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夏ー彼女がお祭り騒ぎする話
カビと魔王とお嫁お姫 3
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黒ゴキブリはそのあとも何度もギルドを訪れた。
そのたびにお姫はおかしくなるし、おっさんたちや神父さんの機嫌は悪くなるし、私の聖剣が光って唸った。黒ゴキブリはだが、ギルド外では紳士的らしく、街での評判は悪くなかった。
「うちの王子が申し訳ありません」
そうやって謝るのは、魔王のお付きの人であるさくらさんだ。気立てよし、見た目よしの黒髪の美人である。黒ゴキブリも、お姫なんかにかまっていないで、さくらさんを落とせばいいのに、と本気で思っている。
「普段は言えば聞いてくれるのですが、なぜかアンジェさんのことだけは言えば言うほど逆効果で……」
本当に困った顔をしているさくらさん。必死に止めてくれているのだろう。ただ、それが成果に出ていないから余計苦労がたまっているようだ。
「うけつけちゃぁん」
お姫は最近はずっと私にべったりだ。お姫と一緒にルーちゃんも私にくっついてくる。かわいい。でもちょっと暑い。
「というかお姫、なんであの魔王がそこまで嫌いなの? いやまあ、嫌な奴なのはよくわかるし、相性悪そうだけど、そんな憔悴するほどの相手じゃないでしょ」
あれだったらもっとめんどくさい連中だって相手にしたことあるだろうに、お姫は何がそこまで嫌なのだろう。若干不思議である。
「なんというか、近くにいると自分が自分でなくなるというか、何かが削られるというか、とにかくすごい嫌なの、存在自体が嫌!!! 半径50m以内に入ってほしくない!!」
「さくらさん、お姫と魔王の間に何かあったんですか?」
そこまで嫌かというぐらい嫌っているなぁ。正直私が聖剣で吹き飛ばすまでの数分間だけが満出来ればいいわけだから、そこをどうにかできる程度の改善策は考えたい。仲直りとか100%無理だろうからそもそも考慮に入れていない。
「嫌われることはずいぶんしていましたし、好かれていないのはわかるのですが、そこまで嫌いな理由はちょっと心当たりが……」
「どんなことしてきたんですか?」
「まず顔合わせの時にやらかしましたね。『ふん、俺の相手ができるのを光栄に思うといい』とか超上から目線のあいさつを王子はしましたから。周りの目が凍えるぐらい冷える中、アンジェさんの目は死んでいましたね」
「へぇ。顔面パンチとか行かなかったんですか?」
お姫の特技右ストレートで、ぶちのめされた不良はこの街にもいる。『ポイントは許してくださいといわなくなり、もっとやってくださいというまで殴ることです』と言ったお姫の笑顔と、ドMを量産していく右こぶしは今も忘れていない。魔王に対しても教育的パンチぐらい出そうなものだが。
「それが、アンジェさんはアンジェさんで、生理的に触るどころか視界に入れるのも嫌みたいな反応されまして。あまりに想定外の反応にみな困惑しきり、王子だけが妙にアンジェさんを気に入ってしまい、今に至る、というところです」
「そんな最初から嫌いだったのか。何があるのだか」
魔族嫌い、なわけではないだろう。さくらさんにはなついているし、黒髪で魔族っぽい外見をしている半魔族のベアさんのことなんかは、お姫は非常に気に入っている。人見知り、なんていうのはお姫には縁遠い言葉だ。
『魔王の加護のせいではないか?』
「ん、聖剣さん何か知ってるの?」
温泉の媒体にされている聖剣ホワイトファングであるが、最近魔王を何回もぶっ飛ばしたせいか、前みたいに『魔王殺せ』しか言わない、なんてことはなくなった。殺カビ剤できれいにしたので、柄のカビもなくなりきれいになった聖剣は、最近は結構理知的なことを言うようになった。まあ温泉の媒体のお仕事は変わらないんだけど。
『いや、よくわからぬが、知っていることもある』
「つまり?」
『魔王はいくつも加護を持っている。そのうちの一つに魅了がある』
「みりょう?」
『他人に好感を持たれる加護だ。闇の女神の加護の一つだな』
「それとお姫の不調はどうつながるの? あと、私なんかはあいつのこと嫌いだけど?」
『不調との関係は簡単、あの竜の少女は必死にその魅了にレジストしてるからじゃろ。おまけみたいなものとはいえ神の加護じゃ。レジストするのは簡単じゃないじゃろうな。主が魔王のことを嫌いなのは簡単、加護とは言ったって無条件に好きにするものじゃないからじゃな』
「ふむ」
『加護の効果は単純に言えば初めに好感度を足すだけじゃ。じゃから、それを上回るほど嫌いならば、ずっと嫌いなままじゃろうな。洗脳まがいの効果まではないはずじゃ』
「まあそれでも結構強力だよね」
