偽りの聖女と罵られ追放された公爵令嬢ですが、辺境の『氷の公爵』に溺愛されて本当の力を開花させました。元婚約者には今からざまぁの時間です

ふうか

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偽りの聖女

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王都の中心にそびえる宮殿。その大広間では、豪奢なシャンデリアの光の下、アイリスだけが貴族たちの好奇と侮蔑を一身に浴びていた。


婚約者である王太子ジルベルト殿下は、彼女が血を滲ませながら夜なべして仕上げた刺繍入りの軍服を纏い、無慈悲な表情で立っている。その隣には純白のドレスを身にまとい、涙を装った微笑みを浮かべる義妹ソフィア。今や「真の聖女」と謳われ、アイリスの名と立場を奪った偽りの後継者だった。

「アイリス・フォン・ベルンハルト伯爵令嬢」

ジルベルトの声は冷徹で、ざわついていた広間を一瞬で黙らせた。

「貴様との婚約を、ここに破棄する」

胸の奥が氷で締め付けられる。覚悟はしていた。それでも、言葉となって突き刺さる現実は容赦がない。

「理由を……お聞かせください、殿下」

震えを押し殺し、最後の矜持だけは手放さぬよう言葉を絞り出す。


ジルベルトは嘲笑うように鼻を鳴らした。

「とぼけるとは見苦しい! 貴様はソフィアの公務資料をすり替え、我が国の外交を危機に晒した張本人だ!」

広間にざわめきが広がる。ソフィアは小動物のような仕草でジルベルトの背に隠れ、震える声を装った。

「ジルベルト様……もう、アイリス様を責めないでくださいませ。わたくしより出来が悪いだけで……きっと、悪気はなかったのです……」

「黙れ、ソフィア!」

ジルベルトは彼女を抱き寄せつつ、怒鳴り声をアイリスに叩きつける。

「貴様は元より地味で無能! その魔力はソフィアの光輝く力に遠く及ばぬ。王太子妃には、国民を眩しく照らす聖光こそが必要なのだ!」

アイリスは言葉を失う。彼女が夜を徹して処理し、王都の地下で密かに国民の健康を支えていた治癒魔力は、一言で“無価値”と断じられた。

すり替えられた資料は、本来アイリスが築いた実績そのものだった。だが嫉妬と虚飾に溺れた二人には、その価値は映らない。

「よって貴様を辺境ソルティエラへ追放とする! 二度と王都へ戻ることは許さぬ!」


ここで弁明をしても無駄だ。彼らは最初から真実に目を向けるつもりなどない。

アイリスは静かに顔を上げた。もう涙はない。そこにあるのは、深い悲しみと共に、自らを縛る鎖を断ち切った澄んだ覚悟。

「……承知いたしました」

その声音は驚くほど澄み切っており、広間の空気をわずかに震わせた。

「私は、真実を映せぬ方々のそばにいる方が、むしろごめんですわ」

ジルベルトとソフィアを見据え、微笑すら浮かべる。

「殿下、ソフィア様。どうかその浅はかな判断で、国を破滅させぬよう……心よりお祈りしております」

そしてドレスの裾を翻し、一歩、また一歩と大広間を去っていく。

誰も止めようとしない。誰も手を差し伸べない。
だが彼女の胸では、“もう誰にも、私の人生を決めさせない”という小さな炎が静かに燃え上がっていた。


こうしてアイリスは絶望と孤独を抱えながらも、凍土の辺境ソルティエラへと旅立つ。
その地で、彼女の真価を認め溺愛と共に迎え入れる運命の公爵と出会うことになるとは──王都に集う誰一人として想像すらしていなかった。

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