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序章 決闘の心得
第一話・大切で大好きな家族
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五年前、私は生まれ変わった。
弱い自分から、強い自分へと。
集中力を鍛え、魔法を磨き、病気でも舐められない力を手にした。
苦しかったけど、充実した日々。
「ま、待った! 俺の負けだ、もうお前に手を出さないから許してくれ!」
『決闘』で打ち負かした男の子を前にし、私が変わるきっかけとなったできごとが蘇った。
***
情けないこの体を包み込むのは、優しさだった。
暖かく、心地よく、安心する。いつまでも浸かっていたい、温もり。
「ゴホッ……グッ……ぅ……!」
しかし、胸から込み上がるのは不快感だった。喉に込み上げてくるモノを抑えることとはできず、吐き出してしまう。
「っと、また血ね。大丈夫?」
ママの心配げなまなざしを受ける。
別に甘い気持ちが胸いっぱいで、苦しくなった訳ではない。念のために言うと、パパとおママのことも大好きだ。
これは、私が産まれた頃からの病気。
魔法の素、星素が毒になる、百万人に一人の特殊なものだ。
でもソレは、特別な才能の裏返しで……。
私の両親も、悲しむべきか喜ぶべきか。判断がつかなかった。悩んでいるところを、何度も目にしたことがある。
「さあ、シファー。もうベッドで休みなさい?」
女性らしい柔らかそうな手が、そっと口元を拭ってくれる。
「さっ……て。シファーは軽いな。ベッドまで連れて行ってあげよう」
男らしい太くてたくましい腕が、お姫様抱っこしてくれる。
私に向けられる愛情は、もうろうとする意識でもハッキリ伝わってきた。
階段を昇る足音が響き、二階へ。木の床が軋む音を耳にしながら、見慣れた部屋のベッドに寝かされる。
視界が変わる。白い、モコモコした天井。布団をかけられた私は、この自分の部屋が眉のように感じていた。
「キュゥゥ……」
不意に、細々とした声が耳に届く。まるで笛の音色のような響きで、頭の痛みを少しづつ沈めていくようだった。
「ありがとう、ケルル……」
幼さのあるつぶらな瞳は、私を心配気に見つめている。細長い、しなやかな体をくねらせてベッドに上ってきた。
そのまま布団に潜り込むのを見ると、腕と肩に何かが巻き付く感覚が伝わる。考えるまでもなく、白い蛇龍・ケルルの体だ。ひんやりとした鱗の感覚が、胸に安らぎを与えてくれる。
心地よい疲労感に襲われながら。目を閉じ、眠りにつく。
真っ暗な視界の中、自分の家族が瞼の裏に浮かんできた。
パパ、ママ、ペットのケルル。
何が起こっても誰もが優しくしてくれて、私を労わってくれる幸せな家。
それでも、満足のいく暮らしとはいかなかった…。
弱い自分から、強い自分へと。
集中力を鍛え、魔法を磨き、病気でも舐められない力を手にした。
苦しかったけど、充実した日々。
「ま、待った! 俺の負けだ、もうお前に手を出さないから許してくれ!」
『決闘』で打ち負かした男の子を前にし、私が変わるきっかけとなったできごとが蘇った。
***
情けないこの体を包み込むのは、優しさだった。
暖かく、心地よく、安心する。いつまでも浸かっていたい、温もり。
「ゴホッ……グッ……ぅ……!」
しかし、胸から込み上がるのは不快感だった。喉に込み上げてくるモノを抑えることとはできず、吐き出してしまう。
「っと、また血ね。大丈夫?」
ママの心配げなまなざしを受ける。
別に甘い気持ちが胸いっぱいで、苦しくなった訳ではない。念のために言うと、パパとおママのことも大好きだ。
これは、私が産まれた頃からの病気。
魔法の素、星素が毒になる、百万人に一人の特殊なものだ。
でもソレは、特別な才能の裏返しで……。
私の両親も、悲しむべきか喜ぶべきか。判断がつかなかった。悩んでいるところを、何度も目にしたことがある。
「さあ、シファー。もうベッドで休みなさい?」
女性らしい柔らかそうな手が、そっと口元を拭ってくれる。
「さっ……て。シファーは軽いな。ベッドまで連れて行ってあげよう」
男らしい太くてたくましい腕が、お姫様抱っこしてくれる。
私に向けられる愛情は、もうろうとする意識でもハッキリ伝わってきた。
階段を昇る足音が響き、二階へ。木の床が軋む音を耳にしながら、見慣れた部屋のベッドに寝かされる。
視界が変わる。白い、モコモコした天井。布団をかけられた私は、この自分の部屋が眉のように感じていた。
「キュゥゥ……」
不意に、細々とした声が耳に届く。まるで笛の音色のような響きで、頭の痛みを少しづつ沈めていくようだった。
「ありがとう、ケルル……」
幼さのあるつぶらな瞳は、私を心配気に見つめている。細長い、しなやかな体をくねらせてベッドに上ってきた。
そのまま布団に潜り込むのを見ると、腕と肩に何かが巻き付く感覚が伝わる。考えるまでもなく、白い蛇龍・ケルルの体だ。ひんやりとした鱗の感覚が、胸に安らぎを与えてくれる。
心地よい疲労感に襲われながら。目を閉じ、眠りにつく。
真っ暗な視界の中、自分の家族が瞼の裏に浮かんできた。
パパ、ママ、ペットのケルル。
何が起こっても誰もが優しくしてくれて、私を労わってくれる幸せな家。
それでも、満足のいく暮らしとはいかなかった…。
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