私の上司は超がつくほどの潔癖症でした。

日向 ずい

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第2章 「橘さんについて」

「会議中の橘さん」

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 「それでは今から前回同様、新商品についての会議を始める。なお、今回は新入社員の鈴風さんにも案を考えてもらったため、良い機会だから発表して貰おうと思う。鈴風さん、考えて貰った案を発表して貰っても良いかな??」

 「はい、それでは発表いたします。」

 こう言って私は徹夜で考えた新商品の案について説明を始めた。

 内容はこうだ。

 知育菓子のシリーズを思い切って変えてみるということである。
 知育菓子は子供の知育効果が期待できるお菓子のことを言うのだが、大人も楽しめるような知育菓子を作ることにより、幅広いニーズに顧客を獲得出来るのではないのか...。
 その為、知育菓子の難易度を上げることにより、子供だけでなく大人も楽しめるお菓子の開発が行えると考えたわけだ。

 私は説明を終え、自分の席に着席すると、部長が軽く頷き

 「鈴風さん、初めてのプレゼンにしてはよく出来ていたよ。ありがとう、では今の鈴風さんのプレゼンに意見がある人は挙手して貰っても良いかな??」

 私の案を聞いた社員は必死にノートやパソコンに何かを打ち込むと、手をぱらぱらと挙げだしたのだった。

 今回の会議は、少人数で部署全体の3分の1しか参加していない。

 だが、挙手率はほぼ100%で、私はこの状況に何を言われるのか緊張で胸がドキドキしていた。

 すると私の緊張をほぐすかのように、私の隣に座っていた橘さんが机の下で携帯用の除菌スプレーを振り何かを空中に書いた。

 文字によく集中すると、『リラックス×2』と描いており、私は橘さんの馬鹿げた行動にふふっと心の中で微笑むと、そのまま他の社員の質問に答えていったのだった。

 橘さんの除菌スプレーのおかげか、部長には『質疑応答もはじめてにしてはよく出来ていた。』と褒めて貰うことが出来た。

 そうして、他の社員がいろんな案を出し合い、会議は無事に幕を閉じたのだった。

 会議終わり、部屋の後片付けをしていた橘さんに

 「私も手伝います。...先ほどはありがとうございました。」

 と言い、私は片付けを手伝いながら感謝の言葉を口にした。

 そんな私の言葉に橘さんは、意味が分からないと言った表情を浮かべ

 「えっ、それは何に対してだ???」

 と言ってきたので、私は薄ら笑いを浮かべながら

 「何とぼけているんですか???先ほど、私がプレゼン中に緊張してしまい、それを除菌スプレーでほぐしてくれたじゃないですか。」

 とこう言うと、橘さんはしばらく考えた後、納得した表情をし

 「あー、なるほど。あれはキミにじゃないよ??目の前に座っていた女性社員に対してだ。」

 と言ってきたのだ。

 私は内心『はぁ!??』と怒鳴り声を上げていたが、そんなことはつゆ知らず橘さんは、頼んでもいないのに黙々と話を進めてくれた。

 「いやぁ、あの女性社員可愛いし、良い匂いがするんだよね。だからさ、なんかしんどそうな顔していたから、エールを送ってあげたってわけ。...間違ってもキミには、除菌スプレーを無駄遣いするような使い方はしないよ。」

 橘さんのこの言葉に私は遂に耐えきれなくなり、片付けていた机を両手で叩くと

 「っ!!!!橘主任、いくら何でも酷すぎますよ!!!確かに私は可愛くないかも知れませんが、そんな言い方しなくても良いじゃないですか!!!」

 とこう声を荒げた。

 「いや、気に触ったのならごめんね。知らないみたいだけど、僕って面食いだからさ!!」

 橘さんは一向に反省した様子もなく、自分の性癖について語ってくれた。

 「そんなの聞きたくも無いし、興味も無いですよ!!潔癖症なのに、一部の女の人はいけるんですね。」

 私の怒った態度にも気付いていないのか、橘さんは

 「まあね、女の子は綺麗な子が多いでしょ???まぁ、キミみたいなズボラな子もいるみたいだけどね....。」

 と言い、私のことを軽蔑する目で見つめてきた。

 「っ、もう橘さんなんて知らないですよ!!!あとは、自分で片付けて下さい!!!」

 私はついに耐えきれなくなり、橘さんの制止を振りきって会議室をあとにしたのだった。

 その頃、会議室に取り残された橘は

 「はぁ、さすがにからかいすぎたな....。あとで、ちゃんと謝っておかないとな。あっ、でもズボラなことは本当の事だし、言い方がきつかったってコトだけ謝っておこうかな。」

 と言い、独りで残りの机と椅子を片付け出すのだった。
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