【完】ベッドの隣は、昨日と違う人

月村 未来(つきむら みらい)

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第二章 流される夜

8話 級友との再会








家に着いた瞬間、玄関の空気がひどく静かに感じた。

(……あ、今朝……ゴミ捨てれてないじゃん)

靴を脱いだ時にふっと脱力して、ため息が漏れた。

昨日の夜のことを思い返しただけで、胸の奥がじんと重くなる。
甘くて、嬉しくて、でも最後だけ少し痛かった感じ。

「……もう、なにやってんだろ」

シャワーを浴びると、肌の熱が少しずつ落ち着いていく。
濡れた髪をタオルで押さえながらスマホを開くと、大地からLINEが来ていた。


📱
「みいな、久しぶり」
「金曜夜空いてる?富田がこっち出張で来るんだってさ。一緒に飲み行こうぜ」

(……大地)

思わず口元が、ほんの少しだけゆるむ。

早瀬 大地はやせ だいち。高校の同級生。
卒業後同じタイミングでこっちに来て、友達もほとんどいなかった頃、自然と一緒にいるようになった。
恋愛感情は一切ないのに、不思議と一番気負わなくていい"男"。

安心できる。
でも、それは“恋”とかじゃなくて、ただの地続きの信頼みたいなもの。

(大地……しばらく会ってない。
てか、富田くんも来るんだ……懐かし)

タオルを肩にかけたまま、返信を打つ。

📱
「え?富田くん?うん、行く行く!
場所とかまた連絡して~!」

送信してから、スマホを胸の前でぎゅっと抱え込んだ。

(……拓也くんのこと、大地に相談してみよっかな)

そう思った瞬間、胸がまた少し痛んだ。
たった二回会っただけの人のことなのに、誰かに相談したくなるくらい、心の形に影響してる。

みいなはベッドに倒れ込みながら、天井を見つめる。

(でも……大地相手なら、ちゃんと正直に話せるかも)

大地は、変な意味で勘ぐらないし、勝手に決めつけない。
“傷ついたこと”を言っても、余計な慰めも説教もせず、ただ聞くタイプだ。

(……金曜、ちょうどよかったかも)

胸のざわつきと、昨日の余韻の残り火がゆっくり混ざり合っていく。





金曜日。
仕事を終えて待ち合わせの店に着くと、ガラス越しにスーツ姿の男がふたり、ハイボールを片手に話していた。

(……3人で会うの、いつぶりだろ)

扉を開けた瞬間、二人が同時に顔を上げた。

「おー、みいな!」

最初に手を振ったのは大地。
ネイビーのスーツ、少し乱れたネクタイ、相変わらずの黒縁メガネと整ってないようで整ってる髪。
たった二ヶ月なのに、なんか“大人っぽくなった”と思った。

富田も立ち上がって笑ってくれる。

「うわ、みいな。元気そうでよかったわ」

「富田くんこそ!なんか……出張来てる人って感じ」

「そうか?もう帰るだけだから気楽だよ」

そう言いながら席に促される。
テーブルにはすでに軽いおつまみとドリンクが揃っていて、あっという間に昔の空気が戻った。

三人で話すと、当時の距離感がそのまま蘇る。

高校のバカみたいな思い出。
大地が怒られた話。
富田がバイトで失敗した話。

そして大地は、みいなが店員さんにメニュー渡すのを見ながら言った。

「……なんか、みいな大人っぽくなったよな」

「え?別に変わってないってば」

「やー、特に女の子は変わるって。
高校んとき、こんな髪とかカッコじゃなかったし」

「ちょ、高校って……7年前だし」

軽く笑い合うけど、その視線はどこか少しだけ鋭い。
ちゃんと“見られてる”って分かる感じ。

富田もそれに乗るように、

「みいなってさ、地元いた時より……
なんか綺麗になったよな」

「や、褒めすぎ。どうしたの今日2人とも」

「いや事実」

富田が肩をすくめ、大地が苦笑する。

(なんだろ……こんなの、ひさびさかも)

会話もお酒も進んで、気づけば21時前。
富田が時計を見て、名残惜しそうに立ち上がった。

「そろそろ新幹線最終だわ。明日デートなんで」

「え、彼女元気?」

「まあ……聞きたい?愚痴なら山ほどあるけど」

「やめとけ」と大地が笑いながら鞄を渡す。



「また来るわ!次はもっとゆっくり」

富田を駅の改札で見送ったあと、ホームに吸い込まれていく背中が見えなくなるまで、みいなと大地はしばらく並んで立っていた。

「……なんか、あいつ変わんねぇよな」

大地が小さく笑う。

「ね。高校のときと同じテンションでしゃべってたね」

「まあ、富田はそういうやつだしな。
──で、どうする?帰る?」

大地が腕時計に目を落とす。
駅前のネオンが、彼のスーツの肩に淡く反射していた。

「……もう一軒行きたくない?明日休みだし」

みいながそう答えると、大地は声をあげずに、ふっと笑った。

「じゃあもう1杯行くか。
駅の反対側に、うまい店ある」

そう言って歩き出す大地のペースは早くも遅くもなく、みいなが隣を歩きやすいちょうどいい速度だった。



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