上 下
48 / 65

48 幽霊ちゃんは扇風機がこわい

しおりを挟む
あいつにはいろいろ苦手なものがある。
幽霊のくせにホラー関係は一切だめだし、いつも来る黒猫にはしょっちゅうおちょくられている。
しかし一番ダメなものは何かといえば、それは空気を吸い込む機械全般だろう。
しかも本人はその自覚が非常に薄い。

エアコンに吸われて冷え冷え幽霊になったのは5回
全自動掃除機くん(あいつ命名)に吸われて出れなくなったことは8回
除湿機に吸われて水をためるタンクに詰め込まれてびしょびしょになったのは10回ぐらいある。
基本懲りないのだ。

あいつが近寄らないように、基本的にこういったものは台所の方ではなく俺の寝室の方に置いておくのだが、普段は部屋に近寄らないくせにこういうものが動いているときに限って部屋に入り、しかもそう言った機械に近寄るのだ。
そして吸い込まれて毎回泣いている。
吸い込まれた先が暗くて狭いのもあるが、吸い込まれる過程が非常に速く動かされる上に真っ暗で音もうるさくて怖いのだとか。

今回奥から引っ張り出した扇風機も、あいつにトラウマを植え付けるものかなぁ、と思った。
しかし寝室にあるエアコンは台所の方まで冷房の効きが悪いので、風を送らないと若干暑いのだ。

『なあに? これ?』

相変わらず興味津々に扇風機をつつき始める。人差し指でつつくのはこいつのくせなのだろう。基本何でもつつく。
意外なものを知らな語り、変なものを知っていたりするが、扇風機は知らなかったようだ。まあタワー式のやつだから、古典的な扇風機しか知らないとわからないかもしれない。

「扇風機だ。ここのところから空気を吸って、ここから風が出る」
『……吸い込まれないかな?』
「たぶん吸い込まれるから注意しろよ」
『ん、近寄らないように…… 風が涼しい!!』
「……」

前言は数秒で撤回された。いや、途中までしか言っていないから、撤回されていないのか。
風の出るところの前に座り、涼み始めている。
たぶんまたやらかすんだろうな、と思いながら、俺はあいつを眺めつつ冷たい紅茶を飲み始めた。

基本的にあいつは子供なのだろう。最近は勉強も進んでなかなか知的になってきたが、好奇心とその行動が幼子のそれだ。
まあ、幼子と違って、ケガというものをしないみたいだから、多少痛い目にあった方が経験としていいのだろう。

『ああああああ、おにーさん、これ声が宇宙人にならないよ』
「なんでそんなマイナーな知識があるんだよ。それはタワー式だから声が変にはならないよ」
『へー』

そんなことを言いながら、あいつは扇風機に近寄り、タワーの風の出る部分、羽の部分になんでか顔を突っ込んだ。

『あばばばばばばばばば』

首だけ扇風機に巻き込まれ、お菓子な声を上げるあいつはホラーとしか言いようのない状態になっていた。
しばらくあばばばばした後、あいつは吹き飛ばされて部屋を漂っていた。
しおりを挟む

処理中です...