夜鴉

都貴

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第六章 鬼の國

鬼の集落②

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 地下から外に出ると、光季は自然と深く息を吸い込んだ。
 空の色があまり美しくなくても、空気は美味い。

 異界はどこも共通して自然が美しく、空気が澄んでいる。
 人間界と違って、化学物質による汚染がないからかもしれない。

 外は相変わらず静かで、朗らかな空気が漂っていた。
 そんな中スパイみたいな活動をしていると、自分達がとんでもない悪者になった気がして変な気分だが、これも仕事だ。そう割り切らなければ、夜鴉なんてやっていけない。

 一時間も経つと、集落に人間の臭いがすると鬼達が噂し始めた。

 想定内で焦りはしないが、村を巡回する鬼達の目を盗みながらの捜索を余儀なくされ、格段に動き辛くなった。
 まるで、広い村を舞台に本物の鬼を相手にかくれ鬼をしているみたいだ。

「これぞリアル隠れ鬼だな。見つかったら鬼にされちまうぞ」

 虎徹が笑いながら言った。ボキャブラリーの少ない陽平だったら、虎徹のやや高度なジョークの意味が解らなかったかもしれない。
 光季は虎徹の意味するところがわかった。

 鬼にされる、すなわち鬼籍にされると隠喩したのだろう。
 鬼籍、つまりは死だ。

 光季はなんとも思わないが、こんな時に洒落にならない冗談を言われたら、頭にくる人だっている。
 まったく空気を読まない虎徹に、思わず溜息が漏れた。

 やばい、武志さんが青褪めてる。虎徹さんの言った意味がわかっちゃったのか。

 誰が見ても解るくらい青い顔をした武志を、光季は気の毒に思った。
 唇を真一文字に引き結んで押し黙っている武志の代わりに、光季は虎徹に軽いチョップをお見舞いする。

「虎徹さん、面白くない冗談言ってないで、どうするか考えてよ」
「ふっ、悪い悪い。うちには一人チキンがいたのを忘れていた」

 光季は悪びれない虎徹を軽く睨むと、武志に笑いかけた。

「森の中に身を顰めて、鬼の動きしばらく観察しませんか?奴らの行動パターンがわかったら、見つからないように捜索活動を続けられるし、休憩ついでになると思います」

「あ、ああ。そうだな。光季の案に乗ろう。なあ、虎徹」
「まあ、妥当な判断だな。よし、移動するぞ」

 木や家の影に隠れながら、如月隊の四人は人里から数キロ離れた森の中に身を隠した。

 休憩がてら、双眼鏡を使って鬼の動きを観察する。
 暫くすると、二人は森から鬼の動き見張り、残り二人が彼らから鬼の動きを聞きながら、慎重に人家の捜索にあたった。

 思うように捜索活動ができないでいる内に夜が訪れた。
 赤かった空が闇色に染まり、星が煌めく。

 人間界と変わらない普通の夜だ。

 霊体は肉体よりずっと体力が優れており、夜は寝なくても日中と変わらず活動することができる。
 霊力を使わなければ、少なくとも一週間は睡眠をとらずにぶっ通しで動き回れる。

 だが、夜になっても鬼が村を徘徊しているため、慎重な行動が必要だった。
 鬼は夜目がきく。闇に乗じて奇襲をかけたり、捜索をしたりするわけにはいかない。

 霊体の五感は肉体より少し優れている程度で、暗闇でも目が見えるわけではない。鬼よりも不利だ。

「無理に動くのは危険だな。明日、夜が明けたら捜索を開始する。それまで交代で見張りをしながら休んでおけ。まずは俺が見張るから、オマエらは休め」

 双眼鏡を手に、ひらりと虎徹が木の上に飛びあがった。

 光季は太い幹に凭れかかると、携帯食のチョコレートがかかったシリアルバーを齧る。
 霊体の間は腹が減らないし餓死もしない。
 おまけにほんの少しのエネルギー摂取で効率よく栄養が吸収される。
 シリアルバーだけでも十分だ。

 甘いミルクチョコに香ばしいシリアル。携帯食にしては意外と美味しい。

「うまいけど、夕飯がシリアルバーだけとか侘びしいな。食べざかりには辛いよな」

 ポツリと光季が文句を言うと、京弥がくすりと笑った。

「確かに、隠密活動や戦闘になると飯が不十分で嫌ですよね。焼き肉とかカレーとか、がっつりしたものが食いたいですね」

「あー、いいな。おれもコンビニでチキン食いたい」

 他愛ない話をしながらゆっくりとシリアルバーを食べ終えると、光季は目を閉じた。

 眠くはなかったが、いつの間にか眠っていたようだ。
 見張りの交代の時間がきて、虎徹から揺り起こされた。

「すみません、虎徹さん。おれ、寝ちゃってました」
「別にいいぞ。怖くて寝れないやつより、図太く寝ちまえるヤツの方がずっといい」

 虎徹が揶揄するような目を武志に向けた。
 虎徹の視線に気付かない武志は、深刻な顔でじっと闇を睨んでいた。

 今回の渡界は今までより過酷だ。人間に友好的な穏健派の妖怪の助けはないし、強い鬼がうじゃうじゃといる。武志が張り詰めるのも無理はない。

 武志の気を紛らわすような言葉が思い付かない。
 どっちにしても、年下に心配されちゃ年上のメンツが丸潰れだろう。
 光季は武志の様子に気付かないふりをした。



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