辺境領の業務日誌 あるいは新人領主とその秘書官のドタバタな日常

みやび

文字の大きさ
14 / 14
帝国歴628年4月16日 帝都への旅

帝都への旅 1

しおりを挟む
「ということで、一度帝都に行くよ」

 新領主就任から1週間。アーシェロットがまたとんでもないことを言い始めた。



 この町も所属している国家、帝国の中心地である帝都。
 そこには世界中のあらゆるものが集まり、至高の存在である皇帝陛下が存ずる場所だ。
 当然帝国内の各種手続きもそこで可能であり、前に話が出た流民などの受け入れの手続きもそこで可能なのだろう。

 ただ、辺境のこの町と帝都は非常に離れている。
 ちゃんとした距離をツバキは知らないが、片道1週間ではきかないぐらいの距離は余裕であるだろう。
 なんせ隣の領まで行くのにも徒歩で1日かかるのだ。

 行って帰ってくるだけで下手すると数か月かかってしまう。
 食料や着替えなどの準備もかなり入念にする必要があるだろう。
 町を開ける間の準備もかなり入念に必要だ。
 そんなところに近所の店に買い物に行くかのような気軽さで行けるはずがない。
 今からちょっと行ってくる、みたいなノリで行ける場所ではなかった。


「で、いつ出発してどういうスケジュールの予定?」

 ツバキはあきらめてスケジュールを確認した。
 無茶苦茶なことを言っているが、自分は帝都のことを知らないのだ。もしかしたら今から戻らないといけない理由があるのかもしれないし、反対はしにくかった。

「出発は明日朝。午後には帝都に到着して、そのまま皇太子殿下にご挨拶。その後はお城に行って手続きをして、夕方には帝都を出発。夜には町に帰ってくる予定だね。時間によっては明々後日朝に帝都を出発になるかもだけど」
「…… いやいや、帝都まで半日で行くのは無理でしょ」

 予想以上に短いスケジュールに呆然としたツバキだが、移動時間が短すぎるのにはツッコむしかできなかった。
 歩いて半日など、南の森を抜けるのが精いっぱいだ。
 馬を使えば隣の領の中心まで行けるかもしれないが、そんなものはこの町には存在しない。
 それだって半日でたどり着けるのはせいぜい隣の領までだ。
 どんな手段を使えばそんな短期間で移動できるのか。それに対するアーシェロットの答えは意外なものであった。

「ボクが竜化して運ぶから大丈夫だよ」
「りゅうか?」
「竜に変身して、空を飛ぶの。がおーって。帝都まで半日もかからないよ」
「?????」

 人が竜になるといわれても全然ピンとこない。
 思わずアーシェロットの頬を引っ張るツバキ。いつも通り柔らかい。

「ふにゃー!? 夢と疑うなら自分の頬をつねるんじゃないの!?」

 じたばたするアーシェロットはいつも通りであった。



 行きの昼食のお弁当だけ準備すればいいといわれ、ツバキは干し肉と固焼きビスケットを用意した。かなり硬くて歯が立たないが、まあ、しゃぶっていれば食べられなくもない、といった代物だ。
 同行者はツバキのほか、町の交易をおこなっているランになった。
 帝都に行くだけでなく、いろいろ買い物をして帰ってくる予定らしい。
 娘のボタンちゃんも、最初は一緒に行くことを考えていたが、本人が毛玉になって頑として動こうとしなかったので、町の人にお願いしておいていくことになった。

 帝都に持っていく荷物は、熊の胆や、毛皮、骨などだ。
 アーシェロットがどこからか持ってきた、人の背の高さほどもある籠、竜籠にそれらの荷物を入れていく。人も入ることが出来そうな大きさであり、現に人を入れて運ぶこともできるのだとか。

 荷物の準備ができると、アーシェロットが広場に出てきた。
 町の人も広場に集まっている。竜になると聞いてみな興味津々だ。

「じゃあいっくよー」

 のんびりした掛け声とともに、アーシェロットは光る。
 一瞬の光が収まると、そこには真っ白な竜がいた。高さは3mほどか。かなり大きな竜である。

「うん、絶好調だね」

 ぱたぱたと羽を動かす白竜アーシェロット。
 そのまま地面に伏せて

「背中に乗って乗って」

 と言い始める。
 ツバキとランは、どうにかその背中によじ登る。
 いつの間にかわからないが、アーシェロットの背中には鞍が括り付けられていた。

「ちゃんとベルトもしてね。落ちたら大変だから」

 鞍にまたがり、ベルトを締める二人。
 子供たちの歓声が上がる。

「それじゃ、行ってきます。遅くても3日後には帰るから」

 翼をはためかせ、アーシェロットは空へと舞いあがった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...