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今日は久々の休日。昨日までに明日の分の王宮での仕事を終わらせたわたくしは王都にある街に来ていた。本当は貴族令嬢が一人で街を歩くなんてありえないのだけれど、わたくしに関心がない両親は侍女を連れて歩くことすら禁じるようになったので仕方ないの。なぜ侍女すら? と思うかもしれないけれど、以前我が家の家計は火の車だと言っていたと思うけれどついには使用人まで解雇せざるを得なくなったみたい。
ちなみに専属侍女に関してはついている人がお給料を払うので、カリンは解雇されていないのだけれど、お父様もお母様もライラも足りないところをカリンに手伝わせているそうよ。その話しを聞いてカリンのお給金を弾んで申し訳ないけれど仕えてもらえるように頼んでいるの。じゃないとあの人たち、賃金も払わないのよ?
御者のマルスも解雇はできないのでタダ同然で働かせられているみたいだから、わたくしからお給料を支払っているの。彼にはよくお世話になっているもの。これからもね。
そういった事情もあって一人で街に来たのだけれど……
休日にまで会いたくはなかったわ。
ピンク髪と金髪が引っ付いて堂々とデートしているところを。向こうは気づいていないみたいだから遠くから見ていたのだけれど、全く気付く様子がないわね。
それに加えて護衛もいないみたい。大丈夫なの? イアン王子が護衛もつけずに出歩いて……
周りの人たちはこそこそと噂話をしているし。本当婚約者を持つ王子であるという自覚が全くないのね。
「あれ、イアン王子殿下だよな? 隣にいるのは婚約者?」
「違うわよ。最近は妹に乗り換えたみたいよ。毎日のように見かけるもの」
「あそこの家ってかなり財政が逼迫しているって聞いたけど、なんであんなドレスを着ているんだ? もしかして……」
「そのもしかしてじゃないかしら。だってこの間、王家御用達の服飾店にあの二人が入るところ見たもの」
はぁ。本当恥晒しもいいところだわ。これをよしとしているお父様もお母様も大概だけれど、問題は陛下と王妃様ね。
これだけ噂になっていたらお耳に入っていてもおかしくないと思うのだけれど。
いつまで放置する気なのかしらね。できれば早めに動いていただきたいところなのだけれど……
それにあのドレスや装飾品、明らかに一級品ね。我が家にはそんなものを買う余裕はない。ということは、その財源はイアン殿下ということになるのだけれど……
確かブライアンの話では、イアン王子に割り当てられた予算は確か彼のもので使い尽くされているはず。その財源は一体どこから出ているのかしらね……
まさか、イアン王子の婚約者に割り当てられた予算からじゃないでしょうね。事実上の横領になるわけだけれど、その辺は流石にわかっているわよね……?
まさか、ね?
「イアン様ぁ。ライラ、この間とっても素敵な装飾品を見つけたのぉ。絶対ライラに似合うと思うんだけどぉ、見に行きたいなぁ」
「いいぞ。可愛いライラのためだ。行こうか」
「やったぁ。ライラ、イアン様大好きぃ」
「よしよし。じゃあ行こうか」
とても気持ちが悪い会話をしているわね……
さっさといって欲しいのだけれど。
ようやく歩き始めた彼らに背を向けて歩き出す。そう、忘れていたけれど今日はシアバターを手に入れに行きたいのよね。暖かい地域で採れる実で、オリーブのところでも取り扱っていないみたい。
シアバターは体に使ってもいいし、乳液としても使えるのよね。ちょっと新しいものに挑戦したくなって試しに買いに来たのだった。
異国のものを取り扱っているお店を見つけ、無事にシアの木の実を手に入れることができてご機嫌よ。大きな実を持って歩いていると、二人の男性が前方から歩いてくる。
なんだか嫌な予感がするわ……
「あれ、君可愛いね。俺たちと一緒に遊ばない?」
「そうそう、俺らいいところ知ってるんだよねぇ。楽しいこと教えてあげるから一緒に行こうよ。ほらほら」
「ちょ、やめてくださる? 腕を掴まないでいただきたいのですけれど。痛いです」
「可愛くて色っぽいのに気が強いんだねぇ。そこがまたいい。そういう女を服従させると一番楽しいんだよねぇ」
ジリジリと引きずられてしまって、焦ってしまったわ。このシアの実を使えたら倒せそうだけれど、シアバターが作れなくなってしまうかもしれないわね……
でも、この状況をどうにかしないと……
相手を睨みつけているけれど全く聞いていないどころかむしろ彼らの欲に火をつけてしまっているみたいで、こういう時は本当にこの顔に産まれてしまったことを後悔してしまうわ。
男の欲の対象になるのって、本当にいいことなんてないわ。小説の中の彼女もこんな目にばかり遭っていたのかしら。
なんて考えて現実から目を背けているうちにある建物についてしまた。
どう見ても宿屋にしか見えない。この世界は女性の処女性を重んじる傾向にあるのよね……
どうしよう。シアバターを捨てる? でも次の休みがいつになるかわからないし……
今日は久々の休日。昨日までに明日の分の王宮での仕事を終わらせたわたくしは王都にある街に来ていた。本当は貴族令嬢が一人で街を歩くなんてありえないのだけれど、わたくしに関心がない両親は侍女を連れて歩くことすら禁じるようになったので仕方ないの。なぜ侍女すら? と思うかもしれないけれど、以前我が家の家計は火の車だと言っていたと思うけれどついには使用人まで解雇せざるを得なくなったみたい。
ちなみに専属侍女に関してはついている人がお給料を払うので、カリンは解雇されていないのだけれど、お父様もお母様もライラも足りないところをカリンに手伝わせているそうよ。その話しを聞いてカリンのお給金を弾んで申し訳ないけれど仕えてもらえるように頼んでいるの。じゃないとあの人たち、賃金も払わないのよ?
