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第三章 お兄様公爵とうちのお義兄さま

1 前線

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 ボクが率いる本隊は、先の戦いで活躍した投石部隊や狩人出身の弓兵部隊がメインの構成です。遠距離攻撃は得意だが、正面から当たればあまり強くないのがほとんどです。
 防衛線向けの構成にしたのは、切り込みたいならば先遣隊がいるからです。剣術道場出身者がメインの先遣隊は近接戦闘では圧倒的な強さを誇ると思いますし。

 本隊の総指揮官はボクで、副官はエミリーにお願いしています。
 魔の森辺境地域からまとめてくれていたのはうちの義父です。一番奥の村なので、とりまとめしやすかったようですし、強いので地域からの信頼も厚いんですよね。
 義父は普通にボクより強いので、いるといろいろ安心できます。一騎討があったら今度は義父に丸投げする予定ですので、それまで大事にいたわっておくことにします。


「そう言えばアーシェ様、今回服はいかがですか?」
「わるくないですね」


 今までの謎のビキニアーマー装甲抜き服は、最近胸やらお尻やらがきつくなり始めたので、新しい服を仕立て直しました。
 伝統の竜姫騎士衣装は、いくつかパターンがあるようで、エミリーのアドバイスの元、デザインを決めました。
 首元から右わきにかけて謎のスリットが入ったノースリーブへそ出しの白い上着に、肘のあたりで固定する付け袖、股下0cmのマイクロミニスカートという、やはり痴女ってる服ですが、まあビキニよりはましだと信じましょう。座っているだけでパンツ見えていますが気にしないことにします。


「アーシェ様、今回の戦い、勝算はどの程度あるのでしょうか?」
「うーん、現地に行かなきゃわからないことはいっぱいあるけど、ひとまず負けることはないと思いますよ」


 ボクだけでしたら馬で移動していましたが、エミリーがいるので今回は馬車移動です。これはこれで結構快適ですね。道が整備されている場所しか使えない欠点はありますが、今回の前線近くまでは食糧備蓄などと並行で道を整備していました。なので、馬車移動でもそこまで困りません。
 そんな移動中、エミリーがボクに戦争の行方を聞いてきました。なので負けることはないという答えを返します。


「? どうしてですか?」
「仮に敵が同数ならば、防御陣地に頼ったこちらが圧倒的に有利だから負けるわけがないわけです」


 野戦築城と遠距離攻撃の組み合わせは非常に凶悪です。
 これを破るには、数で押して空堀を埋め、障害物を壊した後に強い人物を突入させて暴れる、ぐらいしかありません。辺境伯軍は前回その攻略法をしようとしましたが、突入した辺境伯がボクに負けたためボロボロになりました。
 つまりハイリスクすぎる攻略法です。
 もう一つは防衛陣地を迂回する方法ですが、そう簡単にはいきません。道から外れれば移動は圧倒的に困難になりますし、補給も難しくなります。言うほど簡単ではないわけです。

 そうすると、現状の防衛陣地を公爵軍から守るには、同数でも過大です。倍ぐらいまでは防ぎきれるでしょう。


「しかし、公爵の全兵力は辺境伯の3倍以上です、数で押されたら難しいのでは?」
「そりゃこっちは500ですから、3000も4000もつれてこられたらかなり厳しいでしょうね。ですけど、それはありえないんです」
「そうなんですか?」
「いくつもの領が隣にある公爵は、一つの方面で全力は出せません。なので公爵軍の大多数をここで投入するとは考えにくいです。更に補給の問題があります」
「ご飯ですか」
「そうです。今回500の兵を維持するだけでもそれなりに大変だったのはエミリーもわかっていると思います。もちろん公爵側は略奪などもしているでしょうが、現状公爵軍が占領しているのは小さな村ばかりです。ですから、略奪してもそこまでの兵の維持ができません。500程度ならそこまで維持に苦労しないでしょうが、これが3000,4000となればすぐに補給不足で動けなくなりますよ」


 数は偉大ですが、戦場に兵数を投げ込み過ぎればすぐに補給がパンクします。
 戦場に合った適切な数がありますから、それを大幅に超える出兵は何もいいことはないでしょう。
 仮にそれだけの数を送ってくれば、徹底的に時間稼ぎをする予定です。それだけで兵は飢えて動けなくなるでしょう。人は3日も食べなければ動けなくなる生き物ですから。


