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婚約編
16 婚約成立
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皇弟殿下と父は舞踏会が終わってから小一時間ほど話し合いをしたらしい。別室で待たされていたレティシアは2人が何の話をしていたのかは知らないが、父の様子を見る限り非常に満足のいくものらしかった。
レティシアとイサイアスがしたことといえば婚約の誓約書3枚にそれぞれ署名をすることだけであった。王宮に提出するのが1枚とそれぞれの家で保管するものが1枚ずつだ。
レティシアは自分の名前とイサイアスの名前が並ぶ誓約書を不思議な気持ちで眺めていた。誓約書にはその名の通り婚約に関する国の法律や家同士の取り決めが事細かに書かれている。
デビュタントの舞踏会以来、夢を見ているような気分だ。時々、イサイアスと出会ったこともこうして仲良くしていることも、婚約者になったことも実は夢で自分は今、家のベットで横になっていて、起きたらすべてが消えてしまうような、そんな漠然とした不安が心の隅に、時々視界に入る壁の染みのような存在感でそこにある。
レティシアは何気なく誓約書の文言に目を通していて、その中のある一文に目を止めた。
「レティシア・レイエアズマンは週に一回、アルハイザー家に通い公爵夫人より教えを受けること。」
「ああ、それは私たちが提示した条件の一つだよ。」
無意識に声を出して読み上げた誓約に、ダリアンは頷いた。
「レティシアちゃんはイサイアスのお嫁さんになるでしょ? つまりアルハイザー家の女主人になる訳だ。もちろん基本的な淑女教育に関してはレティシアちゃんはばっちりみたいだから次は家のこととか、それ以外にもいろいろ知ってもらわないといけないことが多くてね。なんてったってアルハイザー家は一応名門貴族だからね。」
「は、はい。」
「心配しなくても大丈夫。せっかくだから早めに始めようってだけだし、時間はいっぱいあるのだからゆっくりやればいいよ。」
「わかり、ました。」
きちんと覚えられるか不安も少しあったけれど、もともと学ぶことは好きなレティシア。不安よりも、毎週イサイアスや、この優しい家族たちに会えることが楽しみだと感じていた。
ーーーーーーーーー
家に帰ると待っていたのは不機嫌真っ只中のカラメリアだった。
婚約の話し合いはどれだけ時間がかかるかわからないからと先に返されたカラメリアと母と兄だったが、自分がのけ者にされたと解釈したらしく、帰って早々厄介ごとのにおいを嗅ぎつけたレティシアは早く部屋に戻りたいと心底願った。
もっともその願いは聞き届けられることはなかったのだが。
「どうして、私じゃなくてレティシアがイサイアス様と婚約することになってるの!」
仁王立ちで玄関を陣取っていたカラメリアの背後には憤怒の炎が見える気がした。
「舞踏会の前だって、イサイアス様が私に冷たかったのもレティシアがイサイアス様に何か入れ知恵したんでしょ! なんで私の邪魔するのよ!」
「入れ知恵なんてしていないわ。」
「嘘! イサイアス様をとられたくないからって私の悪口吹きこんだんでしょ!」
すっかりヒートアップしたカラメリアがレティシアの両肩を思いっきり力を込めて押したから、レティシアはこけてしりもちをついてしまった。倒れたレティシアを見下ろして鼻息あらく息を吐くとパタパタと走っていった。
いい意味ではなさそうな笑みを残して。
立ち上がってパンパンと着いた埃を落とすとレティシアは何も言わずに部屋へ戻った。
ため息を吐きながら自室に戻ると、何故かマリーだけではなく他のメイドまでレティシアの帰りをいまかいまかと待ち構えていた。
「「「レティシア様!ご婚約おめでとうございます!」」」
扉を開けて部屋へ足を踏み入れた瞬間10人ほどのメイドたちが口々にお祝いの言葉を述べて、庭で採ってきたのだろう花束を渡された。
「え? え?」
訳が分からないまま、メイドたちに部屋の中央まで連れていかれ、マリーに花冠をかぶせられる。
「おめでとうございます、お嬢様。」
マリーはおそらく泣いたのだろう。目じりを微かに赤くさせて、涙のにじむ声でそう言った。マリーは誰よりも長くレティシアと共にいた。レティシアの辛い時期を誰よりも理解し一緒に乗り越え、誰よりもレティシアの幸せを望んだ彼女は心からの笑顔でレティシアを祝福するのだった。
「マリー......」
