傍観者

ジャンマル

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教弘の場合

担任の義弘

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 マサアキは死んだ。壮絶ないじめの末に自ら命を絶ったのだ。担任である俺は彼のSOSに気づいておきながら何もすることは出来なかった。もっと正確に言うのなら、気づいてはいたが学校の名誉のためにスルーせざるを得なかったのだ。
 手をさし伸ばせば救える命を見殺しにして、墓参り。何をやっているんだと我ながらやってもやりきれない。オマケに主犯であった「カネマサ」には何も処分が降らない。相手が死んでしまった以上本当に彼らがいじめの主犯であったのか、証明出来ないのだ。いや、出来る。本来ならば出来る。だが……学校側はそれを良しとしないだろう。校内で自殺者?居るわけないでしょ。そんなスタンスなのだから当たり前だ。

 我々教員は立場上注意は出来る。だが止めることは出来ない。起きてしまったんだから見守るしかないのだ。そして俺がそんなに立場の人間であったせいで、それなりに交流があったはずのマサアキは自殺をした。飛び降りだった。……しかし、ネットでは彼の自殺はまるで水を得た魚かのように広まっていった。死人に対する罵詈雑言がネットの世界で飛び交っていたのだ。正直絶句した。ここまでするのかと。死んだ人間に対する扱いがそれなのかと。
 マサアキの自殺から二週間ほど。考えに考えた末に俺は辞職を決意した。退職届は受理された。
 憧れだったはずの教員をこんな形で辞めるとは……夢であって欲しかった。
「先生。葬式はいらっしゃるんですか?」
「もちろん行きます。じゃないと示しがつきませんから」
 せめてもの償いは葬式には出席出来ることだと勝手に思っている。許して欲しい、なんて思ってしまうのは自分がずるいやつなんだと自覚はしているつもりだ。
 もちろんマサアキのお母さんはこのことは知っている。だけど、やるせない気持ちの中で俺の立場を分かっているから何も言うことが出来ないんだろう。本当ならいじめの片棒を担がされている人間なんだと分かっているから俺もそれに対して何も言うことは無かった。

 なあマサアキ。どうすれば正解だったんだろうか?いや、死んだ人間にはそれ相応の覚悟があって自殺をした。それに対する正解なんて求めては行けないのかもしれない。死人に口なしとは戒めの意味もあるのかもしれないな……
「あぁ、ところでお母さん」
「なんでしょう?」
「PTAでこの問題をあげるのだけは……」
「わかっております。本当なら声を大にして言うところですか……」
「心中お察しします」
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