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第3章 エルフとの会談
歓迎の儀式
しおりを挟む「とりあえず、少しこちらでお休みください」
家の前で握手を交わすサーニャを視界に収めつつ、ファムソーはそう言った。
「どういうことですか?」
サーニャは眉をひそめ、首をかしげる。
「こちらとしても少し事情が代わり、会談を前倒しにしたため、まだサーニャ王女の宿舎が完全では無いのです」
「完成していない、ということですか?」
困り顔のファムソーに、ルーストが厳しい視線を向ける。しかし、その質問にファムソーは素早くかぶりを振った。
「最後の点検が終わってないので」
申し訳なさそうに頭を下げ、ファムソーはコータたちの前から立ち去った。
「あっ! どうぞ、上がってください!」
羽を展開させ、飛び去って行ったファムソーに呆気を取られたのか。その場で立ち尽くしていたコータたちに、ネーロスタは言う。
どうぞどうぞ、と言わんばかりに手招きをして室内へと案内する。
室内は一言で表すならば、和室と言ったところだった。フローリングが敷いてあるわけではなく、畳が敷いてあったり、部屋と部屋を仕分けるのは襖であったり。
なかなかに日本を思い起こさせてくれた。
「この状況は」
日本を呼び起こさせる状況と、コータの想い人である瑞希にそっくりのサーニャ。この組み合わせは、さすがに忘れようと心がけていた想いを呼び起こす。
「どうかされましたか?」
コータの違和感に気づいたのか。ルーストが素早くそう問う。コータはそれにかぶりを振り、案内された客室に腰を下ろした。
エルフの容姿とは似つかない、ちゃぶ台を囲むようにして座る。
「全然文化が違うのだな」
人の国では見たことの無い床に戸惑いを隠せないサーニャが、小さく呟く。
「人の国はこうではないのですか?」
そこへ急須と湯のみ茶碗を載せたお盆を手にしたネーロスタが訊いた。
「あぁ。まず床が違う」
だが、それ以上にどう説明をしたらいいのか分からないのだろう。サーニャは困惑顔でルーストを見る。
「何が違うか、と言われれば全部とお答えする他ないです。それほどに違います」
だが、流石のルーストも上手い説明が見つからなかったのだろう。違う、ということを前面に出す説明をした。
「へぇー、そこまで違うんですね」
驚きと面白いを兼ね備えたような表情で、ネーロスタはコータの隣に腰を下ろす。
そして湯のみ茶碗に、急須のお茶を注ぐ。
「湯気が出ている」
目を丸くして驚くサーニャとルースト。それに対して、ネーロスタは引きつったような笑みを浮かべる。
「え、えぇ。出てますよ」
「一体どういう原理なのですか?」
食いつくようにルーストが訊く。だが、コータには湯気が出ているだけで驚く理由が分からない。
「どういうって?」
それはネーロスタも同じようだ。
「湯気というのは、刹那の代物。料理などでは、保温魔法が付与された食器を使用しなければ空中にある魔素に溶け、分解されると聞きます」
そこでようやく思い出す。学院で食べ物を食べていた時に、湯気が上がったものを食べたことがない。料理自体は温かくても、まだ湯気は出ていなかった。
「あ、それは違います。このアースレーンは空中にある魔素量が少ないんです」
「どういうことですか?」
ルーストは眉をひそめ、怪訝そうな顔で訊く。
「それはアースレーンの最奥の地。それこそ、ここからでもタイミングが良くないと見ることのできない巨大な神樹が魔素を吸い取ってるからなんです」
エルフの国での常識なのだろう。何でも無いように言うと、ネーロスタはお茶の入った湯のみ茶碗を一人一人の前に置く。
「神樹というのは?」
「神樹"アルヴイヤ"。私たち全てのエルフ親だと言われてる」
「エルフ種にとっては大切なものなのか」
サーニャのその言葉に、ネーロスタは静かに頷く。そして、ズゥーとお茶をすする。
「それで、どうして会談は早まったのだ?」
事情があるとは、聞いた。だが、それがどういったものなのかは聞かされていない。
「エルフ種には種族があるのは知っていますか?」
「エルフの中にまだ何かあるのか?」
驚きを隠せないサーニャを横に、コータは音を立てないようにお茶を飲む。
未だに湯気が上がっているそれは、烏龍茶のような味わいだと感じた。
「はい。私たちのエルフ族のほかにハイエルフ族、それからダークエルフ族です」
「3種族もあるのか」
頷きながら言葉を零すサーニャに、ネーロスタは薄い笑みを浮かべた。そして続ける。
「問題なのはハイエルフ族なのです。ハイエルフ族の族長がエルフの威厳をなどと、仰っていて」
「俺たち人間との会談ですら嫌った、ということですか?」
困り顔を浮かべたネーロスタに、コータが言い切った。ネーロスタはコータの言葉に驚いたのか、口をぱくぱくさせている。
「コータ、分かるのか?」
「少しは」
先程の会話から各種族に族長という代表がいるのは分かった。恐らく、その代表三人の考えが違う。
「ダークエルフ族に関してはどうなんですか?」
「ダークエルフの族長は傍観者と言ったところですね」
「そこまでだ、ネーロスタ」
そこへ新たな声が入ってきた。街を案内してくれたエルフ族の族長ファムソーだ。室内に入って来るや、ネーロスタの頭の上に手を置く。
「娘が要らぬことを申しました」
「い、いえ――」
もっと話は聞きたい。だが、ファムソーがこのことを話したく無いのは手に取るように分かった。
今、まだ会談が始まってもいない状況で関係が悪化するのだけは避けたい。そう考えたサーニャは、そう答える。
すると、ファムソーは嬉しそうな笑顔を浮かべた。そして――
「サーニャ王女一行を歓迎するための儀式の準備が整いましたので、こちらへ来てください」
ファムソーはそう言った。
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