転生したら異世界の神話《蒼穹の眠り姫》に巻き込まれてしまった

リョウ

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1日の終わり

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 どんどんどん、と隣の101号室という札がかかった扉を叩く。
「おい、いるか?」
 緊迫した声で訊く。すると、ゆっくりと扉が開き気だるそうな目をしたぽっちゃり男子が姿を現す。
「なに?」
 特長がない、至って平凡な声でその男子は言う。
「部屋が荒らされたりとかってのは……」
「あるはずないじゃん」 
 わかりやすく溜息をつき、ぽっちゃり男子は扉をしめた。

 その隣、さらに隣と聞き込みを続ける返事は同じ。110号室まで聞いた俺は、自分の部屋へと踵を返す。
 これ以上は無駄だ。俺らの大広間から一番近い部屋を襲って、それから隣の部屋を襲わず人に見つかるリスクを背負ってこの廊下を走るとは考えにくい。
 たぶん、フフの方も同じ結果だろう。
 じゃあ、一体何が目的で俺たちの部屋を襲った?
 考えても答えは出ない。
 形容しがたいモヤモヤ感を心に抱きながらマリアの待つ100号室に戻ってくる。
「どう……だった?」
 下着類はきっちりと片付けたマリアが俺の方をチラリと見て訊く。俺はそれに小さくかぶりを振って答える。
 タイミングを計ったかのように、大広間へと繋がる扉が開き、メイド服姿のフフが戻ってくる。
「どうでしたか?」
 答えは分かっている。ここ以外襲われてない、というものだろう。
「どこも何ともなかったです」
「やっぱりか」 
「ということは、カーミヤくんの方もですか?」
 頷き答える。フフは困惑顔を浮かべ、部屋と俺たちを見る。そして、右腕をポンッと左手人差し指で叩く。
「23時11分。カーミヤくんはお風呂に入ってきても良いですよ」
「い、今ですか?」
 こんな状況でのんびり風呂なんて入ってられるかよ。
「今だからです。こんな時こそ慌てずいつもの生活を送るのです」 
 ここにいること自体が普通じゃねぇーって。そう思いながらも、俺は部屋に入りベッドの上に投げ出されたスエットを手に取り、わかりました、と答える。


***

 大浴場と言うべきお風呂から上がり、大広間に入るとそこには、顔色を悪くしたマリアがいた。
 お風呂の中でぐるぐると頭を回転させ、誰が、何故、を考えたが答えはでず結局分からず仕舞いだ。
「どした?」
 ごちゃごちゃ絡まった感情が今にも溢れ出しそうになるのをグッと堪え、俺はマリアに言う。
「私……あんな部屋で寝れないよ」
 涙に濡れた声でマリアが零した。そうだ。今まで全く考えてなかったが、俺たちの部屋はあそこなんだ。寝るとなれば、あそこなんだ。
 襲撃された寮の襲撃された部屋で寝る。普通の神経じゃなかなか出来ないことだろう。
「そう……だよな」
 力なく零す。マリアはただ俯いたままでいる。
「それは大丈夫です。今部屋の準備が完了しました。今日からしばらくは今までは物置部屋として使われていた222号室を使って頂きますので」
 額には薄らと汗が見える。恐らくは必死に準備してくれたのだろう。
「ありがとうございます」
「いえ、寮母ですから」
 優しく微笑んだフフは、こちらですと案内を始める。
 俺とマリアはその後に続く。淡々と歩くフフの後に不確かな足取りで続く。
 自分たちで思っている以上に、部屋が荒らされるというのはダメージが大きかった。
「大丈夫ですか?」
 そんな俺たちを見かねてか、フフはそう訊いてくる。
「大丈夫ですよ」
 そう答えるも、俺の声は震えている。全然大丈夫じゃねぇ……。くっそ……、ダセェな……。

