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どうしようかと王宮を歩いているとアーティに出会った。
「どうしたの?」
「実は……オリーブに王宮にきてもらえるように伝えたいんだけれど手段がなくて……」
「それなら僕がなんとかしておくよ。学園が終わってからでいいんだよね?」
「もちろん。商売のお話だからって言えばきっときてくれるはず」
お金になることが好きなオリーブのことだもの。きっと受けてくれるわ。
「ありがとう、本当に助かるわ」
「いいよ、アリアのためならなんでもしてあげる」
「もう、あまりそういうことは軽々しく言ってはいけないのよ?」
言葉だけ見ればただの口説き文句。それがあの美貌の男性に言われたらくらくらしちゃうじゃない。まだ婚約者がいる身でときめいてはダメよっ。
「本気だけど」
ああああ、心臓が飛び跳ねてるわっ。顔も熱くなっていて真っ赤になっていること間違い無いわねっ。思わず顔を背け、俯く。
わたくし、平均よりも身長が低いし、彼も平均よりも身長が大きいから絶対見えないでしょう!
さらに手で顔を覆う。完全防備ねっ。
「ふふっ。アリアは可愛いね」
ますます照れてしまったわたくしはもう動けないでいた。そんなわたくし達に元気な足音が近づく。
「あー!アリアだっ。アーサーもいるのね。ってアリア、何してるの?」
はっ。いけないいけない。思わず固まってしまったわ……
今から王妃様のところへ行かないと……!
「アーティ、これから王妃様のところへ行くの。ありがとう。というかオリーブ、早くない?」
「そう?使いの人が来てから一時間くらいかな?」
え、そんなに経ってたの……? そんな長い間わたくしってば固まっていたのかしら。彼はといえばくすくす笑いながらわたくしを眺めていたようだけれど、え、待って、恥ずかしい……
「さ、さあ行くわよっ。じゃあね、アーティ。ありがとう」
「え、ちょ待って、じゃあね、アーサー」
オリーブの手を掴みスタスタ歩く。きっといろんな人があそこを通ってあの光景を目撃したに違いないわ……
恥ずかしい。
「あらアリア。待ってたわよ。そちらは?」
「アルト男爵家ご令嬢のオリーブと申します」
「今日のご相談に必要かと思いまして、来たいただいたんです。よろしいでしょうか?」
「いいわっ。今度は何?」
もうすでにウキウキしているのが目に見えているわ。まあ、楽しそうで何よりなんですけれど。
「実は、騎士団の方から嘆願書を受け取りまして……」
わたくしは王妃様に彼から聞いた話を伝える。ちょうどそばにいた騎士団長にも話を聞いてくれたみたい。
「それで、どう解決する?」
「それが、彼らには刺繍は難しいようでして、布を縫い付けるくらいならできると。そこで、アルト商会に力を貸してもらいたいのよ」
「私は何をしたらいい?」
「受注生産でいいから、騎士団員の名前の刺繍の入った小さな布を作ってほしくて。このくらいの布に名前を刺繍したものが欲しいのよ」
「なるほど! できると思うわ。ただ、どちらと契約を結んだら」
「そこで私の出番ねっ」
どうやらわかっていただけたみたい。今回嘆願書を持ってきた彼は王家所属の騎士団なのだ。だから受注するなら王家の誰かの許可が必要になってくる。
そこを王妃様にお願いしたかったの。オリーブにはその刺繍入りの小さな布をお願いしたかったんだけれど、すぐにやってくれそうでよかったわ。
「わかったわ。オリーブさんがよろしければこちらからお願いしたいくらいよっ」
近くにいた近衛騎士の方がそっと近づいてくる。どうしたのかしら、何か意見が?
「あら、近衛でも使いたいのね。オリーブさん次第なんだけど……」
「まずは試しに希望者のみで受け付けましょう。嘆願書を持ってきたザルドさんと、あとはそこの近衛の方と、騎士団長さんもお使いになります?」
「ぜひっ!」
「あとは……」
ばっと一斉に近くにいた騎士達が手を挙げる。思っていた以上にみんな困っていたみたい……
「とりあえずはここにいる方々とザルドさんね。何枚くらい欲しいのかしら」
「とりあえず、20枚ほどいただけると助かるのですが……」
「オリーブ、どう?」
「うん、多分大丈夫だと思う。サイズはどのくらいがいいですか? とりあえずそれで作ってみます」
「ありがとう」
どうにかなりそうでよかったわ。みんな心なしか嬉しそうね。こんな小さなことなのに喜ばれるととてもやりがいを感じるわ。まあもうそろそろ婚約破棄されて追い出されるのだけれどね。
「アリア、ここにいる間に気づいたことがあればいくらでも言って? みんな喜んでいるもの」
「はあ……また何かありましたら、お伺いしますね」
「ええ」
少し寂しそうな王妃様とその言葉に思わず小首を傾げてしまったけれど、今日のところはもう帰ることとなった。お仕事がまだ残っていたけれど、アーティもやってきて「今日は帰りな」と言われ帰されてしまったわ。
まあ今日は少し疲れてしまったからちょうどよかったけれど。
どうしようかと王宮を歩いているとアーティに出会った。
「どうしたの?」
「実は……オリーブに王宮にきてもらえるように伝えたいんだけれど手段がなくて……」
「それなら僕がなんとかしておくよ。学園が終わってからでいいんだよね?」
「もちろん。商売のお話だからって言えばきっときてくれるはず」
お金になることが好きなオリーブのことだもの。きっと受けてくれるわ。
「ありがとう、本当に助かるわ」
「いいよ、アリアのためならなんでもしてあげる」
「もう、あまりそういうことは軽々しく言ってはいけないのよ?」
言葉だけ見ればただの口説き文句。それがあの美貌の男性に言われたらくらくらしちゃうじゃない。まだ婚約者がいる身でときめいてはダメよっ。
「本気だけど」
ああああ、心臓が飛び跳ねてるわっ。顔も熱くなっていて真っ赤になっていること間違い無いわねっ。思わず顔を背け、俯く。
わたくし、平均よりも身長が低いし、彼も平均よりも身長が大きいから絶対見えないでしょう!
