時は止まらない

真宵

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第1章

懐かしい友達

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「魅佳ちゃん、おはよう。よく眠れた?
   今日は天気がいいね。」

若い看護師が優しく微笑みながら話しかけてくる。

「おはようございます・・・。」

私はそれだけ言って、それ以上看護師とは話さなかった。

もうこの会話をして何回目だろう。

慣れたというよりも、聞き飽きた。

私は心の中でそう思いながら、いつもの血圧検査を受ける。

「うん。今日も大丈夫そうね。もうわか
    ってると思うんだけど、昼まで
    この階以外行っちゃダメだからね。」

看護師はそういうと、さっさと検査キットを片付けそそくさと病室から出て行ってしまった。

病室に静けさがやってくる。

やっぱりどれだけ聞き飽きた言葉を聞くことになっても、話相手がいないのは
辛い。

私は辛さを紛らわすために、学校の同じクラスのみんなが作ってくれた寄せ書きを見つめる。

そこには「早く元気になってね!」・
「みんな待ってるよ!」などのコメントが所狭しに書かれていた。

私は泣きそうになるのを必死に抑える。

(私も・・・皆んなと一緒に授業に出た 
    いよ・・・皆んなと一緒に文化祭とか
    やりたいよ・・・・でも・・・治らな
    いんだよ・・・)

この幻覚が見える病気は治療法がない。

だから皆んなには会えない。お見舞いに来てくれた時は別だけれど。

(沙良・・・。元気にしてるのかな?
    彼氏は・・・できたのかな?)

いつも思い出すのは、沙良の眩しい笑顔だった。






私が入院したのは中学生の頃だった。

なぜ早くに入院しなかったかというと、
お母さんがまだその頃は私が抱えていた病気を信じていなかったからだ。

私は中学校までの間、幻覚が見えるのが影響でいじめにあっていた。

つけられたあだ名は"幻覚人間"。
そう呼ばれて来た。しかし、沙良さらだけは違った。

皆んながたとえ私のことを"幻覚人間"
と呼ぼうと、沙良は私を「魅佳」と呼んでくれた。

それが嬉しかった。

そして私が入院して最初に来たのも沙良だった。

お見舞いに来た沙良の顔は喜びで満ち溢れていた。それがとても嬉しくて、
自分のことのように私も嬉しくなったことを今でも覚えている。

沙良は中学を卒業し、有名な高校に入った。

最近は見舞いにくる回数は減ったけれど、それでも会いに来てくれる。

たとえ来れなくても、メールでやり取りをしていた。

私は沙良が元気でいればそれでいい。
そう思い、静かに寄せ書きを仕舞った。








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