「ここです」
 それからフフは俺たちに話しかけること無く222号室まで案内した。
 内装は100号室と瓜二つ。
 だから今回は説明も要らない。
「この事件、しばらくの間他言しないで下さい」
 フフは最後にそう告げ、頭を下げた。そして俺たちの前から姿を消す。要するに箝口令を敷かれたのだ。
 臨時的に俺たちの部屋となった222号室に入り、俺は左側のベッドに転がる。
 ゆっくりと、怯えたような足取りでマリアも部屋に入ってくる。そしてそっと、右側のベッドに俺の方を見て腰をかける。まだ消灯時間までは少しあるので、電気はついている。
「ねぇ……」
「なんだ?」
 呼びかけに応じるも、マリアはそこで言葉を止める。部屋には一瞬にして静寂が訪れる。そして、緊迫した声が放たれる。
「……どうして私たちの部屋だったの?」
「分かんねぇよ」 
 分かるはずがねぇ。分かるなら知りたい。
「怖いか?」
 しかし、マリアの表情があまりに酷く揺れていたので俺は思わず口からそんな言葉を洩らした。
「……うん」
「そうか」
 震える声が俺の心を掻き立てる。救いたい。そう思ってしまう。でも、俺にそんな力があるのか……?
 魔法もろくに使えない。何かの拍子に戦闘になったり、魔法をかけられたり……そんなことになればすべては水の泡だ。
「なぁ」
 今度は俺から声をかける。
「……」
 だが返事は返ってこない。だからと言って言葉をとめる気はなく、俺は続ける。
「何か盗られてるものあったか?」
 俺の問いにマリアは小さくかぶりを振り、盗られてないという意を示す。
「そうか……」
 じゃあ本当に……どういう目的で俺たちの部屋を襲ったんだ?
「誰かの恨みをかったなんてことあるか?」
「……ないと思う」
 細々とか弱い声でマリアは答える。その時、寮全体にアナウンスが鳴る。声の主はフフだろう。
「消灯時間5分前です」
 どこから鳴ったのかは分からない。部屋のどこにもスピーカーなど見当たらないのだ。だから多分、魔法なのだろう。

「なんで俺たちの部屋が襲われたんだと思う?」
 アナウンスがあってからしばらくの沈黙を経て、俺は訊いた。もう消灯されるまで3分も残ってないだろう。だが俺は、ここでベッドに転がった体を起こし、ベッドに腰掛けるマリアと向き合う。
「なぁ、アンタの考えを教えてくれ……」
「……分からない……」
「俺のせいって言わないのか?」
 考えた結果、俺が異世界から来たとこが原因なのか、と思った。俺のせいで部屋が襲われて、マリアが怖い思いをしたのではないかと。仮にマリアがその考えに至ってたとして、俺を責めないのは何故なのか。
「カーミヤくんのせい、なんて言わない。それに異世界から来たってこと知ってる人の方が少ないと思うよ?」
 フフのそれよりも優しい声で、マリアは俺に告げた。瞬間、俺の心に暖かい何かが染み込んできた。気を抜くと危うく涙を零してしまいそうになるほどで、それを誤魔化すために俺は大きく息を吐き捨てた。

 その時、電気が消えた。向き合ってた互いの顔すら見えなくなるほど真っ暗になる。互いの顔が見えなくなる。
「ありがとな」
 だから俺はそう言った。顔が見えないからこそ、言えた。
 面と向かってなんて恥ずかしすぎる……。
「今……なんて?」
 マリアは少し驚いたような声を洩らした。俺はそれを無視して、呟く。
「でも、それなら……」
 それから再度体をベッドに預ける。
「どうしたの?」
「ちょっと……事件について考えてただけだ。気にすんな」
 その後、マリアは俺に対して何か言ってたような気がした。でも俺はそれを耳に入れること無く、頭を働かせた。
 一体、どうして、なんで……。何も出来なかった自分へと憤りに、驚く。俺は何かについて調べたり、考えたりすることが嫌いだ。特に……、小学校や中学校の夏休み課題、自由研究なんてものは大がつくのほど嫌いだった。
 それが今は犯人を見つけてやるって気持ちがある。ほんと、俺らしくない。

 そんなことを考えているうちに、隣からすぅーすぅー、と心地よさそうな寝息が聞こえてきた。
「寝たんだな……」
 チラッと顔をマリアが眠る方へと向ける。暗順応した視界が、蒼色の瞳はきっちりと閉じられ、上唇と下唇の僅かな隙間から吐息がこぼれる。
「俺も寝るか」
 天井に視線を向けてから、目を閉じる。夕寝をしてしまってるから寝れないか、と不安になったが要らぬ心配だった。
 目を閉じた瞬間、急激な眠気が襲ってきたのだ。
 襲ってきた眠気に従う。

 ──こうして俺は、転生初日を終えた。一日目から、いきなり与えられた部屋を荒らされるという事件に巻き込まれたが、どうにか乗り越えられた。
 明日からは授業にも参加するようだ。

 そこで俺は、眠りに落ちた。
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