朔名美優

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 隣の席の佐伯さんは、少し気になる存在だった。控えめで、いつも本を読んでいる。目が合うと小さく笑う、その仕草が妙に印象に残っていた。
 
 ある日の昼休み、彼女がそっと俺の机に小さな箱を置いた。
「⋯⋯あげる」
 それだけ言って席に戻っていった。

 違和感があった。その日、佐伯さんは眼帯をしていて、手首から先は白い包帯で覆われていた。長かった髪も、昨日より短くなっている。その髪は、自分で切ったのか、不揃いだ。顔も青白く、まるで生気が無い。

 教室の隅では噂が飛び交っていた。「鶏小屋で首のない鶏が見つかったらしい」「夜中に誰かが校庭を歩いてた」と。笑いながら話していたが、俺はどうしても箱が気になって仕方がなかった。
 佐伯さんの方をチラと見ると、眼帯をしていない片眼と目が合った。いつもと同じ小さな笑顔が返ってきた。

 放課後、机の中から箱を取り出す。
 掌に収まるほどの小さな箱。ちょうど鶏の卵が入るくらいの大きさ。
 装飾は全く無く、色は光を反射しない漆黒。
 軽いのに、確かに中に何かが入っている。
 そして、箱からは微かに血生臭い匂いが漂っている。

 俺は、結局、蓋に触れることができなかった。

 翌朝、教室に行くと佐伯さんの席は空だった。先生は「家庭の事情で急に転校になった」とだけ告げた。
 誰も深く詮索しようとはせず、噂話だけが増えていく。「夜中に体育館から子供の声がした」「鶏の死骸がまた見つかった」⋯。
 
 佐伯さんの机を改めて見る。机の中から、血の滲んだ包帯が一本垂れていた。

 帰宅後、鞄を開ける。そこには昨夜放り出したはずの小さな箱が、なぜか入っていた。
 震える手で取り上げるが、やはり開ける勇気は出ない。
 ただ耳を澄ますと、箱の中で、何かが微かに蠢く音がした。

           【了】
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