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ぼくたちのホームグラウンド戦記(アウェイ戦)
9、食べた感想を1800字くらいでまとめてください
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「う、わ」
その声に、今度は店内にいる男達に緊張が走る。
初来店らしき女子高生が、このラーメンのファーストインパクトにどのような感想を言うかと。
だが、
「う、まい。なんだこれ」
丼を見つめたまま、そう言った響季は思わず二掬い目を行ってしまう。
それを見て男達はどこかホッとしたような空気を発し、更に何人かは満足そうにうんうんと頷く。
そんなことには気づかず、響季は更に三掬い目に行く。
しかし三掬いしてみても何味かはわからない。献結ルームの看護師さんは確か濃い目の、超濃厚豚骨醤油と言っていったが。
今まで濃厚豚骨などという味は何度か食べたことはあるだろうが、おそらく一般的なそれとは違った。
一口啜るとまた飲みたくなる。
身体が欲している。しかし同じくらい身体が拒否しているのもわかった。
こらアカンでご主人、塩分が、脂が、と全力でノーを出してくる。
なのに同時に全力でゴーサインも出してくる。
おそらくゴーサインの正体は背徳感だ。
身体に悪そうなジャンクな味。しかし長い人生、たまにはそんなのもええじゃないかと身体が受け入れている。
初めての経験に、響季が一心不乱にスープばかり飲んでいると、
「やさいもたべなさい」
「うん」
零児が発したお母さんのような言葉に頷く。
そうだ、スープばかり飲んでもいられないと。
麺が見えないこともあり、言われた通りまず野菜にとりかかる。濃厚なスープが絡み、野菜も美味しい。
よし、これならいける、臆することなどないのだともやしをモリモリ胃に入れると、ようやく麺が見えてきた。
少しパスタに似た平打ち麺。
それを、ずぞぞーと啜ると、
「おおっ」
客の間から歓声が上がる。いい食べっぷりだと。
そして食べている方は未知なる体験に驚く。
喰ってる感がすごい。
普段の食事では得られない感覚。
口いっぱいに小麦の味が広がる。
ガツガツずるずると、食欲を曝け出していい。
雄々しきここは、おそらくそういった場だった。
ルームのお姉さんが欲していたのもおそらくこれだ。
白衣の天使として立派にお勤めし、クタクタに疲れた夜勤明け。
だが本来の、夜のアタイはそんなんやないでとリセットするため、零児のように髪を結ってこの味と量を胃にぶち込んだのかもしれない。
儀式にも似た行為だったのかもしれない。
響季がそんな哲学めいた考えに至ると、食べれるだろうかという不安はいつの間にか消え去っていた。
旨い以前に身体が欲している。
その波に委ねればいけるはずだ。
いけるいけるぞと麺を啜り、野菜をモリモリ食べ、箸休めとして卵を頂き、ホロロっとしたチャーシューを食べ、また麺に戻る。
まったく隙のない攻め方。
しかしその身が、耳が声を捉えた。
「えーとじゃあメール続々と来てますんでー、ちょっと読もうかなー」
その声に響季がカッと目を見開く。野菜と麺をもぐシャキしたまま。
当然声は、店内に流れているラジオ番組からだ。
そうだ、自分はラジオ番組にメールを送ったのだと思い出す。
喰らうのに夢中で聞き逃すところだった。
そして、特盛りラーメンを喰らう流れが止まった。
それからはそろそろ、ずおおと麺を啜る勢いが全く異なる奇妙な時間が流れた。
ずおおは曲やCM中、そろそろは番組に寄せられたお題メールを読み上げる時だ。
ラジオネームを読み上げる時は嫌でも響季の箸が止まる。
自分ではないとわかると箸を進めるが、読まれるネタのレベルにまた箸が止まる。
それを、無理やりへらへら広げたり笑ったりするパーソナリティー二人。
ぬるい、まっことぬるいと、番組中に流れる温さと口中の脂っぽさを流すように響季がレモン水を煽る。
ファンしか聴いてないからいいのかもしれないが、たまたま聴いたファン以外のドライバーや、こうしたラーメン客が曲とおしゃべりを聞き、パーソナリティー二人に興味を持ってくれるかもしれないのに。
ネタメールの温さがその機会を逃していた。
あるいは曲の良さから番組を聴きに来た人が、ああファンとはこんな温い馴れ合いをしているのだと嫌悪感を示す恐れがあるのに。
