24 / 36
夏ー彼女がお祭り騒ぎする話
夏バテと幽霊と甘酒お姫 2
しおりを挟む
「ほら、こんな依頼が来てるぞ。肝試し代わりにこの依頼受けたらどうだ」
垂れている私のところにマスターがもってきた依頼は、幽霊が居ついた屋敷を除霊するというものであった。
幽霊というのは、この世に残ってしまっている死後の魂である。死ねば肉が残り、魂は神の元へと行き新たな生を受ける。それがこの世界の輪廻のルールなのだが、しかし、未練などにより時に死後の魂にがそのまま残ってしまうことがある。
そんな風に残ってしまった幽霊は、直接的、物理的に何かできるわけではない。肉体という器がないので、人に語り掛ける以外ができないのだ。なのである意味無害だし、大体の幽霊は最後のお別れということで、家族と会話して、家族に看取られて昇天するものなのだが、ごくまれに未練が解消されずに、昇天しない連中がいる。そういう連中は基本とにかくうるさい。睡眠が必要ないものだから、24時間ずっとなにかを訴え続けてきたりする。聖剣なんてへし折るまで24時間ずっと「魔王殺せ」といってきたりした。
大体は各教会の聖職者が幽霊を昇天させるのだが、時々冒険者ギルドに依頼が回ってきたりする。立ち入るのに危険性がある場所の除霊なんかだ。
「ふむ、危険度はEランク。まあ廃屋だから一応っていうところなのかな。指名依頼で、アンジェ……お姫が指名されてる」
「お姫も聖職者だからだろう? 聖職者付き添いと指名依頼とどっちが安いかは微妙な話だが、手間は省けるからな」
「なるほど」
除霊依頼には聖職者の同行が原則だ。浄化魔法自体は、冒険者でも使える人はそれなりにいるが、除霊の確認は聖職者しかできないことになっているためだ。そのため冒険者に依頼するのは冒険者への謝礼と、聖職者への喜捨の二重に費用が掛かる。
一方指名依頼とは、受注する冒険者を指名する依頼だ。指名料がかかるため、それなりに高くなる。今回も、指名料と聖職者への喜捨とどちらが高いかといわれると、お姫のランクや人気から言って、指名料のほうが高くついていそうだが、窓口が一つなので手続きは楽だろう。
まあ私は動きたくないし、お姫にちゃっちゃと終わらせてもらおうと、お姫のほうに振り返ると……
「おばけ、こわい」
柱に隠れて、お姫がガタガタと震えていた。
「え。お姫さ、幽霊苦手なの?」
「受付ちゃんだめー!!! 幽霊の話すると、幽霊が寄ってくるんだよ!!!」
「いや、寄ってこないけど」
「くるのー!!!」
涙目になりながら、両手をぶんぶん振って私に抗議するお姫。尻尾もビタンビタンとあらぶっている。
幽霊なんかよりよっぽど怖そうなドラゴンやら魔王やらをぶっ飛ばしてきたくせに、お姫は、幽霊が苦手なようだ。この天衣無縫傍若無人なお姫にも苦手なものがあったとは。
「どうするマスター? これ、キャンセルできるかな?」
「いや、幽霊怖いからキャンセルしますとかダメだろ。子供じゃないんだから」
「やだー!! ぜったいやだー!!」
「子供のように駄々をこね始めたけど」
床に寝転がって、両手両足尻尾をバタバタし始めた。本気で子供のようだ。パンツ見えている。
これ、どうしようか。指名依頼だか基本的に断りたくないというマスターの意向はよくわかる。ただ、こうなったお姫を連れていくのは非常に難しいようにも思える。どうにかお姫を釣る方法を考えるが……
「よし、引きずっていこうか」
「エリス、考えるのがめんどくさくなったのはわかるけど、あまりに雑過ぎないか」
「お姫の対応なんてこの程度でいいと学んだので。ほらお姫。素直に歩くか、尻尾を持たれてその背伸びした黒のパンツを世間にさらしながら引きずられていくか、どっちか選びなさい」
「受付ちゃんにパンツみられてもうお嫁にいけない、受付ちゃん責任取って結婚して」
「案外余裕がありそうだね」
尻尾をつかんで、肩に担ぐ。お姫の尻尾は、担ぐにはちょうどいい太さと硬さだった。普段の活力と戦闘力に反して、お姫は結構小柄なので、こうやって引きずってみると非常に軽い。このまま依頼の場所まで行くのは難しくないだろう。ついでにその体のデコボコも削れて平らになるが良い。
「ちょっと待って受付ちゃん!!! たいむたいむ!!! というか力つよいよ!? にぎゃああああああ!!!」
「いってらっしゃいなのです、お姉ちゃん」
「行ってくるね。ルーちゃん、マスター」
依頼の場所は海辺の廃屋。歩いて大体五分程度である。