第一印象がよくなるのだから何事にも有利だし、それにあのイケメンだ。女性なんかは特にイチコロだろう。便利な加護で間違いない。
「でもそうすると対応策はやっぱりおかえりいただくしかないかぁ」
『主よ、魅了の加護程度なら、一時的になら力を弱めることも可能じゃぞ』
「へぇ、どうやって?」
『魔王が来たら、いつも通り思いっきり我で引っぱたけ。その時に我がやってやろう』
「だいじょうぶなのそれ?」
「ああ、王子の心配はしなくていいですよ。少し痛い目に合ったほうがいいと思ってますから」
「さくらさん、だいぶたまってる」
「うふふ、だいぶじゃないですね。すごく怒ってます」
「うわぁ」
『魔族の姫よ。我に任せておくのじゃ』
「たのもー」
噂をすれば影、さっそく黒ゴキブリが現れた。私は聖剣を振りかざし、黒ゴキブリに襲い掛かる。
「ちょっと、いきなりなにを!? ぬわあああああ!!」
ベちこーんとたたかれた魔王は光に包まれる。そのまま光が消え去ると、そこには一回り縮んだ魔王が倒れていた。
「……なんとというんだろう、すごい嫌な感じがする」
「……そうだね、でも、ボクは何でこんなのを怖がってたんだろう」
急に復活したお姫が、黒ゴキブリをげしげしと蹴飛ばし始める。なんというか、加護の力って本当にすごかったんだな、と実感した。
それにしてもなんというんだろう、黒ゴキブリが生理的に受け付けない。例えるなら本当にゴキブリのような嫌悪感である。ゴキブリなど、人をかまないし毒も持っていない。危なさなどかけらもないのに、あれを見ていると生理的に嫌悪感を覚える、あれとおんなじ感覚である。
周りの人間も同じ感覚に襲われているのだろう。黒ゴキブリの周りにいた女性たちが一斉に逃げ出す。トラウマにならないといいんだけど、と場違いな感想を抱いた。
「ほら、王子。起きてください」
「さ、さくらか。今何が起きたのだ? というか皆なぜ逃げていくのだ」
「それは王子が悪い子だからですよ。わかったでしょう?」
「だが我は魔国の王太子だぞ、ってアンジェ、脛蹴りは痛い!!」
「うるさい、一度あんたの性根はたたき直さないといけないと思ってたんだよ。くらえっくらえっ!」
「うわーん!! さくらぁ!! アンジェがいじめるー!!」
「今までいじめていたのはどちらかというと王子でしたけどね。ほら、帰りましょう?」
「塩!! マスター塩持ってきて!! 樽ごと!!」
「よし任せた、行くぞお姫」
「かえるうううう!!!!」
黒ゴキブリは慌てて逃げ出した。さくらさんはこちらに優雅にお辞儀をした後、黒ゴキブリを追いかけていった。
そのたびにお姫はおかしくなるし、おっさんたちや神父さんの機嫌は悪くなるし、私の聖剣が光って唸った。黒ゴキブリはだが、ギルド外では紳士的らしく、街での評判は悪くなかった。
「うちの王子が申し訳ありません」
そうやって謝るのは、魔王のお付きの人であるさくらさんだ。気立てよし、見た目よしの黒髪の美人である。黒ゴキブリも、お姫なんかにかまっていないで、さくらさんを落とせばいいのに、と本気で思っている。
「普段は言えば聞いてくれるのですが、なぜかアンジェさんのことだけは言えば言うほど逆効果で……」
本当に困った顔をしているさくらさん。必死に止めてくれているのだろう。ただ、それが成果に出ていないから余計苦労がたまっているようだ。
「うけつけちゃぁん」
お姫は最近はずっと私にべったりだ。お姫と一緒にルーちゃんも私にくっついてくる。かわいい。でもちょっと暑い。
「というかお姫、なんであの魔王がそこまで嫌いなの? いやまあ、嫌な奴なのはよくわかるし、相性悪そうだけど、そんな憔悴するほどの相手じゃないでしょ」
あれだったらもっとめんどくさい連中だって相手にしたことあるだろうに、お姫は何がそこまで嫌なのだろう。若干不思議である。
「なんというか、近くにいると自分が自分でなくなるというか、何かが削られるというか、とにかくすごい嫌なの、存在自体が嫌!!! 半径50m以内に入ってほしくない!!」
「さくらさん、お姫と魔王の間に何かあったんですか?」
そこまで嫌かというぐらい嫌っているなぁ。正直私が聖剣で吹き飛ばすまでの数分間だけが満出来ればいいわけだから、そこをどうにかできる程度の改善策は考えたい。仲直りとか100%無理だろうからそもそも考慮に入れていない。
「嫌われることはずいぶんしていましたし、好かれていないのはわかるのですが、そこまで嫌いな理由はちょっと心当たりが……」
「どんなことしてきたんですか?」
「まず顔合わせの時にやらかしましたね。『ふん、俺の相手ができるのを光栄に思うといい』とか超上から目線のあいさつを王子はしましたから。周りの目が凍えるぐらい冷える中、アンジェさんの目は死んでいましたね」
