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57 幽霊ちゃんはねこさんがすき

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「大丈夫か?」
『ぶにゃぁああああ』
「大丈夫そうだな」

ちょっと買い物に出かけて家に帰ったらあいつが猫に埋もれていた。
時々あることである。
猫まみれから手だけが伸びており、なんとなく哀愁を誘う。

しかし、この炎天下の中、くっついていたら暑いだろうに。
あいつの体温は妙に低いから、最初は涼むためにくっついていたのかもしれないが……

ひとまず手前にいた一匹を持ち上げる。
ぶにゃぁ、と不満げな声を上げるが抱っこしてなでるとすぐにおとなしくなった。
ずいぶん人に慣れている猫である。
お腹を触ってみたら熱くなっている。
あいつに触れてた部分だ。あいつは蒸し焼きになっていないだろうか。

抱っこされているのも暑いのか、猫はすぐに俺の腕から抜け出し、地面にどべっと寝転がった。
その後、一匹ずつ猫をはがしていくが、日光の力と体温でどいつも若干暑くなっていた。
大丈夫なのだろうか。
ねこかたまりの中心で、あいつはぐったりしていた。

「大丈夫か?」
『うう、ねこさん暑すぎるよぉ』
「引きはがせばいいのに」
『でも可愛いからねぇ』

ぶにゃぁ、とこいつの頭の上で黒猫が鳴く。

『お前だけは生意気で不細工だけどね』

摘まみ上げようとしたこいつの手をすり抜けて、黒猫のクロは床に降りた。
代わりにほかの猫が群がるようにこいつの手にすりついてくる。

「大人気だな」
『涼まれてるだけな気がするけど。もしくは何かおいしいのかなぁ。よく舐められるし』
「ふむ」
『おにいさん!?』
「しょっぱいな」
『いきなり舐めるなんてセクハラだ!!!!』
「まあまあ、これやるから」
『ちゅーるだ!!』

猫用のご飯を渡す。これに猫がとても喜ぶ動画を見て、一度試したいといっていたのを思い出し、偶然見かけたので買ってきたのだ。

『ねこさーん、ちゅーるだよぉ』
「……」

あいつがあけてちゅーるを振るが、猫は一切反応しなかった。

『反応しないね』
「そうだな」
『ねこさーん? わふっ』

もう一度呼ぶと、猫たちは起き上がり、あいつに群がり始めた。
猫の波にのまれ、あいつはまたねこかたまりになるのであった。
無視され、地に堕ちるちゅーる。

「ほら、クロ。食べるか?」

黒猫のクロに差し出したら、おいしそうに食べていたから、まずいわけではないのだろうが……
あいつの方がおいしそうな何かを出しているのだろうか。
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