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序章
どうもはじめまして、向井真央です。
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〇
「……真央……泣かないで、真央は悪くないってば」
彼女は必死になっておれのことを抱き締めて泣いてくれる。
「でも、おれがちゃんとしなかったから、もっと一緒に居てやれなかったから彼女は……!」
耳元で、彼女は叫ぶ。
「真央は騙されてる!……いい?……悪い人に利用されたんだよ、真央は! 真央はいちいち道徳がどうだ、倫理的にああだって言うけど、そんなの、理想でしかない!……相手が悪い人だったら、なんにも残らないんだよ!」
「おれは……騙されていた……?」
〇
「……あれ、ここは、どこだ?」
目を覚ますと、一面真っ白の部屋に身体を横たわらせていた。蛍光灯が眩しかった。左腕には針が刺さっていて、気持ちが悪かった。そして右手は、ひとりの女の子に握られている。このへんの中学生だろう彼女は、小さな寝息を立てていた。
「あの、すみません、君、起きてくれないか。あの、おれは、おれは――誰ですか」
揺すっているうちに、彼女はちょっとずつ顔を上げて、まどろみの中にこちらを捉えたようだった。
「え、あ……起きた……お兄ちゃんが起きた!」
なんの恥じらいもなく、こちらに抱き着いてくると、頬ずりをしながら枯れた声で何度も「よかった」と繰り返していた。
「おい、おれだって健全な男だ。そんなにべたべたされるとなにするかしれないぞ」
「そ、そんなこと急に言い出すなんてどうしたの。……でも、やっとウチのこと、女の子と思って見てくれたんだね……!」
「やめろって! 嫁入り前の女だろ!」
「ううん、違うって、昔に結婚しようって約束したじゃん?」
「そんなこと……」
そんなことしたのか?
というかおれは誰なんだ?
そしてこの子はなんなんだ?
そんなことを考えていると、カーテンから一人入ってきた。
「向井くん……! 起きたのですね!」
白衣を着た男の人が、こちらに寄ってくる。
「よかった……ああ、安静にしていてください、痛むでしょう?」
確かに左脚にはギプスがつけられていたが、今の今まで気にしていなかった。
「あの……鏡はありませんか」
「あるよ、ちょっと待っててね」
そう言ってカーテンから飛び出ると、またしばらくして、カーテンが翻った。手鏡を渡してくれた。
「ありがとうございます」
そうして、自分の顔を見る。――包帯でぐるぐると囲まれた顔は――やっぱり、誰だ?――いや、おれか。おれはおれなのだろうけど、おれは、なんなんだ?
そう思って、ちょっとずつ包帯をほどいていく。「あ、おい!」と白衣の男は口を挟んだが、さっさと取り払ってしまう。――そこには艶々の肌があった。
そのとき、男は驚きを隠せないようで、
「嘘、だろう……どうして……打撲や擦り傷はいったいどこに……!」
そうして、おれは、女学生をどかして、ベッドのわきに立ち上がって、ギプスも無理矢理に引っこ抜いてしまう。だいぶ臭ったが、ちゃんと立つことができた。
「おれは、きっとなんともないようです。ですから――教えてください、いい加減、おれが誰なのかを」
「お兄ちゃん……嘘でしょ……まさか、」
男は首肯して、
「あなたの怪我に関しては色々と不自然なところが多いようですが……記憶喪失なんですね」
〇
おれはこの後、様々な質問をされ、やはり記憶喪失であることを告げられた。
具体的には、人物に関しての記憶だけ、ばっさりと失っていた。
だけれども、例外があって、
「二宮梓、滝沢弓弦、琴田藍花」
この三人の女性に関する記憶だけは、なぜか残っていた。
そして、彼女らの共通点は、
「おれの、元カノ……」
「……真央……泣かないで、真央は悪くないってば」
彼女は必死になっておれのことを抱き締めて泣いてくれる。
「でも、おれがちゃんとしなかったから、もっと一緒に居てやれなかったから彼女は……!」
耳元で、彼女は叫ぶ。
「真央は騙されてる!……いい?……悪い人に利用されたんだよ、真央は! 真央はいちいち道徳がどうだ、倫理的にああだって言うけど、そんなの、理想でしかない!……相手が悪い人だったら、なんにも残らないんだよ!」
「おれは……騙されていた……?」
〇
「……あれ、ここは、どこだ?」
目を覚ますと、一面真っ白の部屋に身体を横たわらせていた。蛍光灯が眩しかった。左腕には針が刺さっていて、気持ちが悪かった。そして右手は、ひとりの女の子に握られている。このへんの中学生だろう彼女は、小さな寝息を立てていた。
「あの、すみません、君、起きてくれないか。あの、おれは、おれは――誰ですか」
揺すっているうちに、彼女はちょっとずつ顔を上げて、まどろみの中にこちらを捉えたようだった。
「え、あ……起きた……お兄ちゃんが起きた!」
なんの恥じらいもなく、こちらに抱き着いてくると、頬ずりをしながら枯れた声で何度も「よかった」と繰り返していた。
「おい、おれだって健全な男だ。そんなにべたべたされるとなにするかしれないぞ」
「そ、そんなこと急に言い出すなんてどうしたの。……でも、やっとウチのこと、女の子と思って見てくれたんだね……!」
「やめろって! 嫁入り前の女だろ!」
「ううん、違うって、昔に結婚しようって約束したじゃん?」
「そんなこと……」
そんなことしたのか?
というかおれは誰なんだ?
そしてこの子はなんなんだ?
そんなことを考えていると、カーテンから一人入ってきた。
「向井くん……! 起きたのですね!」
白衣を着た男の人が、こちらに寄ってくる。
「よかった……ああ、安静にしていてください、痛むでしょう?」
確かに左脚にはギプスがつけられていたが、今の今まで気にしていなかった。
「あの……鏡はありませんか」
「あるよ、ちょっと待っててね」
そう言ってカーテンから飛び出ると、またしばらくして、カーテンが翻った。手鏡を渡してくれた。
「ありがとうございます」
そうして、自分の顔を見る。――包帯でぐるぐると囲まれた顔は――やっぱり、誰だ?――いや、おれか。おれはおれなのだろうけど、おれは、なんなんだ?
そう思って、ちょっとずつ包帯をほどいていく。「あ、おい!」と白衣の男は口を挟んだが、さっさと取り払ってしまう。――そこには艶々の肌があった。
そのとき、男は驚きを隠せないようで、
「嘘、だろう……どうして……打撲や擦り傷はいったいどこに……!」
そうして、おれは、女学生をどかして、ベッドのわきに立ち上がって、ギプスも無理矢理に引っこ抜いてしまう。だいぶ臭ったが、ちゃんと立つことができた。
「おれは、きっとなんともないようです。ですから――教えてください、いい加減、おれが誰なのかを」
「お兄ちゃん……嘘でしょ……まさか、」
男は首肯して、
「あなたの怪我に関しては色々と不自然なところが多いようですが……記憶喪失なんですね」
〇
おれはこの後、様々な質問をされ、やはり記憶喪失であることを告げられた。
具体的には、人物に関しての記憶だけ、ばっさりと失っていた。
だけれども、例外があって、
「二宮梓、滝沢弓弦、琴田藍花」
この三人の女性に関する記憶だけは、なぜか残っていた。
そして、彼女らの共通点は、
「おれの、元カノ……」
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