さらに手で顔を覆う。完全防備ねっ。
「ふふっ。アリアは可愛いね」
ますます照れてしまったわたくしはもう動けないでいた。そんなわたくし達に元気な足音が近づく。
「あー!アリアだっ。アーサーもいるのね。ってアリア、何してるの?」
はっ。いけないいけない。思わず固まってしまったわ……
今から王妃様のところへ行かないと……!
「アーティ、これから王妃様のところへ行くの。ありがとう。というかオリーブ、早くない?」
「そう?使いの人が来てから一時間くらいかな?」
え、そんなに経ってたの……? そんな長い間わたくしってば固まっていたのかしら。彼はといえばくすくす笑いながらわたくしを眺めていたようだけれど、え、待って、恥ずかしい……
「さ、さあ行くわよっ。じゃあね、アーティ。ありがとう」
「え、ちょ待って、じゃあね、アーサー」
オリーブの手を掴みスタスタ歩く。きっといろんな人があそこを通ってあの光景を目撃したに違いないわ……
恥ずかしい。
「あらアリア。待ってたわよ。そちらは?」
「アルト男爵家ご令嬢のオリーブと申します」
「今日のご相談に必要かと思いまして、来たいただいたんです。よろしいでしょうか?」
「いいわっ。今度は何?」
もうすでにウキウキしているのが目に見えているわ。まあ、楽しそうで何よりなんですけれど。
「実は、騎士団の方から嘆願書を受け取りまして……」
わたくしは王妃様に彼から聞いた話を伝える。ちょうどそばにいた騎士団長にも話を聞いてくれたみたい。
「それで、どう解決する?」
「それが、彼らには刺繍は難しいようでして、布を縫い付けるくらいならできると。そこで、アルト商会に力を貸してもらいたいのよ」
「私は何をしたらいい?」
「受注生産でいいから、騎士団員の名前の刺繍の入った小さな布を作ってほしくて。このくらいの布に名前を刺繍したものが欲しいのよ」
「なるほど! できると思うわ。ただ、どちらと契約を結んだら」
「そこで私の出番ねっ」
どうやらわかっていただけたみたい。今回嘆願書を持ってきた彼は王家所属の騎士団なのだ。だから受注するなら王家の誰かの許可が必要になってくる。
そこを王妃様にお願いしたかったの。オリーブにはその刺繍入りの小さな布をお願いしたかったんだけれど、すぐにやってくれそうでよかったわ。
「わかったわ。オリーブさんがよろしければこちらからお願いしたいくらいよっ」
近くにいた近衛騎士の方がそっと近づいてくる。どうしたのかしら、何か意見が?
「あら、近衛でも使いたいのね。オリーブさん次第なんだけど……」
「まずは試しに希望者のみで受け付けましょう。嘆願書を持ってきたザルドさんと、あとはそこの近衛の方と、騎士団長さんもお使いになります?」
「ぜひっ!」
「あとは……」
ばっと一斉に近くにいた騎士達が手を挙げる。思っていた以上にみんな困っていたみたい……
「とりあえずはここにいる方々とザルドさんね。何枚くらい欲しいのかしら」
「とりあえず、20枚ほどいただけると助かるのですが……」
「オリーブ、どう?」
「うん、多分大丈夫だと思う。サイズはどのくらいがいいですか? とりあえずそれで作ってみます」
「ありがとう」
どうにかなりそうでよかったわ。みんな心なしか嬉しそうね。こんな小さなことなのに喜ばれるととてもやりがいを感じるわ。まあもうそろそろ婚約破棄されて追い出されるのだけれどね。
「アリア、ここにいる間に気づいたことがあればいくらでも言って? みんな喜んでいるもの」
「はあ……また何かありましたら、お伺いしますね」
「ええ」
少し寂しそうな王妃様とその言葉に思わず小首を傾げてしまったけれど、今日のところはもう帰ることとなった。お仕事がまだ残っていたけれど、アーティもやってきて「今日は帰りな」と言われ帰されてしまったわ。
まあ今日は少し疲れてしまったからちょうどよかったけれど。
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