鬼退治の対象が可愛いので愛でても構いませんか?

焔 はる

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1章 鬼退治に参ります

いざ鬼退治へ④

「・・・」


常世の闇は深い。


時間という概念が存在しないこの世界では、木々は常に青々と茂り、花も枯れず、水は滾々と湧き続け、虫や鳥や動物たちも食料として狩り、命を奪ってもすぐに肉を持つものとして其処に生まれ変わる。


闇に支配される<夜>でさえ、月も星も毎日毎日同じ場所で光り輝く。





囚われたこの場所で、死ぬことも出来ず、自由になることも許されぬまま俺は・・・





「あ!起きたのか?!」


静まり返る闇に響いた無駄にけたたましい女の声は、思っていたよりも近く、眠る俺の背中側に居たことにも気づかぬほど熟睡していたことに俺自身が驚いた。


「あっ!どこ行くの??」



「・・・お前に関係ない。帰れ」



「それじゃあ困るの!」



「知らん。俺は生贄だの花嫁だの求めてはいない。どこへなりともさっさと行け。」



裸足で降りた庭の砂がひんやりと足裏をなでる。



住処として与えられた家の裏手を行くと湖があり、俺は朝夕とそこでの水浴びが日課だ。



「ねぇ、私鬼退治に来たの、あなたが鬼神でしょう??」



うろうろちょこまかと後ろを着いてくるくる娘は、言葉を返さない俺にあれこれ質問を続け、



「えッ、ちょっと・・・!なんで脱いで・・・!?」



「・・・・・・水浴びは俺の日課だ。なんでもクソもあるか。」



勝手に着いてきたクセに俺が衣を脱いで岩に引っ掛けると、顔を真っ赤にして両手で顔を覆いながらも指の隙間からしっかりと俺の体を凝視する、人間の娘改め、



「・・・おい、痴女。お前いつまでいる気だ。さっさと帰れ」



「ち・・・??!!」



ザバ・・・



バシャ・・・



身に着けて布を全て脱ぎ、一糸纏わぬ姿の俺が湖に身を沈めるのを、口をパクパクさせ、何かを言いたげに痴女は見つめていた。


暑さも寒さもない世界なのに、ここの水はいつも凍えるほど冷たい。


澄んだ水の底には遠い昔沈んだ村が眠っている。


青く青く澄んだ水の底・・・




「ねぇ、寒くないの?」



「・・・・・・」



・・・目障りな女だ・・・



「あ!待って・・・!」



俺は女を無視して鬱陶しい声から逃れるようにもっと深い場所へ歩みを進めた。



果てが見えないほど巨大な湖の湖面は、風に揺らぐこともなく鏡のように穏やかに月を映している。



バシャッ・・・!



「今度はなんだ・・・」



せっかく声も届かぬほど離れたというのに、派手な水音に振り返れば、



「・・・あいつは阿呆なのか?」



水揚げされた魚のように空気を求めて湖面から顔を上げ、手をバタつかせて水しぶきを上げる阿呆な痴女は、静寂なこの世界においてかなり異質だ。



・・・なぜ1人しかおらぬのに、1人で複数人いるかの如く喧しいしのだ・・・



「おい」



「!!はッ!・・・かは・・・ッ・・・た、す・・・ッけ・・・がぼ・・・ッ」



「・・・はぁぁぁぁぁ・・・・・・」



「・・・・・・申し訳ない・・・本当に・・・なんと言っていいか・・・」



「・・・・・・帰ってくれ・・・・・・」



溺れた娘を引き上げ、夜着を纏い濡れた髪を拭う俺の前に正座をした阿呆な痴女は、小さくなり項垂れているが、この娘がやってきてまだほんの数時間、数時間などと言えないほど僅かな時間でこうも不愉快な事が起こる事に俺は次第に耐えられなくなってきていた。



「あの・・・本当に私・・・」



「いい。何も言うな。ここにいた記憶も消してやるし、居た村に帰れないのであれば他の村に届けてやる。だから去れ。」



「あ、待って・・・ッ」



「口を閉じろ」



右手で顔面を掴み、術を唱えれば一瞬で娘はここで俺に会った事も、会話をした事も、溺れた事も忘れる。



「~~!待ってってば!」



「!!馬鹿!お前・・・!」



俺の手を払いのけた娘はあろう事か俺の両足にしがみつき、両足を封じられた俺はまともな受け身も取れぬまま後方へひっくり返った。



ドタンッッ!!



「・・・・・・あぁぁぁッ・・・もう・・・ッ・・・なんなんだお前は。威勢よく来たくせになぜさっさと俺を切らない。持っているのだろう刀を。」



大層な鬼切りの刀を・・・



忌々しい気配を纏ったその刀は、忘れもしない・・・かつて俺の愛しい女を切った刀だった。










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