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「……あれ? なんかおかしいな」
ユナはバニー姿のまま、地図を片手に首をかしげていた。
次の街へ向かうはずが、どうやら道を間違えたらしい。細い獣道のようなところを抜けてきたせいで、見知らぬ荒地に踏み込んでしまった。
「ま、いっか。とりあえず進めばいつか町に出るでしょ」
特に大きな目的意識もなく、軽い気持ちで足を進める。
だが、周囲の空気が明らかに物騒な感じに変わってきた。見張り台のようなものが設置され、ところどころから不気味な声が聞こえてくる。
「あれ、兵士かな……? でもなんだか人間ぽくないような……」
茂みの向こうには、角や牙を持った魔物らしき集団が行進しているのが見えた。
怖いというより、「こんな辺境に軍隊みたいなのがいるんだ?」とユナは不思議がる。
少し近づいてみると、案の定、魔物の下っ端兵士たちと目が合ってしまった。
「うわ、まずいかな。襲われる?」
ユナがそう思ったのも束の間、敵の兵士たちはバニーガールの姿に呆然と立ち尽くしている。
彼らは“魔王軍の前線基地”を守る役目を担っているらしいが、バニーというあまりにも場違いな姿に戸惑いを隠せないようだ。
「えーっと……ごめんね。道わかんなくて」
ユナがぺこりと頭を下げ、すたすたと彼らの横を通りすぎると、下っ端兵士たちはさらに面食らった表情になる。攻撃しようにも、なにをどうしていいやら分からず、ただ呆気に取られるばかり。
(な、なんだあの女……? こんなところでバニーって……!?)
(ま、魔王軍の前線に、バニーが迷い込むとかアリかよ……!?)
彼らは内心大混乱だったが、ユナの色気に当てられたせいか、あるいは単にマイペースさに圧倒されて動けないのか、とにかく誰も攻撃を仕掛けない。
結果、ユナは普通に通り抜けてしまった。
---
少し奥へ進むと、壊れかけの小屋やテントのようなものが点在するエリアに入る。どうやら前線基地の一部らしいが、ユナはそれとは知らず「なんかテントがあるなー」程度の感想しか浮かばない。
「うわ、ゴミ落ちてる。あ……紙?」
足元に大きな紙の束が転がっている。何気なく拾い上げてみると、そこには複雑な地図やら文字やらがびっしり書かれていた。
「へぇ、なんだろ。結構しっかりした図面……でも読みにくい。設計図? 作戦図? んー、よくわかんない」
どうやら魔王軍の作戦資料らしきものだが、ユナは興味なさそうにぱらぱらと眺め、すぐに「重いし邪魔だし」と放り投げてしまう。
風にあおられて紙が舞い上がると、近くの物陰でそれを目撃した魔物兵が「ぎゃああ! あれは軍の最高機密資料! なんでそんなところに!?」と絶叫する。
(やばいぞ、あれを持ち帰られたらまずい……! でもどうする? 俺たちはどう動けば……!?)
慌てふためく魔物兵たちだが、ユナは全く気づかないままスタスタと歩いて行く。
どこかで誰かが怒鳴り声を上げているが、言葉がまるで耳に入っていないかのような自然体で通りすぎる。
「うーん、ここも町じゃなさそうだし……あ、あっちの山道を行けばいいのかな」
ユナは大きな看板のようなものを見つけ、「←○○町まで10キロ」などという文字を確認して、そちらの方向へ足を向ける。
背後では魔王軍の兵士たちが「なぜ止めない」「いや、止めたくても止められない」などと口論し、結局誰も何もしないままユナは基地を抜け出した。
---
やがて開けた街道に出ると、空気も普通に澄んでいて、魔物の気配は感じられなくなる。
ユナは「ふう、やっと街道だ。よかった~」と伸びをし、次の目的地への看板を見て、また気ままに歩き始める。
まさかここが魔王軍の前線基地だったなどとはつゆ知らず、ただ道に迷っただけで通り過ぎてしまった形だ。
「んー、次の街まであと少しかな。お腹すいたなあ。おいしいもの食べたい」
そんな呑気な独り言を漏らしながら、ユナはバニーしっぽを揺らして旅路を行く。
一方、後に残された魔王軍は、謎のバニーガールがやって来たという報告と、作戦資料が散逸した事実に大パニック。「いったい何者だ?」と上層部は大いに混乱することになる。
しかし、当のユナはそんな事態に全く気づかず、相変わらずマイペースで新たな街へ向かっていた。いつか魔王軍との因縁が深まるのかもしれないが、それはまだ先の話――今はただ、「偶然迷い込んだへんてこな基地」くらいの記憶しかないのだろう。
ユナはバニー姿のまま、地図を片手に首をかしげていた。
次の街へ向かうはずが、どうやら道を間違えたらしい。細い獣道のようなところを抜けてきたせいで、見知らぬ荒地に踏み込んでしまった。
「ま、いっか。とりあえず進めばいつか町に出るでしょ」
特に大きな目的意識もなく、軽い気持ちで足を進める。
だが、周囲の空気が明らかに物騒な感じに変わってきた。見張り台のようなものが設置され、ところどころから不気味な声が聞こえてくる。
「あれ、兵士かな……? でもなんだか人間ぽくないような……」
茂みの向こうには、角や牙を持った魔物らしき集団が行進しているのが見えた。
怖いというより、「こんな辺境に軍隊みたいなのがいるんだ?」とユナは不思議がる。
少し近づいてみると、案の定、魔物の下っ端兵士たちと目が合ってしまった。
「うわ、まずいかな。襲われる?」
ユナがそう思ったのも束の間、敵の兵士たちはバニーガールの姿に呆然と立ち尽くしている。
彼らは“魔王軍の前線基地”を守る役目を担っているらしいが、バニーというあまりにも場違いな姿に戸惑いを隠せないようだ。
「えーっと……ごめんね。道わかんなくて」
ユナがぺこりと頭を下げ、すたすたと彼らの横を通りすぎると、下っ端兵士たちはさらに面食らった表情になる。攻撃しようにも、なにをどうしていいやら分からず、ただ呆気に取られるばかり。
(な、なんだあの女……? こんなところでバニーって……!?)
(ま、魔王軍の前線に、バニーが迷い込むとかアリかよ……!?)
彼らは内心大混乱だったが、ユナの色気に当てられたせいか、あるいは単にマイペースさに圧倒されて動けないのか、とにかく誰も攻撃を仕掛けない。
結果、ユナは普通に通り抜けてしまった。
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少し奥へ進むと、壊れかけの小屋やテントのようなものが点在するエリアに入る。どうやら前線基地の一部らしいが、ユナはそれとは知らず「なんかテントがあるなー」程度の感想しか浮かばない。
「うわ、ゴミ落ちてる。あ……紙?」
足元に大きな紙の束が転がっている。何気なく拾い上げてみると、そこには複雑な地図やら文字やらがびっしり書かれていた。
「へぇ、なんだろ。結構しっかりした図面……でも読みにくい。設計図? 作戦図? んー、よくわかんない」
どうやら魔王軍の作戦資料らしきものだが、ユナは興味なさそうにぱらぱらと眺め、すぐに「重いし邪魔だし」と放り投げてしまう。
風にあおられて紙が舞い上がると、近くの物陰でそれを目撃した魔物兵が「ぎゃああ! あれは軍の最高機密資料! なんでそんなところに!?」と絶叫する。
(やばいぞ、あれを持ち帰られたらまずい……! でもどうする? 俺たちはどう動けば……!?)
慌てふためく魔物兵たちだが、ユナは全く気づかないままスタスタと歩いて行く。
どこかで誰かが怒鳴り声を上げているが、言葉がまるで耳に入っていないかのような自然体で通りすぎる。
「うーん、ここも町じゃなさそうだし……あ、あっちの山道を行けばいいのかな」
ユナは大きな看板のようなものを見つけ、「←○○町まで10キロ」などという文字を確認して、そちらの方向へ足を向ける。
背後では魔王軍の兵士たちが「なぜ止めない」「いや、止めたくても止められない」などと口論し、結局誰も何もしないままユナは基地を抜け出した。
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やがて開けた街道に出ると、空気も普通に澄んでいて、魔物の気配は感じられなくなる。
ユナは「ふう、やっと街道だ。よかった~」と伸びをし、次の目的地への看板を見て、また気ままに歩き始める。
まさかここが魔王軍の前線基地だったなどとはつゆ知らず、ただ道に迷っただけで通り過ぎてしまった形だ。
「んー、次の街まであと少しかな。お腹すいたなあ。おいしいもの食べたい」
そんな呑気な独り言を漏らしながら、ユナはバニーしっぽを揺らして旅路を行く。
一方、後に残された魔王軍は、謎のバニーガールがやって来たという報告と、作戦資料が散逸した事実に大パニック。「いったい何者だ?」と上層部は大いに混乱することになる。
しかし、当のユナはそんな事態に全く気づかず、相変わらずマイペースで新たな街へ向かっていた。いつか魔王軍との因縁が深まるのかもしれないが、それはまだ先の話――今はただ、「偶然迷い込んだへんてこな基地」くらいの記憶しかないのだろう。
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