上 下
22 / 65

22 幽霊ちゃんはスイカがすき

しおりを挟む
スイカを買った。
一玉だ。カットしていない奴を買った。
夏だし暑いし、農協の直売所を覗いたら丸ごと一玉売っていたためだ。

うちの冷蔵庫の野菜室は空があるし、ぎりぎり入るだろう。
そう思ってうちに帰ったのだが……

『これがスイカ? おいしいの?』

目をキラキラさせたこいつが嬉しそうにスイカを受け取りぺちぺちと掌でたたき始めた。

「見たことないのか?」
『ネットでしかないよ。緑と黒のしましまで、変な感じだね』

そんなことをいいながら気に入ったのか、床に座って胡坐をかくと、その足の間にスイカを入れてぺちぺちと叩き始めた。

「ほら、遊ぶなって。冷やして食べるとうまいんだよ」
『冷やすのか―、どれくらいかかる?』
「一日ぐらいは冷蔵庫に入れるかなぁ」
『えー、長いー』

我慢のきかない奴である。
きっと今すぐ食べたいのだろう。

「わがまま娘め。まあ入れるのに、切ったほうが入りやすいし、少しだけ切るか」
『わーい!!!』

ひとまず部屋着に着替えるが、その間、あいつはずっとスイカをぺちぺち叩いていた。
音が気に入ったらしい。なんか内側で反響するから、変わった音がするんだよな。

ということで着替えてスイカを受け取ると、ひとまず真っ二つに切ることになった。
そう難しいことではない。真っ二つになると中の赤い果肉があらわになる。

『外は緑と黒で、その内側が白で、さらに赤ってなんかカラフルだよね』
「そういわれるとそうだな」

そんなもんだと思っていたが、そう言われるとかなり派手な色彩だ。

『なんというか、食べて大丈夫だよね』
「俺は毎年1玉以上食べてるが元気だ」
『なら大丈夫だね』

真っ二つにすると、面倒なので、半分をあいつの席の前に置いた。

「食べてていいぞ」
『え、これ、こうやって食べるの? ほら、三角に切るものじゃないの?』
「めんどい」
『お兄さん特有の面倒ムーブ……』

なんだよそれ、そんなの初めていわれたぞ。
ひとまず半分はラップをして冷蔵庫へ入れた。

振り返ったら、あいつは顔面からスイカに突っ込んでいた。この食べ方、どうにかならないのだろうか。
もしょもしょと謎の音が響いている。
まあ放置して、俺もスイカを食べることにしよう。
金属のスプーンを出す。
あいつが顔を突っ込んでいるあいつを通過してスイカにスプーンを突き立てた。
真っ赤な果肉がスプーンに乗っている。

「…… さすがに絵面が悪すぎる……」

一口だけ食べて、スプーンを置く。こいつが食べ終わってから食べようと思ったおにいさんであった。
しおりを挟む

処理中です...