「へぇ。顔面パンチとか行かなかったんですか?」
お姫の特技右ストレートで、ぶちのめされた不良はこの街にもいる。『ポイントは許してくださいといわなくなり、もっとやってくださいというまで殴ることです』と言ったお姫の笑顔と、ドMを量産していく右こぶしは今も忘れていない。魔王に対しても教育的パンチぐらい出そうなものだが。
「それが、アンジェさんはアンジェさんで、生理的に触るどころか視界に入れるのも嫌みたいな反応されまして。あまりに想定外の反応にみな困惑しきり、王子だけが妙にアンジェさんを気に入ってしまい、今に至る、というところです」
「そんな最初から嫌いだったのか。何があるのだか」
魔族嫌い、なわけではないだろう。さくらさんにはなついているし、黒髪で魔族っぽい外見をしている半魔族のベアさんのことなんかは、お姫は非常に気に入っている。人見知り、なんていうのはお姫には縁遠い言葉だ。
『魔王の加護のせいではないか?』
「ん、聖剣さん何か知ってるの?」
温泉の媒体にされている聖剣ホワイトファングであるが、最近魔王を何回もぶっ飛ばしたせいか、前みたいに『魔王殺せ』しか言わない、なんてことはなくなった。殺カビ剤できれいにしたので、柄のカビもなくなりきれいになった聖剣は、最近は結構理知的なことを言うようになった。まあ温泉の媒体のお仕事は変わらないんだけど。
『いや、よくわからぬが、知っていることもある』
「つまり?」
『魔王はいくつも加護を持っている。そのうちの一つに魅了がある』
「みりょう?」
『他人に好感を持たれる加護だ。闇の女神の加護の一つだな』
「それとお姫の不調はどうつながるの? あと、私なんかはあいつのこと嫌いだけど?」
『不調との関係は簡単、あの竜の少女は必死にその魅了にレジストしてるからじゃろ。おまけみたいなものとはいえ神の加護じゃ。レジストするのは簡単じゃないじゃろうな。主が魔王のことを嫌いなのは簡単、加護とは言ったって無条件に好きにするものじゃないからじゃな』
「ふむ」
『加護の効果は単純に言えば初めに好感度を足すだけじゃ。じゃから、それを上回るほど嫌いならば、ずっと嫌いなままじゃろうな。洗脳まがいの効果まではないはずじゃ』
「まあそれでも結構強力だよね」
第一印象がよくなるのだから何事にも有利だし、それにあのイケメンだ。女性なんかは特にイチコロだろう。便利な加護で間違いない。
「でもそうすると対応策はやっぱりおかえりいただくしかないかぁ」
『主よ、魅了の加護程度なら、一時的になら力を弱めることも可能じゃぞ』
「へぇ、どうやって?」
『魔王が来たら、いつも通り思いっきり我で引っぱたけ。その時に我がやってやろう』
「だいじょうぶなのそれ?」
「ああ、王子の心配はしなくていいですよ。少し痛い目に合ったほうがいいと思ってますから」
「さくらさん、だいぶたまってる」
「うふふ、だいぶじゃないですね。すごく怒ってます」
「うわぁ」
『魔族の姫よ。我に任せておくのじゃ』
「たのもー」
噂をすれば影、さっそく黒ゴキブリが現れた。私は聖剣を振りかざし、黒ゴキブリに襲い掛かる。
「ちょっと、いきなりなにを!? ぬわあああああ!!」
ベちこーんとたたかれた魔王は光に包まれる。そのまま光が消え去ると、そこには一回り縮んだ魔王が倒れていた。
「……なんとというんだろう、すごい嫌な感じがする」
「……そうだね、でも、ボクは何でこんなのを怖がってたんだろう」
急に復活したお姫が、黒ゴキブリをげしげしと蹴飛ばし始める。なんというか、加護の力って本当にすごかったんだな、と実感した。
それにしてもなんというんだろう、黒ゴキブリが生理的に受け付けない。例えるなら本当にゴキブリのような嫌悪感である。ゴキブリなど、人をかまないし毒も持っていない。危なさなどかけらもないのに、あれを見ていると生理的に嫌悪感を覚える、あれとおんなじ感覚である。
周りの人間も同じ感覚に襲われているのだろう。黒ゴキブリの周りにいた女性たちが一斉に逃げ出す。トラウマにならないといいんだけど、と場違いな感想を抱いた。
「ほら、王子。起きてください」
「さ、さくらか。今何が起きたのだ? というか皆なぜ逃げていくのだ」
「それは王子が悪い子だからですよ。わかったでしょう?」
「だが我は魔国の王太子だぞ、ってアンジェ、脛蹴りは痛い!!」
「うるさい、一度あんたの性根はたたき直さないといけないと思ってたんだよ。くらえっくらえっ!」
「うわーん!! さくらぁ!! アンジェがいじめるー!!」
「今までいじめていたのはどちらかというと王子でしたけどね。ほら、帰りましょう?」
「塩!! マスター塩持ってきて!! 樽ごと!!」
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