御者のマルスも解雇はできないのでタダ同然で働かせられているみたいだから、わたくしからお給料を支払っているの。彼にはよくお世話になっているもの。これからもね。
そういった事情もあって一人で街に来たのだけれど……
休日にまで会いたくはなかったわ。
ピンク髪と金髪が引っ付いて堂々とデートしているところを。向こうは気づいていないみたいだから遠くから見ていたのだけれど、全く気付く様子がないわね。
それに加えて護衛もいないみたい。大丈夫なの? イアン王子が護衛もつけずに出歩いて……
周りの人たちはこそこそと噂話をしているし。本当婚約者を持つ王子であるという自覚が全くないのね。
「あれ、イアン王子殿下だよな? 隣にいるのは婚約者?」
「違うわよ。最近は妹に乗り換えたみたいよ。毎日のように見かけるもの」
「あそこの家ってかなり財政が逼迫しているって聞いたけど、なんであんなドレスを着ているんだ? もしかして……」
「そのもしかしてじゃないかしら。だってこの間、王家御用達の服飾店にあの二人が入るところ見たもの」
はぁ。本当恥晒しもいいところだわ。これをよしとしているお父様もお母様も大概だけれど、問題は陛下と王妃様ね。
これだけ噂になっていたらお耳に入っていてもおかしくないと思うのだけれど。
いつまで放置する気なのかしらね。できれば早めに動いていただきたいところなのだけれど……
それにあのドレスや装飾品、明らかに一級品ね。我が家にはそんなものを買う余裕はない。ということは、その財源はイアン殿下ということになるのだけれど……
確かブライアンの話では、イアン王子に割り当てられた予算は確か彼のもので使い尽くされているはず。その財源は一体どこから出ているのかしらね……
まさか、イアン王子の婚約者に割り当てられた予算からじゃないでしょうね。事実上の横領になるわけだけれど、その辺は流石にわかっているわよね……?
まさか、ね?
「イアン様ぁ。ライラ、この間とっても素敵な装飾品を見つけたのぉ。絶対ライラに似合うと思うんだけどぉ、見に行きたいなぁ」
「いいぞ。可愛いライラのためだ。行こうか」
「やったぁ。ライラ、イアン様大好きぃ」
「よしよし。じゃあ行こうか」
とても気持ちが悪い会話をしているわね……
さっさといって欲しいのだけれど。
ようやく歩き始めた彼らに背を向けて歩き出す。そう、忘れていたけれど今日はシアバターを手に入れに行きたいのよね。暖かい地域で採れる実で、オリーブのところでも取り扱っていないみたい。
シアバターは体に使ってもいいし、乳液としても使えるのよね。ちょっと新しいものに挑戦したくなって試しに買いに来たのだった。
異国のものを取り扱っているお店を見つけ、無事にシアの木の実を手に入れることができてご機嫌よ。大きな実を持って歩いていると、二人の男性が前方から歩いてくる。
なんだか嫌な予感がするわ……
「あれ、君可愛いね。俺たちと一緒に遊ばない?」
「そうそう、俺らいいところ知ってるんだよねぇ。楽しいこと教えてあげるから一緒に行こうよ。ほらほら」
「ちょ、やめてくださる? 腕を掴まないでいただきたいのですけれど。痛いです」
「可愛くて色っぽいのに気が強いんだねぇ。そこがまたいい。そういう女を服従させると一番楽しいんだよねぇ」
ジリジリと引きずられてしまって、焦ってしまったわ。このシアの実を使えたら倒せそうだけれど、シアバターが作れなくなってしまうかもしれないわね……
でも、この状況をどうにかしないと……
相手を睨みつけているけれど全く聞いていないどころかむしろ彼らの欲に火をつけてしまっているみたいで、こういう時は本当にこの顔に産まれてしまったことを後悔してしまうわ。
男の欲の対象になるのって、本当にいいことなんてないわ。小説の中の彼女もこんな目にばかり遭っていたのかしら。
なんて考えて現実から目を背けているうちにある建物についてしまた。
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