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君恋2
2-5
しおりを挟む休憩が終わり、棚卸を再開して二時間が経過した。
「みんなお疲れさん。道具だけ片付けて、あとは明日やるんで今日はこれで上がって下さい」
スタッフ三人と榊さん、全員に集まってもらって解散を告げた。
無事に棚卸が終わったことで、みんなの気が抜けているのが分かる。
予定通り早く終われた事に、俺自身安堵する。
「優ちゃーん。どこかで飲んで行かないっスか?」
事務室に行く途中、私服姿の小笠原が俺を呼び止めた。
「まだ四時半だぞ?」
「移動時間も考えればそんな気にならないっスよ。どっスか?」
「あー……悪いけど、俺はまだやる事があるからな」
誘ってくれた事は嬉しい。
でも店長としての仕事がまだ残っている。
「そっか。それじゃあ仕方ないっスね。また今度宜しくっス」
「おー」
小笠原は少し残念そうに肩を落とすも、直ぐに笑顔を浮かべて帰って行った。
(アイツはいつもサッパリしてるよなー。こういう時は助かるけど)
感情表現が素直なのだろう。
(みんなも帰った事だし、データに起こすか)
各々がスキャンしてくれた棚卸のデータを、俺は事務室で一人パソコンに向かってまとめ始めた。
――そして一時間後。
「さすがに疲れた……」
俺は音を上げた。
一番疲れたのは目だ。
目から脳が一番疲労困憊している。
(少し休憩するか)
眉間辺りを揉み解しながら電気ポットの前まで来てコーヒーを淹れた。
そのまま中央のテーブルまで運び、椅子に腰かけてゆっくりコーヒーを啜る。
「――はぁ……美味い。けど……」
(あんまりこうしてると寝ちまうだろうな……)
コンコン……――
ぐったりと背凭れに体を預けながらぼんやりしていると、扉がノックされた。
(あれ。俺一人のはず……だよな?)
そう思っていると、次いで掛かる「入るぞ」という声にビクッと背筋が伸びた。
躊躇うことなく扉が開く。
「! ――榊さん……。帰ったはずじゃ……?」
驚き過ぎてテンポが遅れる。
入って来たのは仕事姿のままの榊さんだった。
「一度俺の店に戻って、その足でまたこっちに来たんだ」
彼の言葉に首を傾げる。
「忘れ物ですか? 言ってくれれば帰りにでも届けたのに……」
「いや、少し用事があってな」
そう言うと、榊さんがコンビニ袋を俺の目の前にドサリと置いた。
「……なんです? コレ……」
「腹、減ってると思ってな。差し入れだ」
唐突過ぎて一瞬体が固まった。
(榊さんが……俺に? え、あっていいのか?)
疑問に思うも、現実に起きているのだから否定のしようがない。
「あ……ありがとうございます。丁度休憩していたところだったんですよ。でも、本当に俺が貰っちゃっていいんですか……?」
一応謙虚なセリフを投げかけてみる。
「俺がわざわざ買ってきてやったんだ。素直に受け取ったらどうだ」
(いや、頼んでないんだけど……!)
もの凄く棘のある言い方に加え、呆れを含んだ無表情。
間違いなく俺の笑顔は引き攣った。
「じゃ、じゃあ……有り難く頂きます」
袋の中を覗くと、俺一人が食べきるには多過ぎるほどの食料が入っていた。
「こんなに買ってきてくれたんですか?」
素直な感想が口から零れる。
「さすがにこんなには……――」
「誰が、お前にだけと言った?」
「え……?」
呆けている俺にはお構いなしに、あろうことか榊さんが横に座って来た。
(はい……? どういう事?)
自問に自答ができない問題に頭を抱えたくなる。
いや、この人も一緒に食べると言う事は理解できる。
が、どうしてそうなるのかが分からない。
俺が固まっていると、榊さんが先に口を開いた。
「あのさ。優一は俺の事怖いのか?」
「――……はい?」
この人はプライベートでは下の名前で呼ぶ。
別にそれを許したわけではないが、拒む事もできなくて……。
テーブルに軽く頬杖を突いてジッと俺を見据えてくる榊さん。
その表情は怒っているわけでもなく、責めているわけでもない。
ただ気になっているから訊いているといった感じの物で……。
逆に返事に困ってしまった。
(もしかして、苦手意識を持ってる事バレた⁉)
一気に嫌な汗が背中を伝う。
「っ……どうして、そう思うんですか?」
「いや、なんとなく」
(――なんとなく⁉)
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