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9.蓮華と熊若編
第63話(1185年1月) 神楽隊の危機①
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備中国府庁舎・大広間
貴一を中心に弁慶・木曽義仲が並んで座る。正面には鴨長明と巴御前。その後ろには蓮華と小夜をのぞいた神楽隊・十二単のメンバー10人が座っていた。
鴨長明が重々しく口を開く。
「今、神楽隊は崩壊の危機にある。先月の戦で多くの神楽隊メンバーを失ったが、理由はそれではない。まず、副長・小夜と弁慶の婚姻・妊娠発表――弁慶、なぜずっと隠していた! 発覚の時期が早ければ、源氏に負けていたかもしれないのだぞ!」
「いや、誠にすまぬ。付き合ってしばらく子ができなかったものだから、腹が大きくなるまで信じられなかったのだ」
「しばらくとは、いつから付き合っていたのだ?」
「鬼一が引きこもっていたときの宴会からだから、えーっと――」
弁慶が指を折って数える。貴一が弁慶を睨んだ。
「ハァ! 人が苦しんでいたときにお前という奴は――」
「スサノオ様はお静かに!」
長明がピシャリと言うと、貴一は黙った。
「次はスサノオ様です。蓮華に何をしたか、説明してもらえますか?」
「何をしたかって、言われても……」
長明と十二単の厳しい視線にさらされながら、貴一は一週間前のことを語り始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
備中国・神楽隊戦死者メンバーを埋めた塚の前
蓮華が元気な声で神楽隊に声をかける。
「さあ、みんな! 今日は追悼ライブ。もう泣かないの。悲しい想いはここまで。最高のライブで亡くなったメンバーを極楽浄土に送るって約束したじゃない! さあ、リハに戻って!」
神楽隊のメンバーが見えなくなった途端、蓮華は糸が切れたように泣き崩れた。
遠くから貴一がその姿を見ている。
――やはり、小夜の言う通り、無理をしていたのか。
備前国での戦では、神楽隊創設から8年で初めての戦死者が出た。
そして、2番人気で副長でもあった小夜の引退発表。
神楽隊とファンの動揺を抑えようと、蓮華は追悼ライブを企画し、練習に打ち込ませることで、メンバーの悲しみを忘れさせようとした。
「スサノオ様、今の蓮華を支えられるのは私じゃありません。お願いです。蓮華のそばにいてあげてもらえませんか」
小夜にそう頼まれた貴一だった。
しかし、貴一は何と言葉をかけていいかわからず。黙って蓮華の横に立った。
貴一に気づいた蓮華は胸にすがりついて泣いた。
――転生前は全然女性に縁が無かったからなあ、こういうときどうすればいいのか……。
「あまり無理をするな。これからは俺もいっしょに支えてあげるから」
蓮華が貴一の顔を見上げた。貴一はホッとして続ける。
「神楽隊は蓮華だけじゃ大変だもんな。軍の負担も減らして――」
蓮華は貴一の胸を突き放して、恨めしそうに睨む。
「神楽隊? 軍? そんな支えならいりません!」
「どうした? 落ち着け蓮華。悲しいのはわかるが感情的に――」
「神楽隊の隊長ではなく、蓮華を、わたしを支えてください! 妻じゃなくてもいい! 妾でいいから!」
「待って、待って! どうしたんだよ、急に」
「急じゃありません。スサノオ様が鈍感なだけです。小夜の幸せそうな顔を見て、もう心が抑えられなくなりました。わたしはスサノオ様の子が欲しい!」
話の急展開にどうしたらいいかわからず、貴一は自分の考えを話した。
「――悪いけど、それはできない。俺は子を作らないと誓った。だから蓮華の思いには応えられない」
「どうして!」
「俺は社会主義国を目指してはいるが、国が安定するまでは俺は王に近い存在になるしかない。もし、子がいる状態で俺が死んだとしたらどうなる? 俺の子が王として跡を継ぐだろう。そうなったら、俺は真逆の政治体制を作るために転生したことに――」
「わかりません! そんな政治の話なんて!」
「わかってくれ。俺は蓮華が嫌いじゃない、むしろ魅力的で素敵な女だと思っている。なんてたって神楽隊1番人気だもんな。だから他のいい男を探して――」
「ただ踊りが好きだっただけの女のコが、素敵な女になろうとしたのは1番人気になるためじゃない! あなたのためです! でも、スサノオ様に届かない、振り向かせられない魅力なら必要ない! お願い。スサノオ様。私を見て!」
貴一のは何とかなだめようと思い、別のことを言った。
「蓮華……。因幡国での俺の異常さを見ただろ。俺の中には鬼がいる。だから、普通の人とは――」
蓮華の瞳に炎がともる。
「鬼? ああ、なーんだ。静御前が好きなんですね。それならそうと言ってくださいよ。政治があーだこーだと誤魔化しなんかせずにね!」
パ―――ン!