垂れている私のところにマスターがもってきた依頼は、幽霊が居ついた屋敷を除霊するというものであった。
幽霊というのは、この世に残ってしまっている死後の魂である。死ねば肉が残り、魂は神の元へと行き新たな生を受ける。それがこの世界の輪廻のルールなのだが、しかし、未練などにより時に死後の魂にがそのまま残ってしまうことがある。
そんな風に残ってしまった幽霊は、直接的、物理的に何かできるわけではない。肉体という器がないので、人に語り掛ける以外ができないのだ。なのである意味無害だし、大体の幽霊は最後のお別れということで、家族と会話して、家族に看取られて昇天するものなのだが、ごくまれに未練が解消されずに、昇天しない連中がいる。そういう連中は基本とにかくうるさい。睡眠が必要ないものだから、24時間ずっとなにかを訴え続けてきたりする。聖剣なんてへし折るまで24時間ずっと「魔王殺せ」といってきたりした。
大体は各教会の聖職者が幽霊を昇天させるのだが、時々冒険者ギルドに依頼が回ってきたりする。立ち入るのに危険性がある場所の除霊なんかだ。
「ふむ、危険度はEランク。まあ廃屋だから一応っていうところなのかな。指名依頼で、アンジェ……お姫が指名されてる」
「お姫も聖職者だからだろう? 聖職者付き添いと指名依頼とどっちが安いかは微妙な話だが、手間は省けるからな」
「なるほど」
除霊依頼には聖職者の同行が原則だ。浄化魔法自体は、冒険者でも使える人はそれなりにいるが、除霊の確認は聖職者しかできないことになっているためだ。そのため冒険者に依頼するのは冒険者への謝礼と、聖職者への喜捨の二重に費用が掛かる。
一方指名依頼とは、受注する冒険者を指名する依頼だ。指名料がかかるため、それなりに高くなる。今回も、指名料と聖職者への喜捨とどちらが高いかといわれると、お姫のランクや人気から言って、指名料のほうが高くついていそうだが、窓口が一つなので手続きは楽だろう。
まあ私は動きたくないし、お姫にちゃっちゃと終わらせてもらおうと、お姫のほうに振り返ると……
「おばけ、こわい」
柱に隠れて、お姫がガタガタと震えていた。
「え。お姫さ、幽霊苦手なの?」
「受付ちゃんだめー!!! 幽霊の話すると、幽霊が寄ってくるんだよ!!!」
「いや、寄ってこないけど」
「くるのー!!!」
涙目になりながら、両手をぶんぶん振って私に抗議するお姫。尻尾もビタンビタンとあらぶっている。
幽霊なんかよりよっぽど怖そうなドラゴンやら魔王やらをぶっ飛ばしてきたくせに、お姫は、幽霊が苦手なようだ。この天衣無縫傍若無人なお姫にも苦手なものがあったとは。
「どうするマスター? これ、キャンセルできるかな?」
「いや、幽霊怖いからキャンセルしますとかダメだろ。子供じゃないんだから」
「やだー!! ぜったいやだー!!」
「子供のように駄々をこね始めたけど」
床に寝転がって、両手両足尻尾をバタバタし始めた。本気で子供のようだ。パンツ見えている。
これ、どうしようか。指名依頼だか基本的に断りたくないというマスターの意向はよくわかる。ただ、こうなったお姫を連れていくのは非常に難しいようにも思える。どうにかお姫を釣る方法を考えるが……
「よし、引きずっていこうか」
「エリス、考えるのがめんどくさくなったのはわかるけど、あまりに雑過ぎないか」
「お姫の対応なんてこの程度でいいと学んだので。ほらお姫。素直に歩くか、尻尾を持たれてその背伸びした黒のパンツを世間にさらしながら引きずられていくか、どっちか選びなさい」
「受付ちゃんにパンツみられてもうお嫁にいけない、受付ちゃん責任取って結婚して」
「案外余裕がありそうだね」
尻尾をつかんで、肩に担ぐ。お姫の尻尾は、担ぐにはちょうどいい太さと硬さだった。普段の活力と戦闘力に反して、お姫は結構小柄なので、こうやって引きずってみると非常に軽い。このまま依頼の場所まで行くのは難しくないだろう。ついでにその体のデコボコも削れて平らになるが良い。
「ちょっと待って受付ちゃん!!! たいむたいむ!!! というか力つよいよ!? にぎゃああああああ!!!」
「いってらっしゃいなのです、お姉ちゃん」
「行ってくるね。ルーちゃん、マスター」
依頼の場所は海辺の廃屋。歩いて大体五分程度である。
1
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる