真夏の夜の始まり

神名代洸

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真夏の夜の始まり

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「さみしい…。」



そう思っている。
何故かって?


ここには誰もいないから…。


ここは墓場だ。
人っ子一人いない墓地。
何故こんな場所にいるかというと、夏にはやることといえば肝試し。
そう、これは彼等の罰ゲーム。



僕は体も小さく女子にモテない。
そこで簡単なゲームをするという話になったのだが、相手はクラス一の人気の女子だった。そんな子が僕なんか相手にするわけないとはわかってたけど、僕の周りにいる奴らみんな分かってて僕にちょっかいをかけてくるんだ。嫌になっちゃうよ。
クラス一の人気のある女子の野上さんはすらりとした体型なのにでるところは出ていた。そう、僕くらいの男子達の憧れの存在だ。
そんな彼女の前で無様な失態だけは避けたいと思うのはなしだろうか?
だけど、彼女にはまったく意識されていないということもわかってはいた。
だからここでビシッと男らしいところを見せて見たいと思ったのだ。我ながら単純である。
でも一人でここにきて一体なにをすればいいのか…、また誰が僕がここにいるのを確認するのか全く知らされていない。
わからないから余計に怖いのだ。
誰か一人でもここにいてくれたら。
でもさ~、こんな暗い場所に待機している方もきっと怖いに違いない。諦めるしかないと思い、気合いを入れ直して進むべき方角へ向かった。
ここには御堂がある。
廃れているのか所々穴が空いていた。
誰も管理していないのか?
不気味さが漂う。

暗い御堂の中はまあまあ整理されてる方だと思う。
ホコリらしきものも見られない。と言う事は最近誰かがここに入ったと言うことか?管理してる人が近くにいるのかもと淡い期待を持って周辺を捜索し始めたが、誰もいそうにない事がわかるとガッカリ感が半端なかった。

肩を落としながらも進むことを続けたが、誰にも合わないことによる恐怖は半端ない。
真っ暗な中、唯一の明かりであるこの小さな懐中電灯はいまにも切れそうな球切れを起こしつつあった。
「まっ、マジかよ~。勘弁しろよ~。ここで暗くなったらどうやって帰るんだよ。」
僕はそのことを一番に考えた。

その時突然カミナリが鳴り始めた。
マジかよ。
傘なんか持ってないぞ?
雨なんか降り出したらたまったもんじゃない。
僕は慌ててみんなが言っていた用事を済ませ、その場から離れようとしたのだが、大きな雷のせいか動くことができなくなっていた。そうこうしているうちに雨が降り始め、益々動けなくなる。

「マジ勘弁。どうやって帰ろう…。おーい!誰かいるか?」
僕は辺りを見回して見たが、やはり誰の姿も見ることがない。きっとどこかでほくそ笑んでいるに違いない。全くもっていい迷惑である。

「さっ、とっとと帰ろうかな~。」
その時何処かからか小さな声が聞こえた気がした。
かすかな為雨にかき消されそうになっており、僕は慌てた。

「だ、誰?誰かいるの?」
「こ、ここ…。」
その声を頼りに懐中電灯の明かりをあてながら歩いて行くと、そこには髪の長い女性が1人座っていた。

「君、誰?」
「わた、私ね…。」それだけ言うが早いか僕の方へと向かって来た。びっくりした僕はその場で尻餅をついてしまった。腰が抜けたのだ。

「クスッ、クスクスクス♪ひっかかったね。」そこにいたのはあの噂の野上さんだった。彼女と男子達がそこに隠れていたのだ。
「腰抜かしてるなんて、子供ね。」
そう言いながら野上さんは笑っていた。
正直こんなことをする子だとは思っても見なかった。ちょっとガッカリ。
でもまぁいいや。本当の彼女を知った感じがしたから。憧れもどこかへ消えてしまった。
僕は彼らを放っておいて帰ることにした。
「ちょっと待ちなさいよ。置いてくの?私達を。」
「僕をはめようとしていたあなた達のことなんかもうどうだっていいですよ。それよりも雨が降って来てるから早く帰りたいだけなんで。」
僕はそれだけ言うとその場を後にした。仲間達はその場に突っ立っていた。

僕との距離をどんどんと広げていく彼ら。
その彼らもようやく動く気になったらしい。
時々叫び声が聞こえる。おおかた雷が怖いんだろう。僕らへっちゃらだけどね。
彼らは大人数だから怖いとは思わないだろう。
それよりも僕の方だ。
懐中電灯の光は相変わらず点滅していた。
どうやらここまでかもしれない。
そうしたら後から来た彼らと共に帰るだけなのだが、いつまでたってもやってこないことに苛立ちと不安を感じていた。

「いったいいつまでかかってるんだ?ここまで大した距離じゃないんだけど…。」
そう、確かに大した距離じゃない。
電柱が5本程度だ。
それにさっきから何も音が聞こえてこない。
また僕をはめようとしてるのか?
腹が立ったので文句の一つでも言ってやろうと戻り始めたのだが、いくら歩いても彼らと合わない。オカシイ。
何で?
ただの一本道のはず。
建物はここらはない。
あるとすれば獣道のみ。
とてもこんな森の中に入ったとは思えない。
それにしても変だ。
10人近くいたのに1人もいないなんて…。
唯一あったのは脱げた靴が片方だけ。
何かあったんだ。

怖くなった僕は自宅に向かって走り出した。
もう後ろを振り返るなんてことはしない。
振り返っても何もないからだ。それに何かある気配を感じて薄気味悪い。
歩いている時、メガネに何かが当たった気がした。
触るとぬるっとしている。
鉄の匂いがした気がした。
懐中電灯の明かりでは黒っぽい色としかわからなかった。
ポトッ。
何かが落ちて来た感じがした。何処から?
空から。
肩に何か当たったのだ。

塊は拳大の何かだった。
それが何かはわからない。
懐中電灯の明かりでははっきりとはわからない。それが恐怖を呼び込んだ。

「ウワッ?!ウワ~!!」
死にものぐるいでその場を走った。
ようやく自宅に着くと出迎えた両親が真っ青な顔をして僕を見ていた。

「あんた、どうやって帰って来たの?その足の怪我は何?確か友達と一緒じゃなかったの?その子達は?」

僕は両親にことの顛末を話して聞かせ、途中で帰って来てしまったことを伝えた。
両親は真っ青な顔をさらに真っ青にしてこう言った。

「あんたのクラスの子達はバス事故でひと月前に亡くなったんじゃなかった?確か助かったのは数人で、あんたの中の良かった子達みんな死んじまってる筈だよ?あんたよく帰ってこれたね。多分あんたを呼んだんじゃないかな?ほら、ちょうど今お盆だから。」
言われて見たらおかしなことはいくつもあった。
みんな真っ青な顔をしていたのと、服装があっていなかった事だ。今は夏なのに冬服を着ていた。

僕は思い出しただけでガタガタと震えてしまった。



それから毎年夏になると県外から帰省しては事故現場に花をたむけている。
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