辺境領の業務日誌 あるいは新人領主とその秘書官のドタバタな日常

みやび

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帝国歴628年4月16日 帝都への旅

帝都への旅 1

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「ということで、一度帝都に行くよ」

 新領主就任から1週間。アーシェロットがまたとんでもないことを言い始めた。



 この町も所属している国家、帝国の中心地である帝都。
 そこには世界中のあらゆるものが集まり、至高の存在である皇帝陛下が存ずる場所だ。
 当然帝国内の各種手続きもそこで可能であり、前に話が出た流民などの受け入れの手続きもそこで可能なのだろう。

 ただ、辺境のこの町と帝都は非常に離れている。
 ちゃんとした距離をツバキは知らないが、片道1週間ではきかないぐらいの距離は余裕であるだろう。
 なんせ隣の領まで行くのにも徒歩で1日かかるのだ。

 行って帰ってくるだけで下手すると数か月かかってしまう。
 食料や着替えなどの準備もかなり入念にする必要があるだろう。
 町を開ける間の準備もかなり入念に必要だ。
 そんなところに近所の店に買い物に行くかのような気軽さで行けるはずがない。
 今からちょっと行ってくる、みたいなノリで行ける場所ではなかった。


「で、いつ出発してどういうスケジュールの予定?」

 ツバキはあきらめてスケジュールを確認した。
 無茶苦茶なことを言っているが、自分は帝都のことを知らないのだ。もしかしたら今から戻らないといけない理由があるのかもしれないし、反対はしにくかった。

「出発は明日朝。午後には帝都に到着して、そのまま皇太子殿下にご挨拶。その後はお城に行って手続きをして、夕方には帝都を出発。夜には町に帰ってくる予定だね。時間によっては明々後日朝に帝都を出発になるかもだけど」
「…… いやいや、帝都まで半日で行くのは無理でしょ」

 予想以上に短いスケジュールに呆然としたツバキだが、移動時間が短すぎるのにはツッコむしかできなかった。
 歩いて半日など、南の森を抜けるのが精いっぱいだ。
 馬を使えば隣の領の中心まで行けるかもしれないが、そんなものはこの町には存在しない。
 それだって半日でたどり着けるのはせいぜい隣の領までだ。
 どんな手段を使えばそんな短期間で移動できるのか。それに対するアーシェロットの答えは意外なものであった。

「ボクが竜化して運ぶから大丈夫だよ」
「りゅうか?」
「竜に変身して、空を飛ぶの。がおーって。帝都まで半日もかからないよ」
「?????」

 人が竜になるといわれても全然ピンとこない。
 思わずアーシェロットの頬を引っ張るツバキ。いつも通り柔らかい。

「ふにゃー!? 夢と疑うなら自分の頬をつねるんじゃないの!?」

 じたばたするアーシェロットはいつも通りであった。



 行きの昼食のお弁当だけ準備すればいいといわれ、ツバキは干し肉と固焼きビスケットを用意した。かなり硬くて歯が立たないが、まあ、しゃぶっていれば食べられなくもない、といった代物だ。
 同行者はツバキのほか、町の交易をおこなっているランになった。
 帝都に行くだけでなく、いろいろ買い物をして帰ってくる予定らしい。
 娘のボタンちゃんも、最初は一緒に行くことを考えていたが、本人が毛玉になって頑として動こうとしなかったので、町の人にお願いしておいていくことになった。

 帝都に持っていく荷物は、熊の胆や、毛皮、骨などだ。
 アーシェロットがどこからか持ってきた、人の背の高さほどもある籠、竜籠にそれらの荷物を入れていく。人も入ることが出来そうな大きさであり、現に人を入れて運ぶこともできるのだとか。

 荷物の準備ができると、アーシェロットが広場に出てきた。
 町の人も広場に集まっている。竜になると聞いてみな興味津々だ。

「じゃあいっくよー」

 のんびりした掛け声とともに、アーシェロットは光る。
 一瞬の光が収まると、そこには真っ白な竜がいた。高さは3mほどか。かなり大きな竜である。

「うん、絶好調だね」

 ぱたぱたと羽を動かす白竜アーシェロット。
 そのまま地面に伏せて

「背中に乗って乗って」

 と言い始める。
 ツバキとランは、どうにかその背中によじ登る。
 いつの間にかわからないが、アーシェロットの背中には鞍が括り付けられていた。

「ちゃんとベルトもしてね。落ちたら大変だから」

 鞍にまたがり、ベルトを締める二人。
 子供たちの歓声が上がる。

「それじゃ、行ってきます。遅くても3日後には帰るから」

 翼をはためかせ、アーシェロットは空へと舞いあがった。
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