恐怖短編集

神名代洸

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恐怖短編集

携帯  〜呪いの動画〜

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噂はあった。
そのものは見た事はなかったけれど…。
それを知ったものは呪われると言う。
今のご時世、中学から携帯を持つのは当たり前となっていた。学校の連絡事項はメール等で送られる事が多いから。
前は電話で回してたけど繋がらない人が多かったので学校から子供達に持たせるように通達があったから。
家庭によっては持たせるのはまだ早いと考える親もいたが、学校から必要と言われては如何しようもない。
1番安い利用料のを買う親がほとんどだった。だけど子供達にとってはおもちゃのようなもの。
写真機能やメール等面白くてついつい触っていた。でもそれは初めだけ。慣れるとなんとも思わなくなり、登下校以外では使うものはほとんどいなかった。

だけど今彼女の目の前、携帯の中のそれは動画のようだ。
メールに添付されていた。
アドレスを見ても誰かわからない。
親からは知らないアドレスは触らない事と言われていたが、興味本位でのぞいてしまった。それが彼女にとって恐怖の始まりだ。

動画を見るとそれは如何やら森のような木々の中だった。
そこには男女がいた。何かをしているようだが、それがなんなのかはわからなかった。
如何やら全員で4人のようだ。
焦っているのか何かから逃げているのか…とにかく後ろを振り返りながら走っている。動画を撮っている人も同様に走っているらしく、画像が揺れていた。

「な、なぁ、そんなのいつまで撮ってるんだよ。早く逃げようぜ!ヤバいって。マジ。」
「だけどこんなチャンス滅多にないって。本物の幽霊だよ?」カメラを構える男は言う。
「私やだよ?早く帰ろうよ。怖いって。」
「ワタシも…ってやだ!アレ……じゃない?」
遠くに何かの塊を見た気がしたが、カメラを持つ男が振り向くと目の前に髪がびしょ濡れで立つ女が。下を向いている為顔の表情は窺い知れない。だけど何か背筋がゾゾっとする感じがして手が震えていた。

「「「「ヒッ!」」」」

女の首がグルッと180度周り、背を向けているはずの体と反対方向に首が回った。
口からは真っ赤な血が。

4人は狂ったようにその場から逃げ出したが、男が1人大きく転んだ。他の3人は気づいて助けようとしたのだが、転んだ男は何かに引っ張られるように地面を引き摺られて森の奥深くに消えて行った。怖くなった残りの3人は携帯の録画機能を停止し忘れたままその場から逃げ出した。


その後文章が現れた。


※この動画を見たものは呪われる。
 逃れる為には他の誰かにこの動画を見せなければならない。猶予は1週間。それを過ぎると呪いは発動する。
 また、それ以外の方法は………。
 メールが来た時点でアドレスを開かず携帯を破棄する事だ。


彼女は悩んだ。
メールを送ると相手にばれてしまわないかと。それによってイジメとかされたらやだなと思った。けどそのとき思ったんだ。イジメをしそうな相手に送ればいいんじゃないかって。送る側のアドレスは適当に入力する事はできないのかと考えたが、わからなかった為一か八かで送ってみる事にした。
すると如何だろう…。送れたようだ。
ホッとした。
これで私は助かる。
手に汗をかいていた。汗びっしょりだ。
でも何処かホッとしている自分がいた。





一方、送られた女子は誰からのメールかわからなかったので一応ネットで調べて見た。するとヒットしてびっくりした。
ネット内では多くの書き込みがあった。
女子は驚いたが、アドレスに見覚えはないし、学校関係なら登録してあるからわかると考えた。
でも開く気はなかった。
如何やら都市伝説的なものでオカルトっぽかったから。
怖いのは苦手だから…けど強がっている自分が嫌がっていた。やめとこ。
けどね?
おかしいんだよ?
女子自身は何もボタン触っていないのに時間が経ったらクリックボタンが動いたなんて。
自動で動画が取り込まれた。

そんなバカなと思ったが、取り込んでしまったということはこれを誰かに送らないと自分が如何なるか…想像しただけで怖くなった。つるむと怖くないが、実際一人で…となると話は変わってくる。怖いものは怖いのだ。
送り先は如何しよう……。けど悩んでいる暇などなかった。
おとなしそうなやつを狙った。けどアドレスが。分からない。知ってる子を探すのが大変だった。
なんせおとなしいイコールいじめの対象となるのがほとんどだったから。
かくいう私もいじめてる側の一人だ。
簡単には分からないと考えた。
そこで、適当なアドレスを書いて、そこに送ることを考えた。だけど相手先のアドレスが利用がない為弾かれた。

「うーん、何よ!誰だっていいじゃない。なんで無理なの?」
弾かれた理由がわからない為私は混乱した。
見本に書かれているアドレスをいくつも書いたりもした。
でもなんでか弾かれる。

時間だけが過ぎて行くこの恐怖は他の誰にもわからないだろう…。
でもだからといって男子に頼るわけには行かなかった。
だって私は繊細な女の子という触れ込みで皆に知られているから。そんな私がアドレス教えて?なんて言えるわけがない。そもそも理由を聞かれたら答えられる自信はない。
自分が助かりたいが為の情報を知りたいなんて引かれるに違いない。だから私は自分からは聞かないことにしている。
だけどね?たまたま偶然だけど私が嫌いな男子生徒のアドレスがわかった。
からかいついでに男子たちに問いかけたらその子のを教えてくれたんだ。なんて奴らだよ。
クラスメイト?友達犠牲にするなんてさ。呆れてものが言えない。まぁ、私もだけど…。ありがたく早速そのアドレスを入力して動画を貼って送った。
1人…やっと1人だった。
その子は今頃どうしてるだろうかと気になったので探してこっそり覗いてみることにした。
何食わぬ顔でアドレスを開かずに消したようだ。
知らないアドレスだったからか、…まさか私から…なんて気づくはずないよね?
それだったらやばいし。

