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act.3 常夜心酔
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しおりを挟む(…これは陛下一人では無理だ)
物凄い力を持った悪魔ではあるが、実は器用でない。それにモノづくりだとか、細かい七面倒な作業を嫌う。
誰か協力者が居たのだ。然れど青年に問うても、家を出入りしていた他人など見ていないらしい。
「まあ、1人や2人匿ってても気付かねえかも…悪魔ってバイパーみたいにワープ出来るんでしょ?」
「高等種に限られるけどね。そうだ創くん、さっき聞きそびれた君のお母さんの話なんだけど」
そう言えば勢いで流してしまった問題を思い出し、青年が岩場に見つけた蜘蛛から顔を上げる。
「malumってね…ラテン語で林檎って意味なんだ」
成る程、林檎…りん…歩夢島りん。かなり無理くりな感じはするが、紐づけが出来なくもない。母親が昔”リンゴ”なんてペンネーム使っていた事実は、正直色んな部位が痒くなってくるが。
「バイパーが”流石マールムの息子”、って言ってたでしょう。君のお母さんは魔界で名を馳せるレベルの…恐らく魔導士か魔女だったんじゃないかな」
「えっっ……つまり」
「君の才能はお母さんの血筋じゃないかってこと」
母親が魔導士か魔女だった?魔界で暮らしていた?
確かに元魔王の父との接点を考えると、そう考える方がしっくり来てしまう。思い出せば料理も下手だったし、何か妙に世間ずれしていた気はするし。
今までさしたる興味も無かったが、母の過去について家探しすべきかもしれない。彼女が存命の頃使っていた部屋だとか、酒瓶しか転がっていなさそうなその夫の部屋だとか。
「そう言えば夕方だけどお腹空いたでしょ、何か作るね」
「嬉しいですけど…体調大丈夫ですか」
微量とはいえ魔力を使い、倉庫で少しふらついていた様に見えた。彼は微笑み、やがて目前に現れた立派な門扉を押し開く。誰のセンスかは知らないが、聳え立つ黒いヴィクトリアン調の館は何度見ても圧巻だった。こんな城が自宅の押し入れ内に現れ、今日から此処に住めと言われた日には男でも心躍ってしまうレベルだ。
エントランスを潜れば小振りのシャンデリアがぶら下がったロビーがお目見えする。畳の日本家屋に慣れ親しんだ創はそれだけで委縮する光景だが、父が魔界に居た頃はもっと凄い宮殿で暮らしていたのだろう。
使用人こそ居ないが、こんな洒落た玄関に履き古した運動靴を並べるのも憚られる。
「…落ち着かない?」
「まあ、正直…ベッドも慣れなくて」
「床に布団敷いて寝てるもんね、取りあえず部屋で学校の書類書いちゃったら?」
師の容態は気になったが、仰る通りだと思い肩掛けカバンを手に自室への階段を上がる。自室へ帰るのに階段を使うことすら慣れない。まったく、何だこの意識高い系のベンチャーみたいにぐるぐる歩かせる段差は。
尚、この建造物には結界が張られており、創が魔力酔いに苦しむことは無い。RPGのセーブポイントみたいなもので、青年は宿屋に到着した心境で思い切りベッドへ寝転がった。
「っああーー……疲れた…」
今ならこの慣れない高床式寝具でも眠れそうだ。流石のポジティブの権化も、この激動の数日間はそれなりに堪えた。
スマホの通知は今頃すごい事になっているだろう。なんせ創が大学を辞める旨を伝えれば、友人とのチャットルームは『新興宗教に堕ちた友人を救う会』に名称変更してしまった。
「…サトリさん、凄え可愛いかったな」
しかし外部の騒音より何より、瞼に浮かぶのは意地らしい彼の姿だ。
自分を嫌いだの、やっぱり嫌いじゃないだの。陛下にも言ったことないだの。
契約の件もきちんと考えると言っていたし、これは近い内に一世一代の夢が実現するのでは。つまり、想い人とのセ、セ、セッ。
同時刻、キッチンで野菜を洗っていた埣取は悪寒に肩を跳ねさせた。
何か上階から禍々しい気が立ち込めていたが、気の所為か。青年の消えた階段を振り返り、何もない静寂を確認して警戒しつつも俎板へ視線を戻す。
「人の心配ばかりして…体調崩してなきゃ良いけど」
自らも大変な状況なのに、こちらに構ってばかりの青年に嘆息する。せめて食事だけでも体に優しいものをと考えた結果、俎板には夜半に勉強した栄養学教材の献立が並んでいた。
下拵えをしようと包丁に手を掛ける。だが青菜に刃を入れた折、不意に腹部を嫌な痛みが襲った。また呪いの進行が始まったのか。患部を押さえてシンクに手を突けば、硬く乾いた音と共に触れた個所が氷漬けになっていた。
「、え」
氷は伝染する様にシンクへ広がると、俎板から蛇口から浸食し始める。
咄嗟に離れるも魔力暴走は止まらず、徐々に壁から自身の腕から、早送りの様に成長した氷が覆い尽くしていた。
「あ、……どうし、」
もしや今日だったのか、自分の最期は。肩口まで凍り付く自分の体を目に、何の対処も出来ず立ち尽くす。
虚ろな目で見上げた天井は、既に霜が我が物顔で蹂躙し氷柱を作らんとしていた。このままでは上階まで達するかもしれない。自分が死ねば魔力が製造できず、止まる筈だ。自分が死ねば。
カランと玄関のドアベルが鳴る。矢庭に足音が近づき、今まで何をしていたかも分からない主が姿を現す。
聞き慣れたその声に「埣取」と呼ばれた気がした。引き摺られる様に怯えた目を向ければ、彼はキッチンの惨状も厭わず、距離を詰めて此方の肩を掴んでいた。
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