二面性男子の大恋愛

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前編

芽生える放課後

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 毎日お昼を一緒に過ごすうちにお互いギクシャクした感じはなくなってきて、主に本の話題で盛り上がるようになった。
 田舎暮らしで娯楽が図書館に籠もることしかなかった自分は、読書好きって言うよりパラパラと読んでいろんな知識を得たり物語を知るのが好きになった。だから本で得た知識や雑学はそこそこある。
 コウちゃんも趣味が読書と映画鑑賞らしくて会話が途切れることがなかった。

(コウちゃんインテリだなぁ。非の打ち所がない……)


「宮島くん一緒に組もう」

 体育の時間も準備体操のペアをコウちゃんが誘ってくれた。
 中学の時はこの時間気まずくて苦手だったけど今はコウちゃんのおかげでホッとしてる。

 前屈するとコウちゃんが後ろから背中を押してくれた。
 普段友だちとスキンシップ取ることがないからかな……コウちゃんの手が背中に触れてることにドキドキした。

「ねぇ、宮島くん」
「はいっ」

 コウちゃんが耳に近い所で急に喋ったからドキッとしてしまった。

「今日放課後空いてる?」

(え、えっ、放課後……これってもしかして、)

「今日、バイトもないし空いてるよ!」
「ちょっと買い物付き合ってくれない?」
「うん!もちろん!いいよっ!!」

(うわぁー!!!!)

(放課後友だちと遊ぶのなんて小学校以来初めてだ!!!!)

「古本屋に行きたいんだけど、どうかな?」
「古本屋……!」

 何て甘美なフレーズなんだろう……コウちゃんと一緒に古本屋絶対楽しい。

⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺

 放課後、コウちゃんと玄関ホールで待ち合わせして繁華街に向かった。

 電車に乗って流れていく景色を眺める。田舎にいた頃では考えられない状況だ。

(友達と制服で繁華街に遊びに出かけるなんてドラマの世界の話だと思ってたな~……)

 嬉しくなってコウちゃんに目を向けると同じように景色を眺めていたコウちゃんがこちらを見てニコッと笑いかけてくれた。
 俺は何だか顔が熱くなって、でもコウちゃんにバレるのが恥ずかしくて深く俯いた。

「次で到着だよ」

 コウちゃんが少し顔を寄せて話しかけてきた。それも何だか心をソワソワさせた。

(コウちゃんの一挙手一投足が完璧すぎてドキドキしてしまう……)

 コウちゃんが案内してくれた古本屋さんは街の外れにあった。
 コウちゃんが言うには、ここのような昔ながらの古本屋さんはどんどんなくなっちゃったらしい。
 道場の師範が今入院中だから暇つぶしの本を持って行ってあげたいらしい。
 その話で知ったけど、コウちゃんは俺たちの出会った道場の現役生だそうだ。

(コウちゃん、継続してるんだ……かっこいいな……)

「宮島くん」
「!!」

 本を眺めているとコウちゃんが小声で声をかけてきた。

「これ、この間言ってた本かも」

 手渡されて少し中読みすすめた。

「……あ、確かに。この本だ」

 コウちゃんの方を向くと嬉しそうな笑みを返してくれた。
 この本は田舎にいた頃に読んだけど、タイトルも内容も曖昧にしか覚えてなくて、物語のオチと本の装丁だけ記憶に残っていた。
 以前コウちゃんとの話の中で話題が上がってからコウちゃんが「見つけ出したい」って言ってて今見つかった。

「……すごい。あんな曖昧な情報だけで見つけられるなんて」
「俺もこの表紙デザインが印象に残ってたから」
「……」

(あぁ……こういう何気ないやり取りが心地良い)

 友達ってこういうことしてくれるんだって喜びが溢れる。いや、多分こんなに好奇心を擽ってくれるのはコウちゃんだからだ。

「宮島くん、まだ時間ある?」
「うん!全然余裕あるよ!」
「ショッピングモールの方に行こう」
「うん!」

 コウちゃんがプレゼントの本を購入して店を出た後、そう声をかけてくれた。
 ショッピングモールは何だか既視感があった。見慣れない店が並んでるけど、何だか建物の構造が見たことあるものな気がしてキョロキョロ周りを見回した。

(あ……)

 思い出した。昔コウちゃんとお母さん二人と一緒に遊びに来たんだ。それで俺ここで迷子になった……。
 天井は高いし、人は多いし、もうこのまま1人ぼっちで家に帰れないのかもって思えて泣きそうになってたら、コウちゃんが見つけてくれた。

『タケくん』

 俺の名前を呼んで手を握ってくれた。
 その後ははぐれないようにずっと手を繋いでいてくれたんだ。

「宮島くん、こっちだよ」

 コウちゃんが誘ってくれたそこは、海が一望できる広場だった。イルミネーションが輝いていて幻想的な光景に思えた。
 田舎は俺にとっては真っ暗な世界だった。夜は街灯もなくて、蛍なんかもいないし、とにかく真っ暗だった。
 だから、コウちゃんと見るこの景色が宝石の前に佇んでるような贅沢で価値のあるものに思えた。

「……昔も一緒に見たよね、この光景」

 コウちゃんの顔を覗きこんでたずねた。
 光に照らされたコウちゃんはいつもよりさらに魅惑的だった。

「覚えててくれた?」
「うん。『また一緒に来ようね』って約束も覚えてる」
「嬉しい。約束覚えてくれてたことも、また一緒に来れたことも」

 コウちゃんがまた嬉しそうに笑うから胸がギュッてなる。

(昔みたいに、手……繋ぎたいな……)

(今……無性にコウちゃんと触れ合いたい……)

(何だろう、この気持ち……、)

 コウちゃんを見てると心臓がどうにかなってしまいそうで、景色を眺めて気持ちを誤魔化した。

 帰りの電車は混雑していてコウちゃんと身体がくっつく程近い距離だった。

(コウちゃん……空手してるから腕とか胸逞しい……)

 近くにあるそれに気づいてしまうと、さらにドキドキが増してしまった。

(俺ってゲイだったのかな……)

(いや、でも農作業してる逞しいお兄さんたちにドキドキしたことないから……多分コウちゃんが特別かっこよくてドキドキしてるんだ……)


 俺は今になってようやく気づいた。


(俺、コウちゃんに恋してるんだ)


「宮島くん……」
「は、はい……っ、」

 コウちゃんが耳元で名前を囁いた。
 顔が上げれられない……。

「時間が合う時は放課後一緒に帰りたい……」
「うん……」
「これまで一緒にいられなかった分取り戻したいんだ」

 俺は思わず顔を上げた。
 そこにはあの頃より美丈夫に成長したコウちゃんがいた。表面上は穏やかな笑顔だけど、目が何か欲求を訴えかけてくるように見えた。

「俺も一緒にいたい……」

 無意識で言葉に出していた。

「本当?」
「一緒にいろんなもの見たり、味わったりしたい」
「うん、俺もだよ。今度また一緒に出かけよう」
「うん!」

 コウちゃんと再会してから毎日がキラキラしてる。

 その夜、コウちゃんを好きだと自覚したことで「明日も会える」って思ったら興奮して眠れなくなった。
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