異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

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第2章 国立キャルメット学院の悲劇

圧倒する平民

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 剣術戦闘は優勝候補であったバニラが一回戦で敗退する、という衝撃の幕開けで始まった。
 そして、その後に登場した貴族お墨付きの剣士は、一回戦こそ、順当に勝ち上がったが、二回戦に当たったパイロスに完敗を喫した。

「まさか、ここまで力を持った奴がいるとは」

 表情に悔しさを滲ませながら、バニラは拳を強く握る。

「でも、なんか臭うんだよな」

「臭いなんてしなかったぞ」

 真剣な瞳で舞台から降りるパイロスを見るガースに、バニラは首を傾げた。

「バニラ」

「な、なんですか?」

 リゼッタに名を呼ばれ、バニラは背筋を正す。

「この場合の臭いは、物理的なものじゃなくて、怪しい感じがするってことよ」

「あ、あぁ!」

 自分の思い違いが恥ずかしかったのか、バニラは顔を赤らめ俯く。

「さぁ、続いては――」

 司会のヘンリーが続きのアナウンスをし、名を呼ばれた者達が舞台にあがった。






 パイロス以外は、順当の勝ち上がりを見せ、決勝にはバニラに並び優勝候補とされていたD組のアーザスが残った。
 貴族主義がこの国よりも根付いている、分裂した人間の国ウルーシより留学に来ているアーザス。
 ウルーシではかなりの位らしく、殺人すらも揉み消すほどの権力があるとかないとか。

「これが決勝戦!! 遂には負けることがなく、優勝候補を次々と撃破してきた平民の星、パイロス!!
 対するは、圧倒的な貴族主義者であるウルーシからの留学生アーザス! 一体どちらが勝つのでしょうか!?」

 ヘンリーの興奮に満ちた声。それに応えるように、見守る生徒からは声が上がる。
 その歓声の中、パイロスとアーザスは登場する。

「平民ごときに負けるとは……。この国の貴族はたるみすぎだ」

 金色の髪をなびかせ、アーザスは周囲で決勝戦を見届けようとする学院生に侮蔑的な視線をぶつける。

「本気でかかってこいよ」

 そんなアーザスにパイロスは、挑発的に言い放つ。それがアーザスの神経を逆撫でしたらしい。アーザスは青筋を立て、パイロスを睨む。パイロスはそれすらも何とも思っていない様子だ。

「はじめ!」

 その直後、審判員の声が飛ぶ。声と同時にアーザスは地を蹴り、パイロスに向かう。パイロスはゆっくりと抜剣して構える。

 キンッ!!

 激しい金属音が轟き、アーザスとパイロスの剣が交錯する。

「貴族の力を見せてやる」

 アーザスは口角を釣り上げて言い放つ。

「是非、貴族様のお力とやらを見せてください」

 不敵に笑い、パイロスを剣を振り上げ交錯状態を解除する。

「ほざけっ!」

 叫び、アーザスはレイピアを構えるかの如く剣を構える。

「万死一閃」

 怒号にも似た声を上げ、アーザスは剣を高速で突き出す。

「速い……」

 外から見ていたバニラが思わず零した。熟練者であっても目で捉えるのがやっと。そんな技を相手に、平民であるパイロスは左側へ体を翻すだけで華麗に避け切った。

「甘いな」

 そしてそう言い放つや、パイロスは先程のアーザスと同じ構えをとる。

「確かこうだったよな。――万死一閃」

 技名までを真似し、剣を突き出す。だが、それは模倣と言うにはあまりにも出来すぎていた。キレも、威力も、角度も、タイミングも。どれをとってもアーザスのそれの上をいく。

 勝ちや負け、そういった次元ではなかった。

 剣はアーザスの肩を穿ち、夥しい量の鮮血が飛び散る。
 圧倒的な痛みに表情を曇らせ、実力の違いに項垂れるアーザス。
 貴族、というプライドに賭けて平民を潰すと意気込み挑んだ対抗戦。アーザスにとっては、貴族の力を見せつけるためのモノでしかなかった。だが――それはパイロスによって打ち砕かれてしまった。

「やめっ!」

 流れ出た血の量から、審判員が試合を終わらせた。

「試合終了!! 1年生の優勝者は、かつて1度もなかった平民!! よって、パイロスさんには4日後に行われる、全学年を対象とした剣術対戦の代表として戦って貰うことになります!」

 ヘンリーの声が高々と上がり、対抗戦第1種目の剣術対戦は終了した。




 * * * *

「なかなか上手く行きましたよ、彼」

 カイゼルひげを触りながら、インタルは水晶玉に話しかける。
 一筋の光すら漏れてこない暗闇で、僅かに光を放つ水晶玉に浮かぶは、赤紫色の長髪が特徴的な女性。玉座と呼ぶに相応しい赤色を基調とした椅子に深々と腰を掛け、足を組んでいる。

「その調子よ、イル。そのまま私の手駒を増やして頂戴」

「仰せのままに、魔王クロノス様」

 インタルは目を見開き、大きく返事をする。暗闇に居るにも関わらず、インタルの顔はしっかりとクロノスに見えている。
 言葉を受けたクロノスは、満足気に頷き指を鳴らした。瞬間、水晶玉から放たれる光は消え通信が切れる。そして、同時に暗闇が消え去り、普通の教室が姿を見せる。

「オレサマには何にも見えなかったぜ。流石、魔王様の魔法だ」

「魔王様に、我々は遠く及ばない。完全遮断魔法パーフェクトブロッカーなんて、私には理解が及びませんよ」

「だよな。暗闇なのに顔は見えるとか、意味不明だぜ」

「それについては同感です」

 通信中は見えなかったが、暗闇が晴れると教室内にいたイグニティと会話を交わし、インタルは教室を出る。
 それに続いてイグニティも出る。

「次は魔法対戦マジックデュエルですか。まだまだ暴れてもらいますよ、私たちのコマに」

 口角を釣り上げ、人間ではありえない鋭利な歯を見せながら、インタルは吐き捨てるのだった。
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