同じアドレスに何度送ってもきっとカウントされないだろうなぁと思い、よくテレビとかで使われているアドレスにも手当たり次第に送り続けた。
もう何人に送ったかなんて覚えていない。
流石にもういいかなと思い、自分のアドレスに送られた動画を消すことにした。結果は…消えた。やったぁ!とガッツポーズをとっていたら周りの人が何事かとこちらを見ているじゃないか。
恥ずかしかったからすぐその場を後にした。
4日たった頃、またメール音がなった。
アドレスを確認するとあのメールだったことがわかりすぐに消した。
誰?一体誰が私のメアドにメール入れるの?私の知ってる子…じゃない、よね?

怖くてたまらなくなったから、親に迷惑メールくるからアドレス変えるねと話し、さっさと変えた。今度はわかりにくいように長い単語と数字を入れて作った。当然友達とかには変えたことを教えていない。
どこから情報が漏れるかわからないから心配だったんだ。
怖いもん。
あと、送られるメールを指定してそれ以外はロックをかけた。それで大体は弾かれるはず。

思った通りに迷惑メールは弾かれているのか目にすることはなかった。


そしたらさ、仲のいい子が変なメールが来たと言う。?初めはなんのことか分からずにいたが、ふと思い出した恐怖のメールにゴクリと唾を飲み込んだ。
指定された画像を開いたら戻れない。だから必死になって友達にメールをすぐに消すようにいった。
友達はすぐに消したが、携帯がおかしかった気がしたそうだ。ま、まさか間に合わなかった?
震える手で友達の携帯をかりてメール画面に切り替える。
それはあった…。
開かれた状態で。
私は友達に何も言えなかった。
何処から始まったかわからなかったこの呪いの画面。
私のアドレスには当然入ることはない。
メルアドをでたらめに変えているから。
友達が困った顔をしていても教えなかった。
ふとしたことがきっかけでまた恐怖のメールが来たら立ち直れない。
その子は何か言いたそうにしていたが、話を誤魔化し話題を変えた。その子が気になる芸能人の事を話したのだ。
すぐにその話題に飛びついたその子は忘れてしまったかのように話で盛り上がった。
私は怖かったから一刻も早くその子から離れたくて仕方がなかったからトイレに行くといって別れた。

その日はもう何も頭に入らなかった。
用事が終わると速攻帰った。
汗をかきながら自宅に戻ると携帯の電源をつけた。
メールは…ない。
今日もなかった。
ホッとした。

そしたらいきなり電話がなって驚いた。
友達からだった。
私が最後に話したその子が車に撥ねられて即死だったそうだ。
私はその言葉を聞いて携帯を落としてしまった。布団の上だったから大丈夫だと思っていたのに角に少しヒビが入っていた。
「まさか…冗談でしょ?」
「見た子がいたんだよ。間違いじゃない。」
「そ、そんなぁ~。」
「なんかその子手に携帯を握りしめていたって。」
「え?。」
「大丈夫?」
「あっ、う、うん。」
「だからさ、学校からメールが届くだろうから詳しくはそれを見てって事らしいよ?。」

ヤバい。
学校からの連絡はメールだった…。
親の携帯に入ってないかなぁと思ったので聞いてみたが、何も無いと言われガックリと肩を落とした。
メール変えたから当然入るわけが無いのだ。
学校に連絡したら今回だけよとメールの内容を聞くことができた。
新しいメルアド早く登録しなさいと言われたので一応返事だけはしておいた。当然登録する気はない。この問題が解決するまでは…。

他のクラスでもどうやら同様の事件になり、教師も問題だという認識になり、警察も動き始めた。
亡くなったのは2人。
うちのクラスの子を入れてだ。
変なメールが届くという意見が多かった。だから当分はメールは無しでということで話がまとまり、連絡はまた紙で送られる事になった。
ホッとした子が何人か見えたので、どれだけの子があのメールを見たのかを想像しただけでゾッとした。

メールを見なくなった事により、また携帯電話で遊ぶ者が出始めた。ただメールだけは見ていないようだ。ラインでやり取りしているらしい。
私も…と思ったが、頭の隅で警報音が鳴るのでやめとこうと思った。
それから1週間後、皆携帯を持参しなくなった。
どうやら誰かに何かあったのか皆硬い表情をしていた。

誰も怖くて聞けないのだ。
私もそうだから。


その後、誰がどうなったかは分からない。でも仲間の姿がなくなったことに気づいているから、きっとなにかあったに違いない。



それ以降、その話題は口にするものはいなくなった。
いなくなった仲間は結局どうなったかは分からずじまいで、担任から転校したとだけ聞かされた。本当か嘘かは分からない。だけど聞く勇気はない。


そもそも何でメールで動画が送られたのかが分からない。誰が?何の目的で?
でももうそんなことはどうでもいいやと思った。
何もないことが1番だと思うようになったから。



何もないことって何?

クスクス。

誰かが笑っている。
でも私は気づかない。
それでいい。
うん。
それで……。
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