12 / 34
12.道行き
しおりを挟む
隣国行きの荷馬車と出会えたのは僥倖だった。
おかげで自分の足を擦り減らすこともなく遠くまで向かえる。
前金をキッチリ支払うことで対等な関係が結べ、道中は和やかだった。
「本当にそんなところまででいいのか?」
そう問う行商人さんに迷いなく頷けば、
「別に通り道だから構わねぇけどもよ。随分と辺鄙な目的地だなぁ」
「そうなんですか?」
「そうなんですかって…なんだぁ、何も知らねぇで向かってんのか?」
「北地には自然豊かで穏やかな田舎町が広がっているという話を聞いて」
「田舎町っつうか集落みたいなもんだな。時々行商人もやってくるから、真新しいものはなくとも確かに平穏で、隠居生活なんかにはピッタリだろうよ」
しかしなぁ、と彼は続ける。
「時が止まったような場所だぞ。俺なんかは退屈で死んじまうだろうな。実際若者は街に出てきてるしな。それにいくら魔法障壁があるって言っても、未開拓の大森林が隣接してるってのも気掛かりだろ」
「未開拓の──イアルイの大森林ですね。本で読んだことがあります」
「アンタ、いくら税から逃れたくなったとしてもあの森には足を踏み入れるなよ。資源求めて入っていった奴らが何人も帰らなくなった事例を知ってる。一見美しいだけの森だが、奥地じゃ息を吸うだけで肺が爛れるって話だ」
は、肺が……。
思わず自分の胸元を摩った。
「数百年昔は人も暮らせてたらしいが、何せ資源が豊富だからな。手当たり次第に回収やら伐採やらされて、次第に森自体が人間を拒むように過剰なマナを放つようになったんだと」
なるほど。
そういうわけなら文句のつけようもない。
「まぁレグニア領はのんびりした場所だ。なんせ領主が変わり者だしな。細々とした暮らしならまず問題ないだろうよ」
頑張りな、そう行商人さんは激励で締めくくった。
どうにもわたしは憔悴しきったような雰囲気を漂わせているらしく「若ぇのに苦労人か」と、酷く憐れまれてしまったけれど、受け取った激励と共に前向きに生きて行こうと思う。
おかげで自分の足を擦り減らすこともなく遠くまで向かえる。
前金をキッチリ支払うことで対等な関係が結べ、道中は和やかだった。
「本当にそんなところまででいいのか?」
そう問う行商人さんに迷いなく頷けば、
「別に通り道だから構わねぇけどもよ。随分と辺鄙な目的地だなぁ」
「そうなんですか?」
「そうなんですかって…なんだぁ、何も知らねぇで向かってんのか?」
「北地には自然豊かで穏やかな田舎町が広がっているという話を聞いて」
「田舎町っつうか集落みたいなもんだな。時々行商人もやってくるから、真新しいものはなくとも確かに平穏で、隠居生活なんかにはピッタリだろうよ」
しかしなぁ、と彼は続ける。
「時が止まったような場所だぞ。俺なんかは退屈で死んじまうだろうな。実際若者は街に出てきてるしな。それにいくら魔法障壁があるって言っても、未開拓の大森林が隣接してるってのも気掛かりだろ」
「未開拓の──イアルイの大森林ですね。本で読んだことがあります」
「アンタ、いくら税から逃れたくなったとしてもあの森には足を踏み入れるなよ。資源求めて入っていった奴らが何人も帰らなくなった事例を知ってる。一見美しいだけの森だが、奥地じゃ息を吸うだけで肺が爛れるって話だ」
は、肺が……。
思わず自分の胸元を摩った。
「数百年昔は人も暮らせてたらしいが、何せ資源が豊富だからな。手当たり次第に回収やら伐採やらされて、次第に森自体が人間を拒むように過剰なマナを放つようになったんだと」
なるほど。
そういうわけなら文句のつけようもない。
「まぁレグニア領はのんびりした場所だ。なんせ領主が変わり者だしな。細々とした暮らしならまず問題ないだろうよ」
頑張りな、そう行商人さんは激励で締めくくった。
どうにもわたしは憔悴しきったような雰囲気を漂わせているらしく「若ぇのに苦労人か」と、酷く憐れまれてしまったけれど、受け取った激励と共に前向きに生きて行こうと思う。
1,153
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います
木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。
サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。
記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる