学生コーチ

シカマル

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序章

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    山崎宏は中学の同級生からの誘いも断り家で春の選抜を見ていた。中学時代は野球のクラブチームでエースだった山崎だが肘の靭帯を損傷、それでも痛みに耐え投げた事で断裂し今ではまともにマウンドからホームまで投げる事も出来ない。怪我をしてからは野球が嫌いになったと思っていたがこうしてまた選抜を見ているという事は本能的に野球好きという事なんだと感じさせられていた。試合が進むにつれてある高校の紹介が入った、そこで山崎は怪我をした選手が学生コーチとして指導している姿を見た。
(野球なんてやらないと面白くもなんともないだろ)
常々そう思っている山崎にとっては以前までならなんとも思わない光景だったが、今の山崎には何故かそれが少し希望のように感じられた。
    桜が満開となり春真っ盛りを迎えた中山崎は真新しい制服を着て入学式へと向かった。宮城県県立仙台北高校それほど頭がいい訳では無いが悪くもない平凡な高校である。もっとハイレベルな高校への進学も考えていたが家から近く元チームメイトがいないのを理由に北高校へ進学していた。無事入学式が終わり帰ろうとしていると
「あれ?山崎じゃん久しぶりだな」
聞きたくもない声が聞こえてきた。
「相変わらず元気そうだな小笠原」
この男は小笠原尚之。よく中学時代に対戦したチームキャプテンをしていた。
「肘は治ったのか?」
そう聞かれると
「もう投げられないよ」
とつぶやくように返した。そうすると小笠原は間髪入れずに
「なら学生コーチなんてどうだ?おまえの観察力と野球脳の高さがあればピッタリだと思うけどな」
意外な提案に驚いたが
「俺にとって野球は自分でやらないと面白くもなんともないんだよ」
と持論を展開すると小笠原は
「俺のプレーヤーとしての特徴はなんだ?」
山崎は冷静に過去振り返りながら答えた
「打撃に関しては広角に打つ力があるがスイング的に高めが弱く速球に刺されやすい。守備はショートを主にやってたけど深い位置からのスローイングが強かったりと肩が強いく前へのチャージが早いけど意外と守備範囲が狭い。走塁は足が速いが盗塁のスタートが良い訳ではなくベースランニングが特別速くはない。他にはキャプテンとして優秀。こんな感じだろ。」
小笠原は満足気に言った
「その力が学生コーチにピッタリなんだって言ってるんだよ。確かに野球をするのは楽しい。でもさコーチとして選手の良いところとかを伸ばして強くして勝たせるのも面白いんじゃないかな」
小笠原の言葉に山崎は心が揺さぶられていた。
「なあ中学時代は敵だったけどさ今度は一緒に甲子園目指そうよ」
この言葉で山崎の中の何が壊れた気がした。
「そこまで言うだったらやるよ。一緒に目指そうぜ甲子園」
ここから山崎宏の第2の野球人生が始まる。
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