1 / 27
事件前の王国
しおりを挟む
──むかしむかしある所に、大層美しい少女がいたそうだ。透き通る大空のような蒼穹の髪を持ち、同じく蒼穹の双眸を持っていた少女は、ある日山に出かけたそうだ。
両親は病弱であった少女を心配しながらも、帰りを待ったと言う。だが、その夜。どれほど待っても少女は、戻って来なかった。
心配になった少女の両親は、暗闇の山へと少女を探しに出かけた。
少女は、全身をウロコで覆われたとてもとても大きなドラゴンに包まれて眠っていた。
両親は何度も何度も声をかけた。しかし、少女は一向に返事をしない。
そのまま少女は目を覚ますことはなく、両親は亡くなり、少女の存在は伝説になったとさ──
「馬鹿げてるよね、ドラゴンなんて何千年も前に滅されたって言うのに」
王立魔術学院"イグノーン"一年生の一限目、歴史の授業中に白銀の髪を持つ華奢な女子生徒がポツリとこぼした。
現国王ロナウゼルセが王位についてはや五年。誰もがダメ王子と言っていたのは過去の話となっていた。
貿易やその他国政など、全てにおいて全国王であるロナウゼルセの父を凌駕していた。
そのロナウゼルセが半ば強引に案を通し、作られたのが王立魔術学院なのであった。
前国王は私立の魔術学院は認めていたが、国立は頑なに認めようとしなかった。その理由は未だに知られていない。
「マジだよな。ってかよ、ドラゴンってホントにいたのか?」
声は潜めてはいる。だが、その声からも興奮は見て取れた。
「ロッキー、それは言っちゃダメって言われたじゃん」
ロッキーと呼ばれたイヌ顔の少年は、面白くなさそうに元よりこの話を振った銀髪の女子を見る。
「てかよ、マリア。俺らもう18だぜ? なんでそんないい歳こえて童話なんて勉強してんだよ」
ロッキーは焦げ茶色の毛を掻きながら、ポツリと零す。王国では生まれた年を1歳と考える。そのため、日本で言う所の17歳にあたる年齢で浦島太郎のお話を勉強しているようなものなのだ。
ロッキーがげんなりする気持ちも分からなくはない。
「でも、王国が決めた必修科目なんだから仕方ないじゃない」
柔く吹いた風にきめ細かい銀髪を揺らしながら、マリアは答えた。
だがやはり、その声に授業を楽しんでいるというものは見られない。
「同じ童話勉強するなら、《禁忌の象徴》のがいいって」
「ほんとにね。存在することすら悪とされた幻の魔術師"イグノアール"。ほんとに居たのかしら」
先ほどまでの死んだ魚のような目とは違い、キラキラと輝く瞳を見せる。
「居たんだったら会いたかったよ。世界の理に触れる魔法を使えた人だったみたいだし」
白の羽根が持ち手に付いた、芯のない鉛筆をコツコツと机に打ち付けながら、ロッキーは夢見心地で語る。
「そこ! 私語は慎んで!」
そこへ童話授業の担当教員である緑髪の女性が声を荒らげた。小柄で幼さの残る顔。しかしながら、その顔立ちに似合わないスタイルの良さはギャップがあり、なかなか魅力的だと思う。
胸元のざっくり空いたチャイナドレスのような衣装に身を包み、ホワイトボードのような白い板の上に人差し指を走らせる。
すると人差し指が通ったところが瞬く間に、光を持ち文字となる。
「えー、至って平凡な家に生まれた蒼穹の髪に瞳を持つ少女"ラファーニェ"は──」
童話授業の担当教員は、第一統魔術"日常魔法"の一種である光文字を用いて《蒼穹の眠り姫》についての説明を始めた。
ちなみに芯のない羽根ペンも芯の部分に光を灯す、光文字の別の使用法である。
「──と、まぁ。幼少期を貧しい暮らしで乗り切ったラファーニェは」
そこまで言うと、ちょうど終業のチャイムが鳴り響く。第一統魔術の一種、拡張化により日本のどんなテーマパークよりも広い王立魔術学院の敷地全体にチャイムが同時に轟く。
「じゃあ今日はここまでにしておきましょう」
緑髪をバサッと靡かせ、ロッキーたち生徒に背を向けてスタスタと歩き始める。
背筋がピンっと伸びており、いかにも堅苦しそうなイメージを与える。
「なんか魔術演算とか教えそうな見た目なのにな」