そんなことを考えながら眉間に皺を寄せ、響季がまた中毒性のあるスープを飲み、レモン水を飲む。
そのためなかなか箸は進まなかったが、
「えー、というわけでメール、たくさんいただいておりますのでー」
「あーい、ありがとねー」
何度目かのお題メール読みタイム。その中で、
「続いてはラジオネーム」
「ぐふっ」
それは唐突にやってきた。
あまりのネタレベルの低さに自分ではないとわかり、ラーメンに取りかかっていた響季だが、次に聞こえてきたラジオネームにむせる。
対して零児は、というか自分のかつてのラジオネームをまた拝借した張本人は、素知らぬ顔で麺を啜っていた。
「お題 こんな転校生は嫌だああ!」
パーソナリティーの一人が再度お題を読み上げ、ポンポンッという木魚SEの後に送られてきたメールを読むと、
「ぶははははっ!」
「ふっ」
「ひひひ」
もう一人のパーソナリティーが爆笑し、その笑いにつられたのかカウンター内で鍋をかき回していた店員も下を向いたまま微かに笑う。学生風客の一人も。
「なんだよ」
いきなり笑いだした学生に仲間達が何急に笑ってんだよ、きめえなと肘で突く。
「いや、ラジオラジオ」
突かれた学生は口元を押さえながら天井を指差し、
「ラジオ?」
仲間達が天井を見上げる。まるでラジオなんてものが流れていたことに今気付いたように。
「えー?なにこれ。すごいなこれ。急にレベル上がりましたけど」
ツボにハマッた相方を笑わせようと、パーソナリティーがまた送られてきたネタを読み上げる。
相方はまたそれにぶはっと笑い、放送に耳を傾けていた学生も同じネタにふひと笑う。
店員も、先程よりももっとわかりやすく肩を震わせ、んくくっと笑う。
「えへぇっ!?」
「なんだよこれ」
そして流れがわからないながらも聞こえてきたフレーズに学生仲間達も笑う。
よくわからないがそのフレーズだけは面白いと。
電波を通しての爆笑と、カウンター内の小さな笑い声。
更に学生達のやりとりを、響季は耳と目で捉える。
心の中は嵐のような興奮とほんの少しの嫉妬が渦巻いていた。
零児はといえば相変わらず丼の中に残った野菜を食べているだけだ。
悔しいほど落ち着いている。
だが、
「続きましてぇ、ラジオネーム」
その声に、今度は店内にいる男達に緊張が走る。
初来店らしき女子高生が、このラーメンのファーストインパクトにどのような感想を言うかと。
だが、
「う、まい。なんだこれ」
丼を見つめたまま、そう言った響季は思わず二掬い目を行ってしまう。
それを見て男達はどこかホッとしたような空気を発し、更に何人かは満足そうにうんうんと頷く。
そんなことには気づかず、響季は更に三掬い目に行く。
しかし三掬いしてみても何味かはわからない。献結ルームの看護師さんは確か濃い目の、超濃厚豚骨醤油と言っていったが。
今まで濃厚豚骨などという味は何度か食べたことはあるだろうが、おそらく一般的なそれとは違った。
一口啜るとまた飲みたくなる。
身体が欲している。しかし同じくらい身体が拒否しているのもわかった。
こらアカンでご主人、塩分が、脂が、と全力でノーを出してくる。
なのに同時に全力でゴーサインも出してくる。
おそらくゴーサインの正体は背徳感だ。
身体に悪そうなジャンクな味。しかし長い人生、たまにはそんなのもええじゃないかと身体が受け入れている。
初めての経験に、響季が一心不乱にスープばかり飲んでいると、
「やさいもたべなさい」
「うん」
零児が発したお母さんのような言葉に頷く。
そうだ、スープばかり飲んでもいられないと。
麺が見えないこともあり、言われた通りまず野菜にとりかかる。濃厚なスープが絡み、野菜も美味しい。
よし、これならいける、臆することなどないのだともやしをモリモリ胃に入れると、ようやく麺が見えてきた。
少しパスタに似た平打ち麺。
それを、ずぞぞーと啜ると、
「おおっ」
客の間から歓声が上がる。いい食べっぷりだと。
そして食べている方は未知なる体験に驚く。
喰ってる感がすごい。
普段の食事では得られない感覚。
口いっぱいに小麦の味が広がる。
ガツガツずるずると、食欲を曝け出していい。
雄々しきここは、おそらくそういった場だった。
ルームのお姉さんが欲していたのもおそらくこれだ。