レティシアはそんなマリーの様子に自分も胸がいっぱいになって溢れてしまいそうだった。目の前で再び涙をこぼしながらほほ笑むマリーにレティシアはぎゅっと抱き着いた。
「ありがとうマリー。」
レティシアとイサイアスがしたことといえば婚約の誓約書3枚にそれぞれ署名をすることだけであった。王宮に提出するのが1枚とそれぞれの家で保管するものが1枚ずつだ。
レティシアは自分の名前とイサイアスの名前が並ぶ誓約書を不思議な気持ちで眺めていた。誓約書にはその名の通り婚約に関する国の法律や家同士の取り決めが事細かに書かれている。
デビュタントの舞踏会以来、夢を見ているような気分だ。時々、イサイアスと出会ったこともこうして仲良くしていることも、婚約者になったことも実は夢で自分は今、家のベットで横になっていて、起きたらすべてが消えてしまうような、そんな漠然とした不安が心の隅に、時々視界に入る壁の染みのような存在感でそこにある。
レティシアは何気なく誓約書の文言に目を通していて、その中のある一文に目を止めた。
「レティシア・レイエアズマンは週に一回、アルハイザー家に通い公爵夫人より教えを受けること。」
「ああ、それは私たちが提示した条件の一つだよ。」
無意識に声を出して読み上げた誓約に、ダリアンは頷いた。
「レティシアちゃんはイサイアスのお嫁さんになるでしょ? つまりアルハイザー家の女主人になる訳だ。もちろん基本的な淑女教育に関してはレティシアちゃんはばっちりみたいだから次は家のこととか、それ以外にもいろいろ知ってもらわないといけないことが多くてね。なんてったってアルハイザー家は一応名門貴族だからね。」
「は、はい。」
「心配しなくても大丈夫。せっかくだから早めに始めようってだけだし、時間はいっぱいあるのだからゆっくりやればいいよ。」
「わかり、ました。」
きちんと覚えられるか不安も少しあったけれど、もともと学ぶことは好きなレティシア。不安よりも、毎週イサイアスや、この優しい家族たちに会えることが楽しみだと感じていた。
ーーーーーーーーー
家に帰ると待っていたのは不機嫌真っ只中のカラメリアだった。
婚約の話し合いはどれだけ時間がかかるかわからないからと先に返されたカラメリアと母と兄だったが、自分がのけ者にされたと解釈したらしく、帰って早々厄介ごとのにおいを嗅ぎつけたレティシアは早く部屋に戻りたいと心底願った。
もっともその願いは聞き届けられることはなかったのだが。
「どうして、私じゃなくてレティシアがイサイアス様と婚約することになってるの!」
仁王立ちで玄関を陣取っていたカラメリアの背後には憤怒の炎が見える気がした。
「舞踏会の前だって、イサイアス様が私に冷たかったのもレティシアがイサイアス様に何か入れ知恵したんでしょ! なんで私の邪魔するのよ!」
「入れ知恵なんてしていないわ。」
「嘘! イサイアス様をとられたくないからって私の悪口吹きこんだんでしょ!」
すっかりヒートアップしたカラメリアがレティシアの両肩を思いっきり力を込めて押したから、レティシアはこけてしりもちをついてしまった。倒れたレティシアを見下ろして鼻息あらく息を吐くとパタパタと走っていった。
いい意味ではなさそうな笑みを残して。
立ち上がってパンパンと着いた埃を落とすとレティシアは何も言わずに部屋へ戻った。
ため息を吐きながら自室に戻ると、何故かマリーだけではなく他のメイドまでレティシアの帰りをいまかいまかと待ち構えていた。
「「「レティシア様!ご婚約おめでとうございます!」」」
扉を開けて部屋へ足を踏み入れた瞬間10人ほどのメイドたちが口々にお祝いの言葉を述べて、庭で採ってきたのだろう花束を渡された。
「え? え?」
訳が分からないまま、メイドたちに部屋の中央まで連れていかれ、マリーに花冠をかぶせられる。
「おめでとうございます、お嬢様。」
マリーはおそらく泣いたのだろう。目じりを微かに赤くさせて、涙のにじむ声でそう言った。マリーは誰よりも長くレティシアと共にいた。レティシアの辛い時期を誰よりも理解し一緒に乗り越え、誰よりもレティシアの幸せを望んだ彼女は心からの笑顔でレティシアを祝福するのだった。
「マリー......」
レティシアはそんなマリーの様子に自分も胸がいっぱいになって溢れてしまいそうだった。目の前で再び涙をこぼしながらほほ笑むマリーにレティシアはぎゅっと抱き着いた。
「ありがとうマリー。」
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