その姿を見て、金髪碧眼のヒョロい男が薄い笑みで言う。
「イグターったら」
その男をイグターと呼び、どこか楽しげなマリアは広げていた教科書をまとめる。
そして机上で、トントンとそれらを整えてから紺色のリュックサックの中に詰め込む。
「もう終わりなのか?」
「いいえ。後は召喚魔法の実技演習が残っているわ」
召喚魔法の実技演習はかなりしんどいものなのだろう。マリアの顔に嫌気というものが一気に迸る。
「俺は第二統魔術の中の火焔術の授業だわ」
「あー、あの先生のね」
マリアは先生の顔を思い浮かべ、苦笑を見せる。
それほどまでにクセが強い先生なのだろう。
「で、イグター。お前は?」
ロッキーは何故かドヤ顔を浮かべるイグターに質問をする。
「終わりだ」
「「はぁ!?」」
ロッキーとマリアは声を揃えて、悲鳴にも近いそれを上げた。
「ちょっと待てよ、おい。まだ一限終わったばっかりだぞ!?」
「今日はこれだけ」
憎たらしい程の満面の笑み。
「まぁ、せいぜい頑張ってねー」
コロコロと笑い腕をはためかせて手を振る。
「何なのよ。もうっ」
マリアは頬を膨らませ、ため息をつく。
「ほんとな。まぁ、俺は明後日全休だからいいけど」
「うっそ!? ずるーい!!」
目を丸くして驚く。その顔は普段の可愛らしいマリアの顔とはかけ離れており、ロッキーは思わず吹き出してしまう。
「何よっ!」
再度頬を膨らませ、怒ってるよアピールをするマリア。
「あはは、気にすんなって」
笑顔で交わし、ロッキーは黒を主としたショルダーバッグを右肩にかける。
「んまぁ、行くわ」
そして軽く手を振る。
「あ、待ってよっ!」
いつの間にか教室に残っているのはロッキーとマリアだけになっていた。他のみんなは、次の授業に向かったのだろう。
二人となり閑散とした教室に、マリアの透き通る声が響いた。そして急いで、紺色のリュックサックを背負いマリアは教室を出た。
──だがこの後、誰も予想できない事が起こったのだ。王国全土に震撼するあのとんでもない事件が──
両親は病弱であった少女を心配しながらも、帰りを待ったと言う。だが、その夜。どれほど待っても少女は、戻って来なかった。
心配になった少女の両親は、暗闇の山へと少女を探しに出かけた。
少女は、全身をウロコで覆われたとてもとても大きなドラゴンに包まれて眠っていた。
両親は何度も何度も声をかけた。しかし、少女は一向に返事をしない。
そのまま少女は目を覚ますことはなく、両親は亡くなり、少女の存在は伝説になったとさ──
「馬鹿げてるよね、ドラゴンなんて何千年も前に滅されたって言うのに」
王立魔術学院"イグノーン"一年生の一限目、歴史の授業中に白銀の髪を持つ華奢な女子生徒がポツリとこぼした。
現国王ロナウゼルセが王位についてはや五年。誰もがダメ王子と言っていたのは過去の話となっていた。
貿易やその他国政など、全てにおいて全国王であるロナウゼルセの父を凌駕していた。
そのロナウゼルセが半ば強引に案を通し、作られたのが王立魔術学院なのであった。
前国王は私立の魔術学院は認めていたが、国立は頑なに認めようとしなかった。その理由は未だに知られていない。
「マジだよな。ってかよ、ドラゴンってホントにいたのか?」
声は潜めてはいる。だが、その声からも興奮は見て取れた。
「ロッキー、それは言っちゃダメって言われたじゃん」
ロッキーと呼ばれたイヌ顔の少年は、面白くなさそうに元よりこの話を振った銀髪の女子を見る。
「てかよ、マリア。俺らもう18だぜ? なんでそんないい歳こえて童話なんて勉強してんだよ」
ロッキーは焦げ茶色の毛を掻きながら、ポツリと零す。王国では生まれた年を1歳と考える。そのため、日本で言う所の17歳にあたる年齢で浦島太郎のお話を勉強しているようなものなのだ。
ロッキーがげんなりする気持ちも分からなくはない。
「でも、王国が決めた必修科目なんだから仕方ないじゃない」
柔く吹いた風にきめ細かい銀髪を揺らしながら、マリアは答えた。
