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2 真の聖女
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「貴様は禁呪を用い、神の摂理に背いてきた! 他人の命を削り、異端の力を振るうその行為は、治癒などではない。禁忌の術だ! 偽りの癒しで人々を惑わせ、神の名を騙った冒涜……その罪、決して軽くはないぞ!」
——まったく、クソ王太子は今日も絶好調だ。
どこまでも芝居がかった非難の声を、私はただ冷めた目で見つめていた。
聖女の肩書を押し付けてきたのも、治癒の術を乱用させたのも、そっちのくせに。
そして今度は、都合が悪くなったら責任を全部私に押しつけて、「偽聖女として火炙りに処す」って?
冗談じゃない。
「癒しだと思っていたが……呪いだったのか!? 俺は呪われていたのか!」
「アリシア様に癒されたうちの娘も、先月から高熱が引かなくて……!」
「罪人め! 俺たちを騙していたんだな!」
非難の声が雪崩のように押し寄せる。
田舎の小貴族や平民が騙されるのは仕方ない。
裏事情なんて知るはずもない彼らにとって、見目麗しい王太子の言葉は“真実”に聞こえるのだろう。
でも——。
王宮の貴族たちまで一緒になって声を荒らげているのは、さすがに救いようがない。
あなたたちも、すぐにこの王太子に捨てられるのがオチなのに。
この人でなしが私というおもちゃがいなくなった後、次におもちゃにするのは、きっと、あなたたちだ。
「……しかし、治癒を使える者がいなくなれば困るのでは?」
「最近は、医者も減っておりますし……」
ごくわずかに、理性を残した声も上がる。
そう、治癒の術に頼りすぎたこの王国では、医術はすっかり衰退してしまった。
私は王太子の命で、時に無償で、時に高額の対価を得て、貴族にも民にも癒しを与えてきた。
その結果、どれだけの医者が職を失い、どれだけ多くの命綱が失われたか——。
私がいなくなれば、死ぬ人間もきっと出る。
……でも、そんな現実さえも、王太子は一笑に付す。
「治癒が失われることを心配する声もあるようだが、問題はない! なぜなら——真の聖女が見つかったからだ!!」
おおおおおおっ!! と、民衆の歓声が城内に轟く。
その声に応えるように、奥の間から一人の少女が姿を現した。
絹のようになめらかな黒髪、黒曜石のように澄んだ瞳。
私と同じくらいの年頃に見える彼女は、怯えたような足取りで玉座の横へと歩み出る。
「紹介しよう。この者こそ、神託により選ばれし存在——真の聖女、クラリッサ・エルメリアである!」
場内が、歓声と熱狂に包まれる。
私は静かに、彼女を見上げた。
王宮で暮らして五年。顔ぶれにも家名にもそれなりに詳しい私でも、彼女の名を聞くのは初めてだった。
“エルメリア”——おそらく南部の港町がある、小さな貴族領の出だろう。
弱小貴族の令嬢がこんな場所で祭り上げられても困惑しか覚えないだろう。
事実、クラリッサは戸惑いを隠せないまま、そっと頭を下げた。
その姿はあまりにもか弱く、悪意など一片も感じられなかった。
それどころか、彼女の身からあふれ出る光は、まさに神聖そのものだった。
まがい物でも、偽物でもない。
彼女が「真の聖女」であるということは、疑いようがなかった。
——つまり、私はもう、お役御免というわけね。
王太子が私に飽きつつあるのは気付いていたけれど、まさか本物の聖女をこのタイミングで引き当ててくるなんて……
いや、これは予想外だった。
私はもう、“罪人”として捨てられる存在。
——はいはい、結構よ。
その“真の聖女”とやらを使い潰して、あんたはそのまま地獄への道を突っ走ればいい。
——まったく、クソ王太子は今日も絶好調だ。
どこまでも芝居がかった非難の声を、私はただ冷めた目で見つめていた。
聖女の肩書を押し付けてきたのも、治癒の術を乱用させたのも、そっちのくせに。
そして今度は、都合が悪くなったら責任を全部私に押しつけて、「偽聖女として火炙りに処す」って?
冗談じゃない。
「癒しだと思っていたが……呪いだったのか!? 俺は呪われていたのか!」
「アリシア様に癒されたうちの娘も、先月から高熱が引かなくて……!」
「罪人め! 俺たちを騙していたんだな!」
非難の声が雪崩のように押し寄せる。
田舎の小貴族や平民が騙されるのは仕方ない。
裏事情なんて知るはずもない彼らにとって、見目麗しい王太子の言葉は“真実”に聞こえるのだろう。
でも——。
王宮の貴族たちまで一緒になって声を荒らげているのは、さすがに救いようがない。
あなたたちも、すぐにこの王太子に捨てられるのがオチなのに。
この人でなしが私というおもちゃがいなくなった後、次におもちゃにするのは、きっと、あなたたちだ。
「……しかし、治癒を使える者がいなくなれば困るのでは?」
「最近は、医者も減っておりますし……」
ごくわずかに、理性を残した声も上がる。
そう、治癒の術に頼りすぎたこの王国では、医術はすっかり衰退してしまった。
私は王太子の命で、時に無償で、時に高額の対価を得て、貴族にも民にも癒しを与えてきた。
その結果、どれだけの医者が職を失い、どれだけ多くの命綱が失われたか——。
私がいなくなれば、死ぬ人間もきっと出る。
……でも、そんな現実さえも、王太子は一笑に付す。
「治癒が失われることを心配する声もあるようだが、問題はない! なぜなら——真の聖女が見つかったからだ!!」
おおおおおおっ!! と、民衆の歓声が城内に轟く。
その声に応えるように、奥の間から一人の少女が姿を現した。
絹のようになめらかな黒髪、黒曜石のように澄んだ瞳。
私と同じくらいの年頃に見える彼女は、怯えたような足取りで玉座の横へと歩み出る。
「紹介しよう。この者こそ、神託により選ばれし存在——真の聖女、クラリッサ・エルメリアである!」
場内が、歓声と熱狂に包まれる。
私は静かに、彼女を見上げた。
王宮で暮らして五年。顔ぶれにも家名にもそれなりに詳しい私でも、彼女の名を聞くのは初めてだった。
“エルメリア”——おそらく南部の港町がある、小さな貴族領の出だろう。
弱小貴族の令嬢がこんな場所で祭り上げられても困惑しか覚えないだろう。
事実、クラリッサは戸惑いを隠せないまま、そっと頭を下げた。
その姿はあまりにもか弱く、悪意など一片も感じられなかった。
それどころか、彼女の身からあふれ出る光は、まさに神聖そのものだった。
まがい物でも、偽物でもない。
彼女が「真の聖女」であるということは、疑いようがなかった。
——つまり、私はもう、お役御免というわけね。
王太子が私に飽きつつあるのは気付いていたけれど、まさか本物の聖女をこのタイミングで引き当ててくるなんて……
いや、これは予想外だった。
私はもう、“罪人”として捨てられる存在。
——はいはい、結構よ。
その“真の聖女”とやらを使い潰して、あんたはそのまま地獄への道を突っ走ればいい。
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