「だから負けることはないんです。あとはいかにこの戦いを終わらせるか、ですが、それは相手の目標次第ですね」


 負けないことは大切です。ですが勝つためにはさらに一歩踏み込まないといけません。
 だからこそ、ボクは前線に赴く必要があります。


 行軍は予定通り進みました。食料の備蓄に道の整備、簡易宿泊施設の拡張で、それなりに快適な行軍ができています。
 予定通り、出発から3日後、ボク達は前線へと到着したのでした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ご到着お疲れ様です、マーチ辺境伯殿下」
「そんなに堅苦しくなくていいですよ、セバスさん。戦況はどんな感じですか?」
「公爵軍の先遣隊が何度か威力偵察をしてくるぐらいですね。本隊はまだここにたどり着いていません。ハラスメント攻撃も仕掛けていますから。早くともたどり着くのは2日後ですね」


 到着して早速、セバスさんから戦況を聞きます。
 土塁の上に上ると、敵軍の駐屯地が見えます。数はざっと300程度。あまり多くないですね。と言っても先遣隊ですから、本隊が来れば数は増えるでしょう。


「本隊はどれくらいの数が?」
「500以上のようです。総勢1000に行くかどうかぐらいですね」
「なるほど」


 予想よりは多い数ですが、こちらの倍は越えないだろうという想定された範囲内には収まります。ひとまず慌てるような状況ではなさそうです。


「ちなみにハラスメント攻撃を仕掛けているのはどの部隊ですか?」
「占領された男爵たちが組織した義勇兵部隊ですね。地の利を生かしてそれなりに損害を出しているようです」
「卒がないですね」


 てっきり先遣隊をうまく使っているのかと思っていましたが、もっと上手い手を使っていました。誰が考えたのかはわかりませんが、占領されて逃げてきた男爵とその周辺の人たちを使って臨時の部隊を作り上げたようです。彼らも自分の故郷を攻められていますからそりゃ抵抗しますよね。
 ですが、特に地の利については圧倒的に分があるでしょう。それを活かした射撃や投石攻撃に、本隊の移動は目に見えるレベルで妨げられているようです。


「本隊の方への攻撃は継続するように伝えてください。無理はせず、損害は出さないようにと」
「お優しいことで」
「人が国を支えるんですから、少しでも多いほうがいいんですよ」


 一時期敵対的だったわけですから、ネガティブな感情を抱く気持ちはわからなくもないですが、貢献してくれている以上、評価するべきです。
 そして遅延行動自体はあくまで相手の消耗を増やすための手段でしかありませんから、無理をする話でもありません。辺境伯領を栄えさせるために人は多いほうがいいのです。


「しかし、この状況ならばあの先遣隊をどうにかしておきたいですね」
「どうしますか? いままで挑発は散々したのですが全く乗ってくれないので、防御陣地を使った消耗戦は難しそうですが……」
「自制の利くぐらいには最低でも優秀な部隊ですか。正面からは当たりたくないですね。アルゥちゃん呼んでもらえます」
「わかりました」


 陣地を使った防御線は安定的に有利をとれますが、相手が攻めてこないと使えないという欠点があります。数がこちらの倍で押されると、万が一があると大変ですし、合流前に削れるものは削りたいところです。


「アーシェちゃん、お呼びかな?」
「アルゥちゃん、待ってました。今晩夜襲を仕掛けたいから、抜剣隊貸して」
「了解。参加するのは抜剣隊だけ?」
「貴族で剣の腕に自信がある人は声をかけるけど、どこまで参加するかはわからないかな。夕方に作戦会議するから、会議室までくるように伝えておいて」
「あいさ」


 抜剣隊は剣術道場で修業をしていたメンバーで構成される部隊で、一定レベル以上の身体強化が使える、攻撃のエリートです。
 現状20人しかいませんが、こと奇襲や襲撃ならばこれほど強い部隊はないでしょう。消耗したくないのでできるだけ大事に使いますが。

 目の前のあれをどうにかする算段は立てました。
 あとは本隊到着後に備えて、ボクが連れてきたこちらの本隊の布陣を考えましょう。
 やることはまだまだ終わりません。
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