白衣の天使として立派にお勤めし、クタクタに疲れた夜勤明け。
だが本来の、夜のアタイはそんなんやないでとリセットするため、零児のように髪を結ってこの味と量を胃にぶち込んだのかもしれない。
儀式にも似た行為だったのかもしれない。
響季がそんな哲学めいた考えに至ると、食べれるだろうかという不安はいつの間にか消え去っていた。
旨い以前に身体が欲している。
その波に委ねればいけるはずだ。
いけるいけるぞと麺を啜り、野菜をモリモリ食べ、箸休めとして卵を頂き、ホロロっとしたチャーシューを食べ、また麺に戻る。
まったく隙のない攻め方。
しかしその身が、耳が声を捉えた。
「えーとじゃあメール続々と来てますんでー、ちょっと読もうかなー」
その声に響季がカッと目を見開く。野菜と麺をもぐシャキしたまま。
当然声は、店内に流れているラジオ番組からだ。
そうだ、自分はラジオ番組にメールを送ったのだと思い出す。
喰らうのに夢中で聞き逃すところだった。
そして、特盛りラーメンを喰らう流れが止まった。
それからはそろそろ、ずおおと麺を啜る勢いが全く異なる奇妙な時間が流れた。
ずおおは曲やCM中、そろそろは番組に寄せられたお題メールを読み上げる時だ。
ラジオネームを読み上げる時は嫌でも響季の箸が止まる。
自分ではないとわかると箸を進めるが、読まれるネタのレベルにまた箸が止まる。
それを、無理やりへらへら広げたり笑ったりするパーソナリティー二人。
ぬるい、まっことぬるいと、番組中に流れる温さと口中の脂っぽさを流すように響季がレモン水を煽る。
ファンしか聴いてないからいいのかもしれないが、たまたま聴いたファン以外のドライバーや、こうしたラーメン客が曲とおしゃべりを聞き、パーソナリティー二人に興味を持ってくれるかもしれないのに。
ネタメールの温さがその機会を逃していた。
あるいは曲の良さから番組を聴きに来た人が、ああファンとはこんな温い馴れ合いをしているのだと嫌悪感を示す恐れがあるのに。
そんなことを考えながら眉間に皺を寄せ、響季がまた中毒性のあるスープを飲み、レモン水を飲む。
そのためなかなか箸は進まなかったが、
「えー、というわけでメール、たくさんいただいておりますのでー」
「あーい、ありがとねー」
何度目かのお題メール読みタイム。その中で、
「続いてはラジオネーム」
「ぐふっ」
それは唐突にやってきた。
あまりのネタレベルの低さに自分ではないとわかり、ラーメンに取りかかっていた響季だが、次に聞こえてきたラジオネームにむせる。
対して零児は、というか自分のかつてのラジオネームをまた拝借した張本人は、素知らぬ顔で麺を啜っていた。
「お題 こんな転校生は嫌だああ!」
パーソナリティーの一人が再度お題を読み上げ、ポンポンッという木魚SEの後に送られてきたメールを読むと、
「ぶははははっ!」
「ふっ」
「ひひひ」
もう一人のパーソナリティーが爆笑し、その笑いにつられたのかカウンター内で鍋をかき回していた店員も下を向いたまま微かに笑う。学生風客の一人も。
「なんだよ」
いきなり笑いだした学生に仲間達が何急に笑ってんだよ、きめえなと肘で突く。
「いや、ラジオラジオ」
突かれた学生は口元を押さえながら天井を指差し、
「ラジオ?」
仲間達が天井を見上げる。まるでラジオなんてものが流れていたことに今気付いたように。
「えー?なにこれ。すごいなこれ。急にレベル上がりましたけど」
ツボにハマッた相方を笑わせようと、パーソナリティーがまた送られてきたネタを読み上げる。
相方はまたそれにぶはっと笑い、放送に耳を傾けていた学生も同じネタにふひと笑う。
店員も、先程よりももっとわかりやすく肩を震わせ、んくくっと笑う。
「えへぇっ!?」
「なんだよこれ」
そして流れがわからないながらも聞こえてきたフレーズに学生仲間達も笑う。
よくわからないがそのフレーズだけは面白いと。
電波を通しての爆笑と、カウンター内の小さな笑い声。
更に学生達のやりとりを、響季は耳と目で捉える。
心の中は嵐のような興奮とほんの少しの嫉妬が渦巻いていた。
零児はといえば相変わらず丼の中に残った野菜を食べているだけだ。
悔しいほど落ち着いている。
だが、
「続きましてぇ、ラジオネーム」
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