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その姿は「ヤジュウソノモノ」
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時にライオンが自我を手に入れるまでに至った経緯である。それは数百年前、謎の魔法使いと名乗る男に出会った時、願いが叶うと信じたライオンがこの国の王。「シューベルト」に出会った際、その正体に気づき、その男を食べた。そして――ライオンにその時芽生えた人格。それを彼はきっと自分のものだと勘違いしたのだろう。その字がそのものが自分のものではなかったのだが……
それは私が真っ先に気づいた事実であり、彼を決してだまそうとしているわけではない。私がそれに気づいたのは彼に触れたとき、私の中に流れてきた映像のせいである。その映像が何を意味するのかは知らないが……
だけれどもきっとそれがこの人格の元の主である数百年前の王の意思なのではないか。私はそう思う。
「私は――ドロシー。この国に旅に来たの」
「いや、それは嘘だ」
ライオンは私のにおいをかぎ分け、そういった。「その匂いは王族の者だけが放つものだ」そういうのだ。私は違う国から来た。そう言い張るのだけれど……ライオンは一向に私を王妃だという。この国の失われし一人の後継者。この国の建国者、ワンダーランドの血を引く正統な後継者である女性は数年前に確かに存在したが、突如行方がつかめなくなったという。それは亡命しただとか、いろいろな説が飛び交うのだが……
「日の国。そう呼ばれる国へそのものは消えた。お前はその国から来たのだろう? 疑われるには立派な事実があるではないか」
そういわれるとそうなのだが……やはり私が王妃、というところで違和感がある。わたしでいいのだろうか……だとか、私なんかが本当にそうなのだろうか……だとか。彼はきっと嘘をついていない。だからこそ傷つけたくはない。
「あの、あなたの名前は――」
「我か。われはな――」
そしてその時ライオンは気づいてしまったのです。自分の犯した罪に。自分になぜ自我が芽生えたのか。
そしてそれに気づいたとき、ライオンは心底泣き出しました。犯してはいけない領域にまで我は罪を犯した。この自我はわれの者ではないのか。わたしだって事実を伝えるのに少々ためらった。
「お前は城へ行くのだろう」
「ええ。そのつもりです」
「なれば我が道案内をしよう。森の中は危険だからな」
「ありがとう。シューベルト王」
「お前は我の子孫なのだ。シューベルト王など硬くならないでくれ」
私は彼の案内の元、森を抜け、ワンダーランド城へ向かうこととなった。
ライオンは私を背に乗せ、カカシは私の背中に括り付けられ、城を目指す。
それは私が真っ先に気づいた事実であり、彼を決してだまそうとしているわけではない。私がそれに気づいたのは彼に触れたとき、私の中に流れてきた映像のせいである。その映像が何を意味するのかは知らないが……
だけれどもきっとそれがこの人格の元の主である数百年前の王の意思なのではないか。私はそう思う。
「私は――ドロシー。この国に旅に来たの」
「いや、それは嘘だ」
ライオンは私のにおいをかぎ分け、そういった。「その匂いは王族の者だけが放つものだ」そういうのだ。私は違う国から来た。そう言い張るのだけれど……ライオンは一向に私を王妃だという。この国の失われし一人の後継者。この国の建国者、ワンダーランドの血を引く正統な後継者である女性は数年前に確かに存在したが、突如行方がつかめなくなったという。それは亡命しただとか、いろいろな説が飛び交うのだが……
「日の国。そう呼ばれる国へそのものは消えた。お前はその国から来たのだろう? 疑われるには立派な事実があるではないか」
そういわれるとそうなのだが……やはり私が王妃、というところで違和感がある。わたしでいいのだろうか……だとか、私なんかが本当にそうなのだろうか……だとか。彼はきっと嘘をついていない。だからこそ傷つけたくはない。
「あの、あなたの名前は――」
「我か。われはな――」
そしてその時ライオンは気づいてしまったのです。自分の犯した罪に。自分になぜ自我が芽生えたのか。
そしてそれに気づいたとき、ライオンは心底泣き出しました。犯してはいけない領域にまで我は罪を犯した。この自我はわれの者ではないのか。わたしだって事実を伝えるのに少々ためらった。
「お前は城へ行くのだろう」
「ええ。そのつもりです」
「なれば我が道案内をしよう。森の中は危険だからな」
「ありがとう。シューベルト王」
「お前は我の子孫なのだ。シューベルト王など硬くならないでくれ」
私は彼の案内の元、森を抜け、ワンダーランド城へ向かうこととなった。
ライオンは私を背に乗せ、カカシは私の背中に括り付けられ、城を目指す。
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