だがやはり、その声に授業を楽しんでいるというものは見られない。
「同じ童話勉強するなら、《禁忌の象徴》のがいいって」
「ほんとにね。存在することすら悪とされた幻の魔術師"イグノアール"。ほんとに居たのかしら」
先ほどまでの死んだ魚のような目とは違い、キラキラと輝く瞳を見せる。
「居たんだったら会いたかったよ。世界の理に触れる魔法を使えた人だったみたいだし」
白の羽根が持ち手に付いた、芯のない鉛筆をコツコツと机に打ち付けながら、ロッキーは夢見心地で語る。
「そこ! 私語は慎んで!」
そこへ童話授業の担当教員である緑髪の女性が声を荒らげた。小柄で幼さの残る顔。しかしながら、その顔立ちに似合わないスタイルの良さはギャップがあり、なかなか魅力的だと思う。
胸元のざっくり空いたチャイナドレスのような衣装に身を包み、ホワイトボードのような白い板の上に人差し指を走らせる。
すると人差し指が通ったところが瞬く間に、光を持ち文字となる。
「えー、至って平凡な家に生まれた蒼穹の髪に瞳を持つ少女"ラファーニェ"は──」
童話授業の担当教員は、第一統魔術"日常魔法"の一種である光文字を用いて《蒼穹の眠り姫》についての説明を始めた。
ちなみに芯のない羽根ペンも芯の部分に光を灯す、光文字の別の使用法である。
「──と、まぁ。幼少期を貧しい暮らしで乗り切ったラファーニェは」
そこまで言うと、ちょうど終業のチャイムが鳴り響く。第一統魔術の一種、拡張化により日本のどんなテーマパークよりも広い王立魔術学院の敷地全体にチャイムが同時に轟く。
「じゃあ今日はここまでにしておきましょう」
緑髪をバサッと靡かせ、ロッキーたち生徒に背を向けてスタスタと歩き始める。
背筋がピンっと伸びており、いかにも堅苦しそうなイメージを与える。
「なんか魔術演算とか教えそうな見た目なのにな」
その姿を見て、金髪碧眼のヒョロい男が薄い笑みで言う。
「イグターったら」
その男をイグターと呼び、どこか楽しげなマリアは広げていた教科書をまとめる。
そして机上で、トントンとそれらを整えてから紺色のリュックサックの中に詰め込む。
「もう終わりなのか?」
「いいえ。後は召喚魔法の実技演習が残っているわ」
召喚魔法の実技演習はかなりしんどいものなのだろう。マリアの顔に嫌気というものが一気に迸る。
「俺は第二統魔術の中の火焔術の授業だわ」
「あー、あの先生のね」
マリアは先生の顔を思い浮かべ、苦笑を見せる。
それほどまでにクセが強い先生なのだろう。
「で、イグター。お前は?」
ロッキーは何故かドヤ顔を浮かべるイグターに質問をする。
「終わりだ」
「「はぁ!?」」
ロッキーとマリアは声を揃えて、悲鳴にも近いそれを上げた。
「ちょっと待てよ、おい。まだ一限終わったばっかりだぞ!?」
「今日はこれだけ」
憎たらしい程の満面の笑み。
「まぁ、せいぜい頑張ってねー」
コロコロと笑い腕をはためかせて手を振る。
「何なのよ。もうっ」
マリアは頬を膨らませ、ため息をつく。
「ほんとな。まぁ、俺は明後日全休だからいいけど」
「うっそ!? ずるーい!!」
目を丸くして驚く。その顔は普段の可愛らしいマリアの顔とはかけ離れており、ロッキーは思わず吹き出してしまう。
「何よっ!」
再度頬を膨らませ、怒ってるよアピールをするマリア。
「あはは、気にすんなって」
笑顔で交わし、ロッキーは黒を主としたショルダーバッグを右肩にかける。
「んまぁ、行くわ」
そして軽く手を振る。
「あ、待ってよっ!」
いつの間にか教室に残っているのはロッキーとマリアだけになっていた。他のみんなは、次の授業に向かったのだろう。
二人となり閑散とした教室に、マリアの透き通る声が響いた。そして急いで、紺色のリュックサックを背負いマリアは教室を出た。
──だがこの後、誰も予想できない事が起こったのだ。王国全土に震撼するあのとんでもない事件が──
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる