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婚約編
32 襲撃③
しおりを挟む「父、いえ。レイエアズマン家は貴方たちに非道なことをした。それは事実です。私がそれを知ったのは領地に来てからです。私はそれが正しいことだとは思えなくて、できる限りの支援をしてきました。」
「だから見逃せって?」
「それだけではありません。私は我が家が行っている悪行を止めさせられる手段を持っています。」
「やめさせられる? 税を減らせるってことか?」
「はい。」
「信じられると思うか? 今まで何度訴えても受け入れられなかった。お嬢さん一人で変えられるとは思えないなあ。」
「そう思うのもしょうがないですね。」
「証拠は?」
「これです。」
レティシアは服のなかに隠していた書類を取り出した。
「これは父が不正をしていた証拠です。これを私の婚約者に渡します。私の婚約者を知っていますよね?」
「ああ、皇帝陛下の弟の息子だったか?」
「そうです。彼らに任せれば父の不正は暴かれ、領地の暮らしも改善されるはずです。」
「......」
男は黙って考え込んでいるようだった。まわりの人たちは男がどっちに味方するのか緊張の面持ちで待っている。
「俺たちがあんたを消すという依頼を引き受けたのは単に金のためだ。うざったい領主の息子だったが金払いはよかったよ。あんたも領主の子どもであるわけだし憂さ晴らししようと思っていたしな。依頼を引き受けたからには完遂しなきゃならん。報酬もてに入らないしな。しかし、お嬢さんが本当にこの状況を改善できるというのなら俺はそれを信じてみたい。」
「ありがとうございます。」
レティシアは頭を下げた。
「ただ、監視はさせてもらうよ。」
「なら、護衛を依頼します。」
「は?」
「アルハイザー家へいくまでの護衛を貴方たちに依頼してもいいですか? 報酬は兄が提示した報酬と同じ額を出しましょう。」
「本気か? 一度は殺そうとしたんだぞ?」
呆気にとられて目を丸くした男にレティシアは頷いた。
「この先、また襲われない保証はないですし。私を信じてくれましたから。」
こうして、レティシアは彼らを連れてアルハイザー領を目指し再び出発した。
レティシアが連れてこられた家はレイエアズマン領を少し離れたところにあった。出発してから二日。予定より1日遅れてレティシアはアルハイザー家へ到着した。
「シア!」
レティシアの乗った馬車をみとめたイサイアスが屋敷から飛び出してきた。
「シア、無事だったんだね。よかった。予定より遅かったから心配したよ。」
「イアス! 連絡ができなくてごめんなさい。私は大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」
イサイアスはレティシアの背に腕を回し優しく抱きしめながら安心したようにため息をついた。そして何か気づいたように訝しげにレティシアを覗き込む。
「シア、指輪を使ったね。魔力が減ってる。」
「え? そんなことわかるの?」
「わかるよ。俺の魔力なんだもの。何かあったでしょ。ごまかさないでちゃんと話してくれるね。」
優しい口調であるが、断れない雰囲気で念押しするイサイアスにレティシアも素直にうなずいた。
「君が手紙で話したいことがあるって言ってたのと関係ある?」
勘のいいイサイアスにレティシアは頷く。
「わかった。とりあえず屋敷に入ろう。おいで。」
イサイアスはそのままレティシアを率いて屋敷に入ると控えていた従者にティールームにお茶を用意するように命じると手を繋いだまま歩き出す。
「イ、イアス。」
「どうしたの?」
「どうして、手を繋いだまま。」
「いいじゃないか。婚約者同士なのに。」
こうでもしないと君がいなくなってしまいそうで。そう小さくつぶやいた言葉はレティシアには聞こえていなかった。
ティールームで向き合って座ったレティシアとイサイアスは世間話や軽い前置きすらも無視して本題へと入った。
「イアス。まずこれを見て欲しいの。」
レティシアは父の執務室から持ち出した資料をイサイアスへ差し出した。
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