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第3章 エルフとの会談

VSアバイゾ 5

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 言葉と同時に、コータの体は煌めく光に包まれた。
 ほのかに温かさを覚える光は、周囲をも巻き込みすぐ隣で飛んでいたピクシャすらも包み込んだ。

「我、汝の契りを受け入れ給わん」

 ピクシャのそんな声と同時に、コータの体に圧倒的な力が流れ込んだ。
 全てを蹂躙し得る、破壊衝動のようなものが全身を蝕むようだ。

「ウゥ……」

 衝動に飲み込まれるように、コータの口からはうめき声が洩れる。

 ――抑えなさい。今のあなたにはそれができるはずよ。

 コータの精神に呼びかける優しい声音。
 唸り荒ぶる衝動を、ピクシャの優しい声音がゆっくりと和らげていく。
 溢れ出す力を抑え込むように、コータは全身に巡る力を強くイメージする。

 血が滾る。筋肉が増長していく。
 コータの周囲を猛る風が吹き荒れ、コータの姿を掻き消す。そしてそれらが、刹那で霧散するや現れたコータの姿は違っていた。

 混じり気のない黒い髪には、ほのかに光を放つ緑色の房が前髪に混ざっている。
 その房はまるで、光が消えると共に姿を消したコータの隣を飛んでいたピクシャのそれと酷似している。
 瞳も、コータの持つ黒色からはかけ離れた蒼っぽい緑、翡翠色を帯びていた。

「な、何だッ!?」

 鮮烈な力の輝きに、アバイゾは思わず声を洩らした。立っていることすらままならない力の放出に、周囲の魔物は怯えた雄叫びを上げている。

『この感覚は久しぶりかしら?』
「俺に記憶はないけど、この感覚は何となく覚えてる」

 融合したピクシャの声が、体の中から染み渡るように伝わってくる。コータは微かな笑みを浮かべ、小さく答える。

『そっか。覚えてくれてるんだね』

 ピクシャの嬉しそうな声が響く。
 学院でオーガと戦った際に目覚めた力の感覚を思い出しながら、コータは手のひらを眼前に突き出す。
 瞬間、周囲の空気が一変した。圧倒的な力の放出に戦いたかのか、雄叫びを上げていた魔物たちの声が静まり返る。

「万物、これを以て移動を開始せよ
 疾風到来イクロプス

 瞬間、高速で展開された魔法陣からは台風でも竜巻でもない、この世全てを吹き飛ばしてしまうほどの暴風が出現する。
 現れた暴風は意志を持つようにうなりを上げ、コータの眼前に立ちすくむゴーレムに向かう。

「無駄な事だ! ゴーレムには魔力防御が施して――」

 ゴーレムに向かう荒れ狂う暴風を見て高笑いを上げたのも束の間。アバイゾが言葉を最後まで紡ぐ時間もなく、ゴーレムの体を形成する瓦礫は見るも無残に消し飛んだ。

「――ッ!?」

 声を上げることもなく、木っ端微塵となったゴーレムを目の当たりにし、アバイゾは目を丸くして喘ぎ声のようなものを零す。

「グ、グォォ」

 眼前でゴーレムの体が吹き飛ぶのを見た魔物たちが、驚き戦きながらも咆哮を上げて大地を蹴った。
 恐怖に抗いながらも、口を開けて炎を放つレッドウルフ。コータは、それを右手を払うだけでかき消して見せた。
 焦りを見せたレッドウルフは、今度は三体が同時に炎を放った。

「暴風圧縮”ルドラ”」

 指を鳴らしてそう言うや、先程と同じく暴風が出現する。それらは刹那に一塊となり、1つの場所で荒れ狂う。
 そこへ炎が触れる。音すら立たず、最初から無かったかのように炎は消え去った。

「オォッ」

 炎をあげることの無意味さを思い知り、その場で動けなくなったレッドウルフを押し退け、コボルドが殴りかかる。

『魔風・豪風”アオス・シ”を使うんです』

 どのコボルドの動きもゆるやかに見える。体を前後左右に動かせば避けられるだろう。
 そう思った時だ。体内からピクシャの声がした。コータは、ピクシャの言葉を繰り返す。

「魔風・豪風”アオス・シ”」

 瞬間、魔法陣がコータの体にまとわりつくように展開された。

「な、なんだ!?」

 想像すらしていない事態に驚きの声を洩らすコータ。それに対して、ピクシャが落ち着いた声で呼びかける。

『大丈夫です。焦る様なことはありません』
「で、でも……」

 そう言っている間にも体を纏う魔法陣の数は増えていく。魔法陣がコータの全身を覆うや、それらは眩い閃光を放った。
 魔法陣からは柔らかな風が溢れ出し、コータの体を纏う。

「これは……」
『補助魔法のひとつで、対象の移動速度をアップさせるわ』

 やたらと軽くなった体は、まるで自分のものではないようだ。たった一歩を動いたつもりでも、50メートルほど動いている。
 コボルドの拳など、止まっているのも同然。
 軽く動き、コータは月の宝刀でコボルドを斬る。

 血飛沫が飛び散る。襲ってきていたコボルドたちが各部位を欠損させ、倒れ込んでいる。

「こんなことがァァッ!」

 怒りを露わにしたアバイゾが、魔導銃のトリガーを引く。
 螺旋状に回転しながらコータに向かってくる弾の軌道がハッキリと見える。コータは弾に向かって走り、寸前で左に動いて弾を避ける。そして月の宝刀を振るう。

「チッ」

 アバイゾは体を仰け反らせ、月の宝刀の切っ先から逃れる。
 体勢を崩した隙をつき、攻撃を仕掛けるコータ。だが、アバイゾは背にある羽を動かしその体勢のまま後方へと飛ぶ。

「くそ」

 決定打を打ち込めない悔しさに、そう吐き捨てるコータにピクシャが言う。

『今こそ使うのです。古代魔法エンシェントマジックである精霊統合ユニアルスピリッツの真骨頂を』

 声を聴きながら、コータは飛んでくる炎を薙ぎ払う。

「そんなのあるのか?」

 そう聞き返す。そこへゴーレムの拳が降り掛かる。コータはそれを人差し指で受け止め、ゴーレムの腹部へと回し蹴りを決める。コータの足が触れた部分の瓦礫が吹き飛び、ゴーレムはその場に崩れ落ちる。

『ええ。あなたはそれを知っているわ。シナツヒコ、という名をね』

 その名が体内を巡った瞬間、コータの脳内にオーガとの戦闘が蘇り、ある言葉が浮かんだ。
 足を回してコボルドの腕を吹き飛ばし、掌打を繰り出しゴーレムの体を吹き飛ばす。
 魔物相手に、そのような立ち振る舞いを繰り返してからコータは瞳を伏せた。
 両手を魔物が広がる前へと突き出して、言葉を紡ぐ。

「神聖なる息吹 母なる大地に芽吹くもの 混沌の世に終わりを告げる 荒れ狂う風となれ 蒼凛の鎌鼬"シナツヒコ"」
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