婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

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 王宮の庭園で幼い子供たちの声が響き渡る。年頃の子供たちの大きなお茶会。第三王子の婚約者候補を探すためのものだとお母様は言っていたわね。どうにかして取り入れと言われたけれど興味のないわたくしはいつも仲良くしている幼馴染のところへ向かったの。
「あ、アリア! こっちこっち」
 元気に手を振っているのはわたくしの幼馴染のオリーブ、その隣にはもう一人の幼馴染のブライアン。小さな頃からお互いの領地が近いこともあってよく遊んでいるの。
「オリーブ、ブライアン! ここにいたのね」
 嬉々として二人の元へ向かうとそこにはもう一人見たことのない男の子がいたの。青い髪に茶色い目。服装も上質なものを着こなしているわ。整ったお顔によく似合ってるわね、なんて思ってしまったの。
「こちらは?」
「さっきお友達になったのよ! アーティっていうみたい」
「アーティです。よろしくね」
 微笑んだ彼はとても綺麗で思わず見惚れてしまったわ。ハッとして、慌てて自己紹介したの。
「あ、わたくしアリア・ウォービスと申します。ウォービス伯爵家長女です」
「アリア……よろしくね」
 そこからわたくしたちはしばらく楽しくお話ししていたわ。アーティはとても物知りで色々なことを教えてくれたの。花の名前や海のこと、それから美味しいお菓子の話。どの話題でも彼の知識に驚かされたわ。わたくし達は今年十歳になるの。彼も同じ歳だと聞いて皆目を見開いてびっくりしているのをくすくす笑われたわ。
 とても楽しい時間だったのだけれど、そんなわたくし達の元にとある男の子が近づいてきた。その男の子は何人も取り巻きを連れていて、金髪碧眼だったわ。その時点で彼が第三王子であることがすぐにわかって、わたくしは深いため息をつく。

「そちらのお嬢さん、とてもお美しいあなたに自然と引き寄せられてしまったようだ。名前を教えていただいても?」
 背筋がぞわりとしたわ。それと同時にわたくしはあることを思い出したの。膨大な情報量が頭に流れ込んできて、処理仕切れずにわたくしは意識を手放してしまった。


 わたくしは前世、日本という国で化粧品を製作する仕事についていたの。恋愛はたくさん経験してきたけれど、どの男も必ず浮気をして別れることを繰り返してついには男性に対して不信感を抱くようになったの。そんな時に出会ったのが恋愛小説。いろいろなものを読んだわ。恋愛小説の中では必ず主人公と結ばれるものだけを厳選して読んでいたのだけれど、とある時期から断罪や婚約破棄のある小説が増えてきて、ハマってしまったの。その中の一つに、今のわたくしと同じような状況の描写がある小説があることを思い出したのよね。
 それによるとわたくしはいわゆる小説の中の悪役令嬢。幼い頃に第三王子殿下と婚約していたけれど、徐々に妹と仲良くなる王子に婚約者として忠告したり、妹の行動を窘めたりしていたらそれをいじめと判断されて学園のパーティーで断罪され、婚約は破棄、さらに激怒した両親から修道院行きを命じられるというお話だったはず。
 でもわたくし、この小説は納得できなかったの。だって、婚約は家同士の契約が普通で、一度結ばれたものは簡単には破棄されない。それにいじめだってそうよ。貴族としての常識を説いただけでいじめなんて言われるほどのことかしらと思っていたもの。まあ、いじめは相手の受け取り方次第とはいうけれど、婚約者がいるのにも関わらず二人きりであったり体の接触があったりする時点で、浮気よね?
 つまり、この小説に関して言えばただ、婚約者がいるにも関わらず、婚約者の妹と仲良くして、婚約者を小さな罪で吊し上げて見事に浮気相手と一緒になるというただの浮気者の小説でしかないということ。
 どうにか上手に回避できないかしら……
 いえ、きっとうまく行けるはず。まずは王子との婚約を回避すること。これはもう出会ってしまったので難しいかもしれないわ。次に王子と妹の浮気を許容すること、口を出さない。その間、修道院へいく際にどうにか抜け出して自立する必要があるわね。
 まずは、使用人と仲良くなること、資金を稼ぐための何かを見つけることね。


 意識を失った後は、屋敷へ戻されたみたい。ベッドの上で二日ほど眠ったままだったみたいで、侍女のカリンにはとても心配をかけてしまったみたい。その眠っている間、わたくしの脳内では情報の整理をしていたのだけれど。
 それから普段はあまりわたくしに関わらないお父様からの呼び出しがあって、応接室へ呼び出されたの。
「イアン王子殿下との婚約が決まった。この機を逃さぬようにな」
 サラリと婚約したことを告げられたの。やっぱりこれだけは避けられなかったみたい。仕方ないわね。一応婚約者としての勤めは最低限果たすとしましょうか。
 婚約が決まったお礼のお手紙をしたため、カリンに手渡す。
「これをイアン王子殿下までお願いね」
 頷いたカリンは早速手紙を届けてもらえるよう手配しに言ってくれたわ。
 大きなため息をつく。
 さて、動きましょうか。 
 
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