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第四章
その一
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「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
「ほら、オレのこと捕まえてみろよ!」
「鬼さんこちら、鬼さんこちら」
手を叩く音や、友達の甲高い呼び声が聞こえる。
懐かしい遊びだ。
田舎に住んでいたから当時流行していたゲーム機を持っている子供が少なくて、遊びと言えばもっぱらかくれんぼや鬼ごっこなど、野山を駆けずり回るものが多かった。時夜は懐かしい夢にうっすらと笑みを浮かべた。
目を隠して鬼をしているのは自分だ。手を叩く音やみんなの声、足音を聞きながら、逃げ回る個を捕まえようと原っぱを走っている。
家の近所には緑が多い茂った小高い丘になった古墳跡があって、丘の途中には広く開けた野原があった。
そこは子供たちのぜっこうの遊び場となっていた。丘全体を使った様々なルールの鬼ごっこやかくれんぼやけいどろが盛んにおこなわれていた。野原では花いちもんめをしたり、地面に大きな円を描いて相撲をしたりもした。
子供に人気の遊びは古墳跡の丘ぜんぶを使った鬼ごっこやかくれんぼだったけど、この原っぱだけを使ってする目隠し鬼もなかなかスリリングで楽しかった。とりわけ、夕やみに包まれる時間はなかなか恐ろしげな雰囲気があり、目隠し鬼は大いに盛り上がった。
だけど、大人たちは古墳跡で子供たちが遊ぶことには反対だった。
急な斜面があるから危ないし、イノシシが出るかもしれないから遊んではいけないと言われていた。でもそれはあくまで表向きの忠告だ。まことしやかに、鬼がでるという噂が囁かれていたのだ。
「とっきー、ダメなんだよ。ここで目隠し鬼をしたらあぶないよ」
学級委員長をやっている、真面目な性格の女の子が注意する声が聞こえた。目隠し鬼をしていた時夜は目隠しを外す。
「大丈夫だぜ。目を隠していても、斜面になっているところの手前には背の高い草が生えてるから、すぐにわかる。崖から落っこちたりしねーよ」
「違うよ、とっきーは運動神経がいいからそんなこと心配していないよ。あのね、鬼さんこちら、なんて言ったら本当に鬼がきちゃうんだよ」
「馬鹿だなー、鬼なんていねーよ。そんなもん、いるわけないじゃん」
「いるんだよ。ほら、耳を澄ましてみて。聞こえるでしょ、この音」
神妙な顔で女の子に言われ、時夜は怪訝な顔で耳を澄ませる。
ぺちゃくちゃ、かりかり、ぼりっ、ぐちゃくちゃっ。
気味の悪い音が聞こえてきた。誰かが何かを食べている音だ。
いつの間にか辺りが真っ暗だ。ついさっきまでは明るかったのに。
「おにぃーさん。おぉぉにぃぃさぁぁん」
咀嚼音の合間に低くて不気味な声が聞こえる。鬼さん、鬼さんと言っている。
時夜は草むらの方に近付いた。背の高い草をかき分けて、音のする方をそっと覗く。
くさむらの向こうには誰かが座り込んでいた。真っ白の髪の子供だ。子供がゆっくりと振り返る。
「おにぃぃさぁん」
ニタリと気味悪く笑った子供の唇は、真っ赤な血で汚れていた。
誰かが「鬼が出た!」と叫ぶ。だけど、時夜は動けずに座り込んでいた。
白い髪、金色の目。違う、鬼じゃない。これは鬼なんかじゃない―…。
呆然とする自分を放って、一緒に遊んでいた友達が一目散に古墳跡の丘から逃げていく。
遠くで響く叫び声を聞きながら、時夜は座り込んだまま動けなかった。
「ほら、オレのこと捕まえてみろよ!」
「鬼さんこちら、鬼さんこちら」
手を叩く音や、友達の甲高い呼び声が聞こえる。
懐かしい遊びだ。
田舎に住んでいたから当時流行していたゲーム機を持っている子供が少なくて、遊びと言えばもっぱらかくれんぼや鬼ごっこなど、野山を駆けずり回るものが多かった。時夜は懐かしい夢にうっすらと笑みを浮かべた。
目を隠して鬼をしているのは自分だ。手を叩く音やみんなの声、足音を聞きながら、逃げ回る個を捕まえようと原っぱを走っている。
家の近所には緑が多い茂った小高い丘になった古墳跡があって、丘の途中には広く開けた野原があった。
そこは子供たちのぜっこうの遊び場となっていた。丘全体を使った様々なルールの鬼ごっこやかくれんぼやけいどろが盛んにおこなわれていた。野原では花いちもんめをしたり、地面に大きな円を描いて相撲をしたりもした。
子供に人気の遊びは古墳跡の丘ぜんぶを使った鬼ごっこやかくれんぼだったけど、この原っぱだけを使ってする目隠し鬼もなかなかスリリングで楽しかった。とりわけ、夕やみに包まれる時間はなかなか恐ろしげな雰囲気があり、目隠し鬼は大いに盛り上がった。
だけど、大人たちは古墳跡で子供たちが遊ぶことには反対だった。
急な斜面があるから危ないし、イノシシが出るかもしれないから遊んではいけないと言われていた。でもそれはあくまで表向きの忠告だ。まことしやかに、鬼がでるという噂が囁かれていたのだ。
「とっきー、ダメなんだよ。ここで目隠し鬼をしたらあぶないよ」
学級委員長をやっている、真面目な性格の女の子が注意する声が聞こえた。目隠し鬼をしていた時夜は目隠しを外す。
「大丈夫だぜ。目を隠していても、斜面になっているところの手前には背の高い草が生えてるから、すぐにわかる。崖から落っこちたりしねーよ」
「違うよ、とっきーは運動神経がいいからそんなこと心配していないよ。あのね、鬼さんこちら、なんて言ったら本当に鬼がきちゃうんだよ」
「馬鹿だなー、鬼なんていねーよ。そんなもん、いるわけないじゃん」
「いるんだよ。ほら、耳を澄ましてみて。聞こえるでしょ、この音」
神妙な顔で女の子に言われ、時夜は怪訝な顔で耳を澄ませる。
ぺちゃくちゃ、かりかり、ぼりっ、ぐちゃくちゃっ。
気味の悪い音が聞こえてきた。誰かが何かを食べている音だ。
いつの間にか辺りが真っ暗だ。ついさっきまでは明るかったのに。
「おにぃーさん。おぉぉにぃぃさぁぁん」
咀嚼音の合間に低くて不気味な声が聞こえる。鬼さん、鬼さんと言っている。
時夜は草むらの方に近付いた。背の高い草をかき分けて、音のする方をそっと覗く。
くさむらの向こうには誰かが座り込んでいた。真っ白の髪の子供だ。子供がゆっくりと振り返る。
「おにぃぃさぁん」
ニタリと気味悪く笑った子供の唇は、真っ赤な血で汚れていた。
誰かが「鬼が出た!」と叫ぶ。だけど、時夜は動けずに座り込んでいた。
白い髪、金色の目。違う、鬼じゃない。これは鬼なんかじゃない―…。
呆然とする自分を放って、一緒に遊んでいた友達が一目散に古墳跡の丘から逃げていく。
遠くで響く叫び声を聞きながら、時夜は座り込んだまま動けなかった。
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