーやハクニーから暖を取るためピッタリと身体に寄り添っている。
 マスタングなんて可哀想な事に、根は優しい馬だから、近くに寄るトントン達を潰さないよう立つことすら出来ないようで、背中の上にまで野良トントンに乗られている。あんな困った顔初めて見たわ。
 シャイアーとハクニーは遠慮無しに首根っこ噛んで野良トン退かしてるけど。マスタングは優しいのね。


 同じくドーベリー達の部屋にもトントン達が入り込み、ドーベリー三匹の側にも寄り添っている。
 可哀想に、ヒゲオヤジが寒かろうとくれた毛布まで取られちゃって、……何故か三匹とも尻尾は揺れてるけど。姐さんの兄弟姉妹じゃないんすか!?なんて聞かれたけど、そもそも居たとしても私には分かりゃしないわよ。
 調教師さんが疲れた顔で、一匹、また一匹とトントンを外に追い出しているが、一匹逃す度に二、三匹中に入ってきているので心が折れるのはもうすぐだろう。


 最後に、恐らく悲鳴の原因であろう者。ヌシ様がヒゲオヤジの執務室の窓を優しく、そう、優しく爪の先で叩いているのを後ろからリリーと見ている。
 ひと叩きする度に中からヒゲオヤジと執事さんと侍女さんの悲鳴が聞こえ、窓ガラスにヒビが入る音も微かに耳に入ってくる。
 あと数度叩けばヒビが端まで入り、窓ガラスは割れるだろうなって思う。でも結局窓ガラスの交換はしなきゃならないんだから交換し易いように割れるまで見守るのもアリかなって思ってはいる。


「ぷーきぷきゃきゅぴきぴ(とんだ地獄絵図ね)」
「あ、窓割れちゃった」

「ガァルァア(こんにちわ)」
ガシャァ

「「「ウギャァァァァァァァァァァァァアアアア!!!?!?!?!!?!?」」」

 トントンって、実は結構強いんじゃないかしら。制圧されかけているアリュートルチ家を見ながら、そんな事を私は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

処理中です...