蓮華は貴一に激しく張りてをすると、去っていった。
貴一は呆然と立ちつくし、後ろ姿を見ていることしかできなかった。
――傷つけてしまったが、どうしようもない……。それに蓮華は俺なんかより熊若のような男といっしょになったほうが幸せになれる。
翌日、蓮華は追悼ライブで伝説的なパフォーマンスを見せた後、出雲大社国から姿を消した――。
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貴一を中心に弁慶・木曽義仲が並んで座る。正面には鴨長明と巴御前。その後ろには蓮華と小夜をのぞいた神楽隊・十二単のメンバー10人が座っていた。
鴨長明が重々しく口を開く。
「今、神楽隊は崩壊の危機にある。先月の戦で多くの神楽隊メンバーを失ったが、理由はそれではない。まず、副長・小夜と弁慶の婚姻・妊娠発表――弁慶、なぜずっと隠していた! 発覚の時期が早ければ、源氏に負けていたかもしれないのだぞ!」
「いや、誠にすまぬ。付き合ってしばらく子ができなかったものだから、腹が大きくなるまで信じられなかったのだ」
「しばらくとは、いつから付き合っていたのだ?」
「鬼一が引きこもっていたときの宴会からだから、えーっと――」
弁慶が指を折って数える。貴一が弁慶を睨んだ。
「ハァ! 人が苦しんでいたときにお前という奴は――」
「スサノオ様はお静かに!」
長明がピシャリと言うと、貴一は黙った。
「次はスサノオ様です。蓮華に何をしたか、説明してもらえますか?」
「何をしたかって、言われても……」
長明と十二単の厳しい視線にさらされながら、貴一は一週間前のことを語り始めた。
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備中国・神楽隊戦死者メンバーを埋めた塚の前
蓮華が元気な声で神楽隊に声をかける。
「さあ、みんな! 今日は追悼ライブ。もう泣かないの。悲しい想いはここまで。最高のライブで亡くなったメンバーを極楽浄土に送るって約束したじゃない! さあ、リハに戻って!」
神楽隊のメンバーが見えなくなった途端、蓮華は糸が切れたように泣き崩れた。
遠くから貴一がその姿を見ている。
――やはり、小夜の言う通り、無理をしていたのか。
備前国での戦では、神楽隊創設から8年で初めての戦死者が出た。
そして、2番人気で副長でもあった小夜の引退発表。
神楽隊とファンの動揺を抑えようと、蓮華は追悼ライブを企画し、練習に打ち込ませることで、メンバーの悲しみを忘れさせようとした。
「スサノオ様、今の蓮華を支えられるのは私じゃありません。お願いです。蓮華のそばにいてあげてもらえませんか」
小夜にそう頼まれた貴一だった。
しかし、貴一は何と言葉をかけていいかわからず。黙って蓮華の横に立った。
貴一に気づいた蓮華は胸にすがりついて泣いた。
――転生前は全然女性に縁が無かったからなあ、こういうときどうすればいいのか……。
「あまり無理をするな。これからは俺もいっしょに支えてあげるから」
蓮華が貴一の顔を見上げた。貴一はホッとして続ける。
「神楽隊は蓮華だけじゃ大変だもんな。軍の負担も減らして――」
蓮華は貴一の胸を突き放して、恨めしそうに睨む。
「神楽隊? 軍? そんな支えならいりません!」
「どうした? 落ち着け蓮華。悲しいのはわかるが感情的に――」
「神楽隊の隊長ではなく、蓮華を、わたしを支えてください! 妻じゃなくてもいい! 妾でいいから!」
「待って、待って! どうしたんだよ、急に」
「急じゃありません。スサノオ様が鈍感なだけです。小夜の幸せそうな顔を見て、もう心が抑えられなくなりました。わたしはスサノオ様の子が欲しい!」
話の急展開にどうしたらいいかわからず、貴一は自分の考えを話した。
「――悪いけど、それはできない。俺は子を作らないと誓った。だから蓮華の思いには応えられない」
「どうして!」
「俺は社会主義国を目指してはいるが、国が安定するまでは俺は王に近い存在になるしかない。もし、子がいる状態で俺が死んだとしたらどうなる? 俺の子が王として跡を継ぐだろう。そうなったら、俺は真逆の政治体制を作るために転生したことに――」
「わかりません! そんな政治の話なんて!」
「わかってくれ。俺は蓮華が嫌いじゃない、むしろ魅力的で素敵な女だと思っている。なんてたって神楽隊1番人気だもんな。だから他のいい男を探して――」
「ただ踊りが好きだっただけの女のコが、素敵な女になろうとしたのは1番人気になるためじゃない! あなたのためです! でも、スサノオ様に届かない、振り向かせられない魅力なら必要ない! お願い。スサノオ様。私を見て!」
貴一のは何とかなだめようと思い、別のことを言った。
「蓮華……。因幡国での俺の異常さを見ただろ。俺の中には鬼がいる。だから、普通の人とは――」
蓮華の瞳に炎がともる。
「鬼? ああ、なーんだ。静御前が好きなんですね。それならそうと言ってくださいよ。政治があーだこーだと誤魔化しなんかせずにね!」
パ―――ン!
蓮華は貴一に激しく張りてをすると、去っていった。
貴一は呆然と立ちつくし、後ろ姿を見ていることしかできなかった。
――傷つけてしまったが、どうしようもない……。それに蓮華は俺なんかより熊若のような男といっしょになったほうが幸せになれる。
翌日、蓮華は追悼ライブで伝説的なパフォーマンスを見せた後、出雲大社国から姿を消した――。
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