押し入れに魔王

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act.3 常夜心酔

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『カテキョまだ家居んの?』

友人とのグループチャットを開いた創は眉を寄せる。またその話か。
先日、自分は迎えに来た師と遭遇し、友人らを置いてナンパを撒くように立ち去った。当然のこと本チャットルームは荒れに荒れ、創は考え得る限りの罵詈雑言を投げられたし、こっちはこっちでマウントを取りまくった。

然れど、「誰だ」と問われて例の家庭教師だと返した。
その瞬間に「ああ…あの新興宗教の」と訳の分からない納得を返され、以来微妙な空気が続いている。遺憾も遺憾。甚だ遺憾である。

『居るが?』

『画像くれ、何でもするから』

『去れ』

2文字で会話を終え、さっさと携帯を仕舞って歩みを再開する。道路の先では彼らに画像を乞われた”カテキョ”が振り返り、逆光で眩い笑みを湛えていた。

「友達?」

「あ、はい…すみません大した用じゃないんで」

「いいよ、向こうに行く事になったら連絡も取りづらくなるし。今の内に沢山遊んでおいたら?」

正直連絡が取りづらくなろうが、そんな事より今は師との時間を大切にしたかった。
今日は大学に付き添ってもらい、退学云々の申請や面談などを取り付けてきた。手続きが完了するにはもう何度か足を運ばねばならないのだが、とにかく何処へ行っても彼に集まる注目に参る。

身の安全云々を考慮し、付近までは彼が何時の間にか作っていたカードでタクシーにお世話になっている。貴族にでもなった気分だ。せめてスーパーまでは歩こうと言えば、「離れないでね」とじっと目を見ながら念を押された。ハピネス。

「友達にサトリさんのこと聞かれました」

「うそ、何て言ってあるの」

「家に来てる家庭教師だって…」

「まあ…合ってるね」

スーパーまで向かうたった数分のルート。周囲は長閑な田んぼに囲まれた小道。
相変わらず曇天ながら、穏やかな日常に油断していたのだ。開いた師との距離を詰めようとした矢先、創は不意に途切れた視界に訳も分からず凍り付いていた。

「……は?」

360℃何処を見ても真っ白い。先まで見ていた景色どころか、臭覚も聴覚も消えて呆然と立ち尽くす。
創くん!遥か遠くで師が呼んだような気がするが、言葉を返すための舌が動かない。

何も見えない。汗を滴らせて懸命に目を凝らすと、徐々に白い壁が崩れる様に景色が戻り始めた。
白昼夢か、よもや閃光弾か。混乱しつつ蘇る視界に息を吐くも、周囲に現れたのは先までの長閑な田んぼでは無く、だだっ広い倉庫と黒いコートの男だった。




















押し入れに魔王

act.3
常夜心酔


























「――創くん!」

突然視界を遮る魔力壁に振り返るも、既に青年の姿は忽然と消え失せていた。
これは転移魔法。使えるのは高等種に限られる故、先ずバイパーの仕業と見て間違いないだろう。いつも近くに居た烏も消え、何かを捜す様に飛び去って行く。

(付近に気配は無かった。座標指定で飛ばしたにしても、どうやってこんなピンポイントで)

埣取は民家の屋根に飛び乗り、周囲の魔力を検知すべく意識を集中する。
転移魔法と言っても、実は対象を防護しながら高速移動させているに過ぎず、通ったルートに僅かながら痕跡が残る筈だ。

「隣市のさらに郊外…東北東へ10.5km」

位置の特定が終わり、罠の気配を感じながらも右手を地面へ伏せた。
この程度の魔力使用なら影響はないだろう。自身も転移術式を展開し、瞬きの間に目的地へと移動する。

着地した先は木々に囲まれ、どうやら山の麓付近らしかった。周囲は車やタイヤのスクラップだらけで閑散としているが、付近には色濃い同族の気配が漂っている。
探索を進めようとして、微かな物音へ意識を取られた。音源には錆びた大型トラック。その天井を見上げれば、大鎌を携えた少年が凶悪な笑みで待ち構えていた。

「残念!ここは不正解だよ!」

「貴方…この間の」

この少年が突如空から現れ、大鎌を振るっていた一幕を思い出す。RBNの報告でも魔王傘下とは聞いていたが、このタイミングで現れると言うことは。

「君、バイパーのガーディアンですか?」

「そうだとも!ルキだよ、よろしくお願いします」

「転移魔法の痕跡を偽装する方法なんてあるんですか?今度やり方を教えて下さい」

会話しながら埣取はこの間凍らせた相手の四肢を盗み見る。きちんと元通りに修復された動きを確認し、実に勝手な安堵で息を吐いた。

「バイパーは何でも知っているんだ、人界の観光地も、雨の生まれた場所も」

「それは凄いですね、創くんが何処に行ったかも知ってる?」

「もちろん、でもタダじゃ教えてあげない…僕のクイズに答えてよ、正解の賞品にしよう」

成る程。戦力では敵わないと知りつつも、どうにか埣取を足止めしたいらしい。バイパーも自分のガーディアンをぼろ布にした相手に、性懲り無く捨て駒としてぶつけに来たのだろうか。もしそうなら、度し難い下衆だが。

「もう既に陛下が発見しているかもしれませんよ」

「それは無いんだよなあー、何でって…おっといけない…バイパーに口止めされてたんだ、何でもない、何でもないよ」

「…何かご主人の策を知ってそうですね、脚をもう一本貰おうか」

埣取の左手が光り、撫でた虚空から抜き身の青い剣がずるりと現れる。
氷剣。彼の魔力で恐ろしい密度になったそれは、透明ながら鉛の如き鈍い輝きを帯びている。

一寸その禍々しい脅しにガーディアンは怯んだかに見えたが、体は引かなかった。敵は変わらずトラックの上に居座ったまま、米神に汗を浮かばせて笑みを作る。

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