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第4章 「真実の幕開け」

「お久しぶりです、日下部さん。」

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 「お久しぶりです、日下部さん。本当に来て下さったですね。ありがとうございます。」

 「だって、マオちゃんが殺されるかもしれないんでしょ!??そんなの黙って見過ごせるわけ無いわ!それと...迎えに来るってことは、私に拒否権ないわけだし...。」

 日下部は、本当の理由を心の隅に隠しながら、約束通り指定された時間に迎えに来たルグに、真剣な表情を向けていた。

 「ははは、日下部さんもなかなか面白い人だな。...さてと、こんなところでいつまでも油を売っているわけにはいかないんだよな...。おい。ボン。」

 「...はい、ルグさん。」

 そんな日下部の心情をどこまで知っているのか、ルグは目の前の日下部に薄く笑いかけると、そのまま自身の近くに立ち尽くしていたボンの名前を呼び、ボンに呪文を唱えさせると魔界へ向かったのだった。

 「つきました。......日下部さん、大丈夫ですか???....大丈夫ですよね?」

 「....うっ、気持ち悪っ...って、あっ.....えっと、えぇ、平気よ。大丈夫!!!!(こう言っておかないと、私は殺されるわ...。なんて言ったって、ボンはルグに少しでも迷惑、危害を加える者がいたら、即刻排除するに決まっているものね....。う~、怖すぎ...!!!!)」

 「そうですよね!!!安心しました。....では、ルグさん。早速屋敷の仲間と....『ボン。そのことなんだが....すまない。これから魔王さんに会いに行かなければならないんだ。本当に申し訳ないが...日下部さんを連れて、屋敷まで安全に戻って欲しい。いいか???日下部さんには、絶対に怪我を負わせないこと。』....はい、分かりました。ルグさんの頼みなら喜んで...。」

 ルグは、目の前で主人に捨てられた子犬のような顔を自分に向けてくるボンに、とても言いにくそうに事を告げると、そのままボンの意見も聞かずに、走って魔王さんの屋敷兼店を目指したのだった。

 残されたボンは、隣で自分の事をおびえた目で見つめる日下部に対して冷たい目を向けると、こう言ってさっさと歩いて行ってしまった。

 「.....その目、ムカつくから....やめてくれない??俺はアンタに興味なんかこれっぽちもないから。むしろ、俺にはルグさんだけだ。....分かったら、極力何もしないで...空気になって着いてきてくれる。」

 「....いやぁ、これでも結構耐えてた方なんだけどなぁ.....。と言うより、ルグと私に対して態度の差あからさますぎない!????まぁ、殺されないのならいいけどさぁ。」

 日下部は、一人こう呟くと大分先の方まで歩いて行ったボンの後を、小走りで追いかけるのだった。

 その頃、魔王の城では....

 「マオちゃん...日下部さんは無事に連れてくることができました。....それで、例の作戦とは一体...???」

 「ん???あ~、作戦はね。ズバリ!....魔法使いに恥をかかせちゃいましょ大作戦よ!!!」

 「..........えっと....何かの冗談ですか???」

 マオちゃんのあまりの陽気な発言に、それまで心に緊張感を抱いていたルグは、とっさにマオちゃんの顔を見つめた。

 だが、マオちゃんが嘘を言っているようには見えず....困り果てたルグは、何とか言葉を絞り出したのだった。

 そんなルグにマオちゃんは容赦なく、こう言葉を返した。

 「ん????そんなの、冗談なわけなじゃない!!!!大まじめよ!!!作戦は、悪戯な魔法使いを懲らしめるわよ!をコンセプトに考えたのよ!」

 「あはははは、マオちゃん....。(いくら何でも、自分の命が狙われていてこの緊張感のなさは、一体どこからきているんだ....。そして、マオちゃんは一体何者なんだ...。)」

 ルグが内心こんなことを考えているとも知らずに、マオちゃんは一人で自身の考えた作戦を、話の雰囲気を全く飲み込めていないルグに対して、容赦なく語り出したのだった。

 「....。(本当に....魔王さんに任せて大丈夫なんだろうか...???なんだか、先が思いやられるなぁ。なんて目の前のマオちゃんには、死んでも言えないけど....。)」

 その後....小一時間にわたるマオちゃんスピーチが、ルグの精神を大幅にすり減らしたのは....言うまでも無い。
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