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第2章 国立キャルメット学院の悲劇
対抗戦と共に……
しおりを挟む「さて、始まりました! 今年の対抗戦はひと味違うかも?」
楽しげな声でそう言い放つのは一人の女子生徒。
「司会はこの私、ヘンリーが行わせて頂きます!」
まずは学年対抗。コータたちと同じ1年生の生徒が、対抗戦が行われるグラウンドに集結している。
数で言えばおおよそ400人入るだろう。
「いよいよね」
「あぁ」
緊張を滲ませる声を放つリゼッタ。それに短く答えるコータ。その隣で、愛剣に手を添えるバニラ。
それぞれが戦いに向けて気持ちを高めている。
「にしても、モモリッタはどこに行ったのかしら?」
「トイレって言ってたよ」
模擬戦争のメンバーで固まっていたはずないのに、姿が見えないモモリッタ。それを心配したリゼッタが声を上げる。
「ほんとに? マレア」
「うん。5分ほど前かな?」
「そっか、なら良かった」
ヘンリーによって進められる話。それを聞きながら、リゼッタは安堵の声を洩らした。
* * * *
私はこのままでいいの……?
トイレに行くと言って、開会式が行われているグラウンドから抜けた。でも、私がいるのは寮の自室。
手にはあの日以来姿を見ていないイグニティに貰った魔石がある。紫色の鉱石、これを飲むだけで強くなれると言っていた。
「頼りたくないけど……」
それは紛れもない私の本音。でも、みんなの力を見てると、自分の弱さが浮き彫りになって、嫌だった。
魔法は凄いけど、制御が疎かになっていたコータくんは、この短い間で制御出来るようになっちゃったし。結局、炎の制御が出来てからは全部の魔法が制御出来るようになったんだよね。
リゼッタ様、マレア様、ガース様は貴族だし、格が違うし。バニラさんは貴族ではないけど、貴族に仕えてるし。
なんで……なんで……私だけ何も無いの?
不平等な世界に嘆く。私に力があれば、こんな世界だって変えてやるのに。
「それなら、あなたが今手にしているそれを呑むべきです」
突然投げかけられる声。私は声がした後方を向く。
そこには、私の部屋に姿を現して以来姿を見ていなかったイグニティの姿があった。
青色の長い髪に変化はない。もちろん右目は完全に隠れている。青紫色の左の瞳は、あの日以上に不気味さを感じさせる。放たれる謎のオーラに気圧され、対面しているだけでも心がザワつく。
「イグニティ……さん?」
「お久しぶりです」
恭しいお辞儀で挨拶を交わす。
「世界を変えたいのであれば、魔石を呑むべきですよ?」
心の中を読まれたのか?
心の中で思っていたことを言い当てられたことに恐怖を覚える。すると、イグニティは少し慌てた様子を見せる。
「声に出てましたよ?」
「うそ!?」
「本当です」
驚きを隠せない私に、イグニティは苦笑を浮かべる。そして、イグニティは私に1歩近寄る。
「私、こう見えてこの学院で教鞭を取っているんです。だからこそ、分かるんです。平民と貴族との差を」
胸の当たりをギュッと握るイグニティ。眉間に皺を寄せ、私たち平民の辛さを代弁するかのように、感情に任せた声を上げる。
「だから私は魔石を呑み、その差を埋めることを考えたのです。強い魔力を含有する魔石を呑めば、貴族との差を埋められるはずなんです」
「……、コータくんも呑んだのかな?」
「コータ……、あぁ、彼ですか」
どうやらコータくんは教師たちの間でも、かなり認知度が高いらしい。私より後に学院に来たのに……。
「彼も貴族ではないですからね。恐らく、呑んでいるでしょう」
表情一つ変えずに言い放つイグニティ。信じても……いいよね?
「じゃあ、私も呑みます。それでみんなに近付けるなら。平民だってやれば出来るんだって、教えてあげます」
怖さはある。だって、石を呑むんだから。でも、それだけで強くなれるのなら。コータくんだってやってるかもしれないし……。いいよね?
石を強く握り、目を強く閉じる。そして、そのまま勢いに任せて魔石を口に放り込む。
噛むことなど不可能。仮に噛もうとするならば、歯の方が折れるだろう。だが、1発で飲み込む勇気はなく、数回舌の上で転がす。そして、覚悟を決める。
ごくっ。食道に感じたことのない違和感を覚える。だが、それも一瞬。直ぐに違和感は消える。
「呑まれましたか?」
「は、はい」
強くなった、という実感が湧かない。というか、変化があるとは思えない。
「直ぐに効きますよ。おっと、私やらなければならないことがあるので」
イグニティは何かを思い出した様子で、私の前から立ち去る。
「私も戻らないと」
トイレに行くと言って抜けてきたことを思い出し、駆け足気味に部屋を出た。
* * * *
モモリッタが部屋を出て、グラウンドへと戻るため廊下を駆けている。モモリッタが立ち去ってから数秒後、廊下の壁から人の姿が現れる。
それはつい先程、モモリッタと会話を交わしていたイグニティ。
「ここまで上手くいくとは、相当なバカだな」
口角を釣りあげ不敵に微笑むと、イグニティもグラウンドの方へと歩いていく。
寮を出ると、グラウンドへ向かうのではなく寮の裏側へと回る。そこには、一人の男が立っていた。
カイゼルひげを生やしたこの学院の教師であるインタルだ。
「どうだった?」
「オレサマに出来ないことがあると思うか?」
「それは良かった。ならこれで全員が呑んだ、ということか?」
「そーゆーことだ。まぁ、良くも悪くも先生だな、アンタは」
人間とは思えない、先のとがったギザギザの歯を覗かせながらイグニティは言う。それに対し、インタルは鼻で笑う。
「当たり前だ。私はお前と違って人間の教員免許を取ったのだから」
そう言うとインタルは、イグニティに背を向けた。
「さぁ、ここからが始まりですよ。我らが魔王様の復活を祝して、人族を落とします」
「当たり前だろ」
グラウンドの方へと歩き出したインタルの背中に、イグニティは聞くだけで心地が悪くなるような、ドスの効いた声で返事をするのだった。
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